西山朋佳女流三冠(白玲・女王・女流王将)のプロ編入試験が、いよいよ近づいてきた。
7月の朝日杯1次予選で阿部光瑠七段を破った西山は、公式戦13勝7敗で見事に条件をクリア。
福間香奈女流五冠に続いて、女流棋士で2人目の編入試験チャレンジとなったのだった。
これは「伊藤匠叡王」誕生に続いて話題性たっぷりの事態であり、盛り上がり的にも大いによろこばしい。
さらに言えば、私はまだ奨励会時代から西山将棋に魅せられたファンであり、ここでも何度もその「剛腕」ぶりを紹介している。
なもんで、もしこれで合格し
「初の女性棋士誕生」
となればもう、
「まーあれやな。朋佳もプロなって、いろいろがんばっとるみたいやけど、オレが育てたようなもんや」
なんて鼻高々なのである。
ということで、今回はトモちゃん応援企画で西山将棋を。
紹介するのは、持ち味の腕力こそあまり出ていないが、大舞台ゆえにか印象に残る不思議な逆転劇。
2020年、第10期リコー杯女流王座戦は、西山朋佳女流王座(女王・女流王将)に里見香奈女流四冠が挑んだ。
その実力と、ともに奨励会で三段まで進んだことなどもあいまって、なにかと比較されがちだったこの2人。
特に西山が奨励会を退会し、女流棋士に専念してからは(女流王座戦、マイナビ女子オープン、女流王将戦は奨励会員でも出場できた)完全な「2強」時代に突入。
タイトルを2分し、他の追随をなかなかゆるしていないのは、今でも続いているところだ。
このシリーズも両者ゆずらず、2勝2敗で最終局に突入。
ここでも熱戦が期待されたが、この将棋が意外や序盤から差がつく展開となってしまう。
図は里見が▲26銀と、くり出したところ。
まだ駒の損得などはないが、後手の飛車が息苦しく、先手ペース。
西山も長考に沈み、
「ここでは苦しくしたと思った」
放っておくと、▲36歩、△同歩、▲35銀打で飛車を殺されて終了。
あせらされた後手は△15歩、▲同歩、△25歩、▲17銀とバックさせてから△45歩と暴れていくが、先手は手に乗って受けながら押さえこみにかかる。
▲31角と打ったところでは、どう見ても先手が優勢。
作戦勝ちから、相手がムリに動いてきたところをいなして優位を拡大していく、いわゆる
「プロ好みの展開」
というヤツだ。
完全に網にからめとられた形の西山は、あれこれと必死にもがくが、形勢の差は広がるばかり。
西山は昨年度の三段リーグで14勝4敗という、通年なら文句なしに四段になれるという成績を残しながら、頭ハネを喰らうという不運に見舞われた。
そのショックなどもあってか、
「今年はいちばんの不調になった時期があって、不完全燃焼で負けてしまう将棋が多かった」
一方の里見は絶好調。
四冠王の地力をこれでもかと見せつけ、最強の敵を追いこんでいく。
局面的にも、指し手の流れ的にも里見必勝態勢。
先手玉は上部が抜けており、飛車角の利きも頼もしく、どうやっても負けようのない形。
だれもが、このままつつがなく終了すると信じていたのだが……。
(続く)