フランス語を勉強している。
その理由が、留学でもなく観光でもなく、
「フランス語なまりを身に付ければ、英語人(主にアメリカ人)へのハッタリになる」
という斜め上が過ぎるもので、友人からは絶対にホメていないと確信できる
「お前、すげーなー」
という言葉を各所でいただいている。
そもそも、われわれ日本人が英語、特に英会話に苦手意識があるのは、学校教育の受験英語への偏りや、日本語と英語の言語的距離などとともに、
「中高6年間(人によっては小大もプラス)も勉強したのに、自分たちはロクに英語も話せない」
というメンタル的要素も大きいと思われる。
自分の母語でもない言語に劣等感を持つなど意味不明だし、プラスなこともまったくないので、私としてはまず、
「英語ができないから恥ずかしい」
という不必要な気後れをなくすべく工夫すべきと考えているわけだ。
しかも、できるだけインスタントでお手軽なもので。
そこで以前、私が使っていたのが外国人に
「ユースピーク、イングリッシュ?」
と尋ねられたときの返し技。
たいていの日本人はこう来られると、あわててしまい「ノー」とか、せいぜい「ア、リトル」とか答えるけど、なんせ英会話になれていないものだから、そこで口をついて次の言葉が出てこない。
そこで「ダメだ……」と落ち込んでしまうわけだが、私はそういわれると、「ア、リトル」と答えた後に、こう続けるのだ。
「Sprechen Sie Deutsch?」
シュプレッヒェン・ジー・ドイチュ?
和訳すれば「ドイツ語が話せますか?」
前回も書いたが、私は学生時代ドイツ文学を専攻しており、わりとまじめにドイツ語を勉強していた。
といっても、過去の話でかなり忘れているし、あくまで「文学」専攻なので、「読む」に偏って会話などはうまくないが、それでも「中2独語」くらいならなんとかなったもので、
Gewalt löst tatsächlich alles.
(やはり暴力はすべてを解決します)
Er ist der Schwächste unter den Vier Königen.
(彼は四天王の中でもっとも弱いです)
Der Vorgesetzte sagte: 'Du solltest nach Hause gehen, denn du hast 39 Grad Fieber.
(その上司は「90度の熱があるのだから、故郷に帰るべきだ」と言った)
くらいなら辞書アリでなら読めるもの。
そこで逆襲である。
「英語話せる?」
「少しね。で、キミの方はドイツ語を話せるかい?」
当然、答えは「ノー」であろう。それには「あー、そっかー」とつぶやき、少し考えてからニッコリと、
「OK,English please」
こうすれば英語こそ苦手だが、あたかもドイツ語なら流暢であるという印象をあたえることができる。
そこからも、こちらがうまく英語が出てこないときには困ったように、
「Also……(えーっと)」
「Wie sagt……auf Englisch?……(それ、英語だとなんて言うんだっけ)」
などと、ところどころドイツ語をはさみこみ、たまに、
「残念だね。キミがドイツ語を話せれば、もっと会話が弾んだのにね。でも、キミのせいじゃないよ。英語がうまくない、ボクも悪いんだ」
とでも言いたげな、困った笑みを浮かべれば完璧である。
これがいつもの
「ユースピーク、イングリッシュ?(最初のDoは省略されることが多い)」
「ノー」
だと、まるで英語のできない、こちらだけに責任があるように見えるが、
「英語話せる?」
「少しだけどね。キミはドイツ語を話せるかい?」
「ノー」
だと、「どっちもアナタの言葉が話せない」ことになり、ドローに持ちこめる。
いやむしろ、むこうのドイツ語はゼロなのに、こっちは「中2英語」くらいは使えなくもないので、ポイント総数では私の方が勝利しているとも言えるのだ。
これにより、私の英語力は据え置のままにもかかわらず、ずいぶんとこちら側の劣等感が緩和され、かなり対等などころか、むしろこっちが「上から目線」なメンタルで会話することすら、できるわけだ。
もっとも、この「ミラーガール作戦」の弱点として、「ドイツ語話せる?」のカウンターに元気よく返ってくることもある。
「Ja,Natürlich!(もちろんさ!)」
失敗の巻である。
ドイツ語は第2外国語の中でもメジャーなので、ときおりこいういうことがある。
なので、「It’s all Greek to me.」(「それは私にとってギリシャ語だ」=「チンプンカンプン」の意)という言葉もあるように、よりなじみのないマイナー言語を押さえておくのがいいかもしれない。
みなさまも、ドイツ語に限らず他の言語の発音のさわりだけ学んで、
「キミがブルガリア語を話せないのは残念だ」
「ベンガル語同士だったら、もっと深い話ができたのにね」
などと「話せないキミを責めないよ」というスタンスで「両成敗」に持って行き、ポジショニング争いを制してほしい。
(スペイン語学習編に続く)