棋士編入試験に向けて 西山朋佳vs里見香奈 2020年 第10期リコー杯女流王座戦 第5局 その2

2024年09月08日 | 女流棋士

 前回の続き。

 西山朋佳女流王座(女王・女流王将)に里見香奈女流四冠が挑んだ、2020年、第10期リコー杯女流王座戦は、2勝2敗で最終局に突入。

 両者得意の相振り飛車から、里見が序盤でうまく指し必勝態勢を築く。


 
 

 

 局面は終局間近。
 
 ソフト換算で先手が+2000点以上で、逆転の余地はない。
 
 この香成も「最後のお願い」や「思い出王手」にすらならない、ほとんど「指しただけ」という手だ。
 
 ここではなにも考えず、▲36玉とかわしておけば、問題なく先手が勝ちだった。

 


 
 先手玉は上部が抜けており、飛車角守備力が絶大で、これ以上せまる手がない。
 
 これだと、そこで西山の投了、里見が王座を奪取となったことだろう。
 
 だが里見は4分考えて、▲同玉と取った。

 度胸のある手で、もちろんこれでも先手勝ちだが、西山からすればもう少し手が続けられそうとなるところだろう。
 
 △13飛王手角取りに打って、それは▲16角成で受かるが、△同飛と切り飛ばして、▲同玉△38角
 
 


 
 
 この王手金取り▲27飛打でピッタリ受かるけど、後手は「こんにゃろ!」とばかりに△75銀と食いちぎって、▲同歩△43角と今度は王手成銀取り
 
 
 
 
 楽勝ムードだった先手だが、なにやら喰いつかれてイヤな感じではある。
 
 ▲34歩△32角▲22飛成△31歩▲37金△27角成▲同玉△29飛
 
 
 
 
 
 このあたり、依然として里見が勝勢だが、少しずつだが先手にスッキリしない手が続いて、決め手を逃している感がある。
 
 一方、局後の感想戦で、
 
 


 「4回ほど諦めかけた」



 
 
 と語った西山は、開き直ってドンドンせまっていく。
 
 この迫力に押されたのか、ついに里見に大ミスが出た。
 
 
 
 


 
 後手が△27香成と執念の追走を見せてくるのに、▲31とと取ったのが「ココセ」(相手に「ここに指せ」と命令されたような手のこと)のような悪手。 
 
 すかさず△42香で、これが横利きを遮断しながら、先手玉の上部を押さえるという、手がしなる下段香

 

 

 


 
 ここでは▲48銀と引いて、△35桂には▲46玉△48竜▲35玉


 
 
 
 
 
 
 自陣の荷物を全部捨て、バルーンで上部に脱出すれば、危ないようでも、と金と竜が大きく入玉を防ぐのはむずかしかった。
 
 悪手に動揺したのか、ここで▲48銀と引いたのが、証文の出し遅れという敗着
 
 やはり△35桂と打たれて、今度は上に逃げたときに△33銀としばる手があって逃げられない。
 
 と金の位置が▲32のままなら、△33銀が打てないのだから、▲31とがいかに響いているのか、わかるではないか。
 
 やむをえない▲57玉に、△48竜▲66玉(▲同玉は△47金で詰み)、△68竜とボロボロ駒を取って、ここで完全に逆転
 
 
 
 
 


 「△68竜が詰めろだったので勝ちになったと思った」



 
 
 と西山も言うように、勝つときはすべての駒が理想的な形に配置されるもので、まさに
 
 
 「勝ち将棋鬼のごとし
 
 
 里見からすれば、やりきれない流れだが、それでも最後の執念を見せ、▲65金(!)、△64金▲43角(!)で、
 
 
 「詰めろ逃れの詰めろ」
 
 
 という攻防の勝負手を放つ。

 

 


 
 △65金▲同角成と取って、△64金にも▲同馬(!)。
 
 
 
 
 
 執念の追いこみというか、これこそまさに「最後のお願い」だが、逆転して冷静になっていた西山は乱れなかった。
 
 ここを△同歩と取ってしまうと、▲63銀△同玉▲55桂大トン死だが、先に△57銀王手を決めるのが決め手になった。
 
 ▲55玉△64歩と取れば、▲55桂が打てず、後手玉に詰みはない。
 
 以下、里見も投げきれずねばるが、西山が落ち着いて対処し勝利
 
 これで3勝2敗で最大のライバルをしりぞけての防衛劇。
 
 控室からは、
 
 


 「これが逆転するんだ」



 
 
 との声が漏れたという。
 
 西山の追いこみもすごかったが、王者である里見がこんなに乱れるのも、めずらしい光景だ。
 
 もし西山が順当に負けていたら、三冠四冠が、二冠五冠になっていたのだから、実に大きな大逆転だったと言えるだろう。

 


 (西山の伝説的名手△45同桂こちら

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