今回ご紹介するのは「坂道の向こう」(著:椰月美智子)です。
-----内容-----
城下町、小田原。
介護施設の同僚だった朝子と正人、梓と卓也は恋人同士。
けれど以前はお互いの相手と付き合っていた。
新しい恋にとまどい、別れの傷跡に心疼かせ、過去の罪に苦しみながらも、少しずつ前を向いて歩き始める二組の恋人たちを季節の移ろいと共にみずみずしく描く。
(『坂道の向こうにある海』改題)
-----感想-----
物語は以下の6編から成る連作小説です。
朝のひかり―――朝子
小田原ウメ子―――梓
新しい年―――朝子
山桜―――卓也
貝の音―――正人
坂道の向こう―――梓
物語の中心にいるのは一寸木(ちょっき)朝子、倉橋梓、相川正人、山中卓也の4人。
朝子は物語が始まった時点では27歳。
福祉関係の専門学校を出てから介護老人福祉施設、いわゆる特養で7年間働いていました。
そこでは朝子の恋人である正人も働いています。
現在朝子はそこを辞め、「デイサービスセンター西湘」に務め始めて4ヶ月が経過したところです。
朝子と正人は恋人同士なのに何だか冷めた雰囲気もあり、それが気になりながら読み進めていきました。
それもそのはず、朝子の元の恋人は卓也、正人の元の恋人は梓で、4ヶ月前までは4人とも同じ職場にいたようです。
しかし朝子と正人がお互いに惹かれてもうどうしようもなくなって、お互いの恋人に別れを告げて、さらにその別れた元恋人同士が付き合うことになったため、この4人には何となく気まずい空気があるようです。
梓はわりとサバサバしていて、正人に別れを告げられた時もあまり怒りはしませんでした。
どちらかというと自分に合わせる顔がないからと送別会も断り消えるように辞めていった朝子を気遣っている節もあって、朝子より5歳も年下なのに随分達観したところがあるなと思いました。
にしても朝子の名字の「一寸木」は珍しいなと思います。
「ちょっき」と読むようですが、この名字は一度も聞いたことがありませんでした。
4人とも介護福祉関係の仕事なので、打ち合わせとかでばったり一緒になることもあります。
そんな時、取り繕うのが苦手な朝子はかなりギクシャクとした雰囲気になったり、反対に正人はごく自然に振る舞ったりと、それぞれの性格が出ていました。
まあ仕事とはいえかなり気まずい空間だろうなと思います
元彼女やら元彼氏やらと顔を合わせるわけですし。
卓也は飄々と、淡々としているように見えて、本人が語る「山桜―――卓也」を読むと実際はかなりの葛藤を抱えているようです。
何度も出てくる「違うんだ」という心の声が印象的でした。
残りの3人、朝子と梓と正人も、周りから見るその人とその人自身の心境にはギャップがありました。
何でも出来て万能の存在に見える正人も、本人が語る物語では意外な一面が見えました。
どの人も周りから見た印象と実際のその人には差があるんだなと思いました。
印象的だったのが、正人が語る物語で出てきた、梓と朝子に対する心境。
「梓は裏表なくいい娘だった。あまりにもまっすぐで、まぶしかった」
「朝子はまっすぐというより、まっとうなタイプだ」
とそれぞれへの印象を語っていました。
何が言いたいのかすぐにピンと来て、ここで言う朝子の「まっすぐというよりまっとうなタイプ」というのは裏表もあるし、素直じゃない娘だけど、それはそれでまっとうなタイプで、正人的にはそちらに惹かれたということです。
それで梓と別れたのだから随分勝手だなと思いますが、たしかに正人と朝子のほうが合っているようにも思います。
それと、梓の語る「坂道の向こう―――梓」に出てきた以下の言葉も印象的です。
「どこのカップルも複雑なのだ」
結構何度も出てきて、「そういうものなのだ」と諦めているような納得しているようなこの言葉は印象的でした。
やはり梓が一番達観しているなと思いました。
