近藤誠也が爆発した。
2015年に19歳で四段になると、初出場の王将戦でいきなりリーグ入りを決める棋士人生ロケットスタート。
それどころか「A級以上の難関」との誉れ高い王将リーグで残留こそできなかったものの、豊島将之七段と羽生善治三冠(王位・王座・棋聖)を破る金星。
特に羽生戦に関しては、これで羽生は20年かぶりくらいのリーグ陥落を喫することになったのだから、かなりインパクトの強い勝利だった。
その後も王位リーグに入ったり、順位戦で藤井聡太七段に頭ハネを食らわせるジャイアント・キリングを披露しながらハイスピードでB級1組に到達。
アベマトーナメントでも無類の強さを発揮し、同門でいつも指名していた渡辺明九段から、
「うちのエース」
「誠也がいれば2勝、いやワンチャン3勝も計算できる」
とまで絶賛されるほどの大活躍ぶりだったのだ。
そんな男なので、ここからはA級にタイトル待ったなしかと思いきや、そこでやや足が止まる。
勝率は高く、竜王戦で本戦出場や2度目の王将リーグ入りを果たし4勝するなど、しっかり結果も出しているが、彼ほどの男ならやはり「もっと」と貪欲な目で見てしまうのがファン心理というものだ。
ともかくも、まずはA級にというところだったが、今年のB級1組順位戦では安定して強く、最終戦前に早々と昇級を決めて停滞を5年で止める。
また今期は朝日杯でも勝ち上がり、決勝で井田明宏五段を破って、ついに棋戦初優勝を果たしたのだった。
A級+全棋士参加棋戦の優勝となれば、これで一流への足がかりは完全にできたというもの。
大きいところではNHK杯もベスト4に残っていて、ここも取れば「藤井独裁」の時代に大きな風穴を開ける候補に一気に躍り出ることになれそうだが、今回はそんな上り調子な男の将棋を。
2020年のB級2組順位戦最終局。
中田宏樹八段と近藤誠也六段の一戦。
この期のB2は5戦目を終えて丸山忠久九段が全勝で首位を走り、それを順位上位の横山泰明七段と村山慈明七段が1敗で追走。
1期抜けをねらう近藤は順位下位ながら1敗で追い、6戦目では村山と、8戦目では横山と当たっているため自力でこそないもののチャンスは充分であった。
その通り村山との直接対決を制した近藤は、他の1敗勢が敗れたことで一気に浮上。
ところが、自力昇級の権利を手に入れて戦う横山戦で痛恨の1敗を喫し、またも圏外に転落。
残り2戦を連勝し、横山が2連敗しなければ逆転できないという崖っぷちに追いこまれたが、続いてラス前の鈴木大介九段戦にしっかり勝ったのはさすがというところ。
ふつうはリーグ後半で直接対決を落とし、しかも順位が下位と会っては、「試合終了」としたものだが本人からすれば、
「それが良かったのかは分からないが、残りの2戦は何も気にすることもなく伸び伸びと指せたように思う」
このあたりの心理的な交錯が、順位戦のアヤだ。
逆に圧倒的優位に立った横山は田村康介七段に敗れており「もう諦めていた」という近藤だが、かろうじて望みをつないだ。
他力ながら目を残して中田戦に挑む最終戦は、先手番で相矢倉を選択。
むかえたこの局面。
脇システムから近藤が馬を作ったが、中田は金銀でそれにプレッシャーをかけていく。
このままだと虎の子の馬を殺されそうだが、もちろんそれは先手の読み筋である。
(続く)