クラウス・コルドン『ベルリン三部作』 皇帝とかスパルタクス団とかNSDAPとか空襲とか

2024年09月22日 | 

 クラウス・コルドン『ベルリン1919』『ベルリン1933』『ベルリン1945』を読む。

 ドイツの作家であるクラウスコルドンが、第一次大戦敗戦後の混乱期からヒトラーの台頭、そしてふたたびの敗戦による、その崩壊までを描いた『ベルリン三部作』と呼ばれる児童文学の大作である。

 こないだ、ドイツのドラマバビロンベルリン』を紹介したので、その流れで読み返してみたのだが、まーこれがおもしろい。

 舞台になるのはベルリンの貧民街ヴェディング地区

 主人公はそこに住む、ゲープハルト一家だ。

 第1部の『1919』は第一次大戦後、ヴィルヘルム二世の「ドイツ帝国」が崩壊した時代。

 カールリープクネヒトローザルクセンブルクに率いられた「スパルタクス団」の興亡と、混乱期の大人たちのやり取りを見つめる少年ヘルムート(ヘレ)・ゲープハルトの物語。

 第2部の『1933』は貧窮絶望が支配するドイツでNSDAP(ナチスの正式名称)が着々と勢力を伸ばすころ、共産主義にシンパシーを抱くヘレと仲間たちが、その流れに対抗する。

 だが彼らも一枚岩にはなれず、思想の違いから家族友人との間に齟齬が起きつつあり、ついには全体主義勝利する瞬間までを15歳ハンスゲープハルトが見つめる。

 第3部『ベルリン1945』。敗戦が決定的になったドイツで、空襲におびえながら生きるベルリン市民たちが、道端や防空壕でそれぞれの「総括」をする。

 

 ある者は「貧しさから逃げたかった」。

 ある者は「総統こそが救世主と確信したから」。

 ある者は「こうなるとわかってはいたが、勇気がなかった」。

 

 大人たちの言葉を、12歳の少女エンネゲープハルトはどう聞いたのだろうか。

 この三部作のすばらしさは、とにかく当時のドイツを描写する作者の手腕にある。

 物語自体もナチス共産党衝突や、ファシズムに対抗するヘレハンスの戦い、またナチ政権下の人々の様々なドラマなど盛りだくさんだが、とにかく読んでいてその地に足のついたリアリティーに引きこまれる。

 ゲープハルト一家が住む貧民地区の様子や、戦前のベルリンの雰囲気。

 人々の思想やその変遷食事部屋の描写など、その絵がまさに映像作品のように浮かび上がる。

 ミステリ作家アガサクリスティーの強みは、そのトリックや名探偵のあざやかな推理にくわえて、当時の英国風土文化風習を巧みに描いた「マナーノベル」としての魅力にもあるが、クラウス・コルドンの『ベルリン三部作』もまさにそれ。

 読んでいて本当に、20世紀初頭のベルリンにタイムスリップしたような気分に浸れる。

 NHK『映像の世紀』みたいで世界史好きの方には、とにかくオススメ。

 児童文学ということで、サクサク読めて長いのなんて全然気にならず、それでいて中身はギッシリと詰まってます。

 

 

 

 

 

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