「自称グルメの人」が苦手である。
世にはイラッとさせられる人というのがいて、知ったかぶりをする人、小銭にセコイ人、くだらないダジャレを連発する人。
などなど数いるが、私は前回(→こちら)も言ったよう「グルメ」を自認している人がダメだ。
こういう人は、よく「おいしい店」の情報を仕入れて連れていってくれるが、それが不味かったりすると災難である。
おごってくれるならともかく、自腹切ってそういうものを食べさせられると、いかな平和主義者の私でも
「世界のあらゆる、もめ事をおさめてきたのは戦争である」
ロバート・A・ハインライン『宇宙の戦士』みたいな気分なってしまうのだ。
友人キシ君もまた自称グルメであったが、彼の場合は連れ回す方ではなく、手料理派であった。
自分で作って、それをパーティーなどで、お客に振る舞うのが好きなのだ。
が、これがまた作ってくれるものが、軒並み不味くて閉口したものだ。
チャーハンはベチャベチャ、ハンバーグは生焼け、グラタンは焦げ臭く、味付けも、たいていは甘すぎたり辛すぎたり、明らかに加減がわかっていない。
こういう人間にかぎって、調味料や調理器具にはこだわって、いいものを使っていたりする。
我々被害者は、猫に小判豚に真珠という言葉を飲みこむのに、多大なる努力を強いられることになるわけだ。落語の『寝床』みたい。
いってはなんだが、キシ君はグルメを名乗る割には、たいしていいものを食っていない。
なんたって、彼曰く
「吉野家の牛丼が世界一うまい」
「2番目はラ王」
とのことだ。それの、どこがグルメなのか。
いや、吉牛もラ王も、別にまずいわけではない。
けどそれは、あくまで
「あの値段なら十分満足」
という意味でのおいしさであり、全食物の中で絶対的に美味い、というわけではない。
それを「世界一」とはいかがな判断基準か。
まあ、キシ君の場合はごちそうしてくれるわけだから、ツルミ君とちがって金銭的ダメージは少なく、その点では許せないこともないが、彼のフェイスブックに、
「ボクは料理が大好きで、舌には自信があります」
とあったときには、思わず「真珠湾奇襲やむなし」という気分になったものだ。
あんなまずい飯食わせといて、よう言うたな、おまえと。
根本的に私はあまり
「舌に自信あり」
と宣言する人を信じていない。
だいたい、子供のころから添加物だらけの食物で育っている我々は、もうすでに味覚に関しては、期待できないのではないか。
だから、一流のシェフや料理人は、圧倒的に田舎育ちの方が有利といわれている。
育つ過程で、良い素材のものを食べいるから、自然に舌が育つのだ。
日本人のコックなんか、海外に修行に出たら、まず醤油のアミノ酸を舌から抜くために、ものすごい苦労を強いられると聞いたこともある。
そこまでやらないといけないくらい、「味覚」というのは繊細なのだ。
それを、都会育ちでインスタント食品やファストフードもまりまり食べまくって「舌に自信」とは、たいした言い草である。
とどめにキシ君、だいたいキミは重度のヘビースモーカーではないか。
あんだけ煙突みたいに、パッパカパッパカ吸うといて、ようもそんな口たたけるもんや、ドあつかましいにもほどがあるで!
と、なんかもう思い出してたら、だんだん本気で腹が立ってきた。
私はどちらかといえば、性格的には温厚なほうだが、まこと、まずいものを食わされるというのは、これほどに人の神経を逆なでするのだ。
年齢によっては「カロリーを返してほしい」という気にもなるしなあ。
というわけでキシ君、次ごちそうしてくれるときは、手料理やなくて外食でお願いします。
あ、「うまい店」やなくて、牛丼で充分ですから。
(続く→こちら)