我、舌バカ味オンチの「自称グルメの人」にもの申す

2014年10月11日 | B級グルメ
 「自称グルメの人」が苦手である。
 
 知ったかぶりをする人、小銭にセコイ人、くだらないダジャレを連発する人
など、人の心を微妙にざわざわさせる人というのは数いるが、私の場合
 
 「グルメ
 
 これを自認する人。
 
 そういう人は当然食べることが好きで、よく「うまい店があるんだ」と教えてくれたり、中には手料理で腕を振るってくれる人もいる。
 
 というと、ずいぶんといい人というか、便利でありがたそうな印象を受けるかもしれないが、これが店も手料理も本当においしければよい。
 
 問題はそれがもう、めまいがするほどに、マズいものしか出してこない人の場合。
 
 そういう意味での「自称」グルメである。
 
 友人ツルミ君はそんな自称グルメであった。
 
 「食にうるさい」という彼は、会うとかならず、美味いという店に連れていってくれる。
 
 それが、ものの見事にまずいのである。その確率は、なんと100%。よく
 
 
 「世界には絶対というものはない」
 
 
 なんていうが、ある
 
 ツルミ君の紹介する店は、これまでただの一度として、おいしかったためしがない。
 
 絶対にである。
 
 その証拠に、彼に連れられた店というのが、その後数ヶ月ほどすると、例外なく、すべてつぶれていくからだ。
 
 西原理恵子さんは
 
 
 「店はにきびみたいに簡単につぶれます」
 
 
 といったが、まさにそう。
 
 ツルミ君一推しの店は、本当にいともあざやかに、この世界から痕跡を残さず消えていくのだ。
 
 しかも、たいていが一年保たない。
 
 半年もたたないうちに、「空店舗」の札がシャッターにむなしく揺れているのである。
 
 とどめには、インターネットの「地元ふれあい掲示板」みたいなところをチェックすると、
 
 
 「あそこ、つぶれたらしいよ」
 
 「当たり前だよ、クソまずいもん」
 
 「二度と行くわけがない」
 
 
 とかけんもほろろ。
 
 これはもう私だけの偏見ではなく、「世界総意」という感じで、つぶれているのだ。
 
 ツルミ君がマーキングした店が、その後を追うように次々とつぶれていくところから、いつしか友たちは彼のことを「食べる死神」と呼ぶようになった。
 
 飲食店経営者にとっては、税務署海原雄山の次くらいに恐怖であろう。
 
 ところが、おそろしいことに、ツルミ君自身には、まったくそのような自覚がない。
 
 それどころか、周囲の悪評を
 
 
 「おかしいなあ、世間の奴らはわかってないなあ」
 
 
 不思議がっている。
 
 迷惑なのは、それにつきあわされる我々だ。
 
 ただでさえ、まずい店につれていかれるうえに、同い年なのでおごってもらえるわけでもなく、自腹でつぶれる店のメシを食わされる。
 
 正直、勘弁してほしい。
 
 ある日、後輩であるナカモト君がたまりかねて、
 
 
 「ツルミ先輩、悪いけどこの店、ちょっとひどくないですか」
 
 
 そう提言した。
 
 後輩がそんなことを言うのは、本来ためらわれるところだが、これは食後の我々があまりにも不機嫌な顔をしていたため、気を使って気持ちを代弁してくれたのだ。
 
 ところが、これに対するツルミ君の返しというのが、心底納得いかないという顔で、
 
 
 「なんだおまえ、味オンチなんじゃないか」
 
 
 これには、ナカモト君がキレた
 
 普段は温厚で、常に先輩を立ててくれる後輩の鏡のような男が、
 
 
 「てめー、ふざけんじゃねえー!」
 
 
 大声を張り上げて、ツルミ君に襲いかかったのである。
 
 ナカモト君のそんな姿を、見たこともなかった我々先輩陣は、あわてて止めたのであるが、後輩は義憤で顔を真っ赤にして、
 
 
 「止めないでください、ゆるせねえ、コイツだけは男として、マジゆるせねえッスよ!」
 
 
 ツルミ君に、ストンピングの嵐を見舞っていたのであった。
 
 あのおとなしいナカモト君が……と、我々一同は、ある意味食い物の恨みはおそろしいと戦慄したものだ。
 
 『ヒカルの碁』の若獅子戦で、和谷君が態度の悪い真柴初段に「テメー!」とキレて、おそいかかるシーンがあったけど、あそこを読んだとき私はツルミ君のことを思いだしたものだ。
 
 こうしてまたも、世界に無益な憎しみと、争いが増える。
 
 これだから「自称グルメの人」は困ったものなのである。
 
 
 (続く→こちら
 
 
 

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