物語のラストを飾る、最後の二文がとても良かったです。
それで全てが上手くまとまったような気がしたくらいでした。
小田原を舞台に季節の移ろいと共に進んでいった恋愛青春群像劇、なかなか良い物語でした
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-----内容-----
城下町、小田原。
介護施設の同僚だった朝子と正人、梓と卓也は恋人同士。
けれど以前はお互いの相手と付き合っていた。
新しい恋にとまどい、別れの傷跡に心疼かせ、過去の罪に苦しみながらも、少しずつ前を向いて歩き始める二組の恋人たちを季節の移ろいと共にみずみずしく描く。
(『坂道の向こうにある海』改題)
-----感想-----
物語は以下の6編から成る連作小説です。
朝のひかり―――朝子
小田原ウメ子―――梓
新しい年―――朝子
山桜―――卓也
貝の音―――正人
坂道の向こう―――梓
物語の中心にいるのは一寸木(ちょっき)朝子、倉橋梓、相川正人、山中卓也の4人。
朝子は物語が始まった時点では27歳。
福祉関係の専門学校を出てから介護老人福祉施設、いわゆる特養で7年間働いていました。
そこでは朝子の恋人である正人も働いています。
現在朝子はそこを辞め、「デイサービスセンター西湘」に務め始めて4ヶ月が経過したところです。
朝子と正人は恋人同士なのに何だか冷めた雰囲気もあり、それが気になりながら読み進めていきました。
それもそのはず、朝子の元の恋人は卓也、正人の元の恋人は梓で、4ヶ月前までは4人とも同じ職場にいたようです。
しかし朝子と正人がお互いに惹かれてもうどうしようもなくなって、お互いの恋人に別れを告げて、さらにその別れた元恋人同士が付き合うことになったため、この4人には何となく気まずい空気があるようです。
梓はわりとサバサバしていて、正人に別れを告げられた時もあまり怒りはしませんでした。
どちらかというと自分に合わせる顔がないからと送別会も断り消えるように辞めていった朝子を気遣っている節もあって、朝子より5歳も年下なのに随分達観したところがあるなと思いました。
にしても朝子の名字の「一寸木」は珍しいなと思います。
「ちょっき」と読むようですが、この名字は一度も聞いたことがありませんでした。
4人とも介護福祉関係の仕事なので、打ち合わせとかでばったり一緒になることもあります。
そんな時、取り繕うのが苦手な朝子はかなりギクシャクとした雰囲気になったり、反対に正人はごく自然に振る舞ったりと、それぞれの性格が出ていました。
まあ仕事とはいえかなり気まずい空間だろうなと思います
元彼女やら元彼氏やらと顔を合わせるわけですし。
卓也は飄々と、淡々としているように見えて、本人が語る「山桜―――卓也」を読むと実際はかなりの葛藤を抱えているようです。
何度も出てくる「違うんだ」という心の声が印象的でした。
残りの3人、朝子と梓と正人も、周りから見るその人とその人自身の心境にはギャップがありました。
何でも出来て万能の存在に見える正人も、本人が語る物語では意外な一面が見えました。
どの人も周りから見た印象と実際のその人には差があるんだなと思いました。
印象的だったのが、正人が語る物語で出てきた、梓と朝子に対する心境。
「梓は裏表なくいい娘だった。あまりにもまっすぐで、まぶしかった」
「朝子はまっすぐというより、まっとうなタイプだ」
とそれぞれへの印象を語っていました。
何が言いたいのかすぐにピンと来て、ここで言う朝子の「まっすぐというよりまっとうなタイプ」というのは裏表もあるし、素直じゃない娘だけど、それはそれでまっとうなタイプで、正人的にはそちらに惹かれたということです。
それで梓と別れたのだから随分勝手だなと思いますが、たしかに正人と朝子のほうが合っているようにも思います。
それと、梓の語る「坂道の向こう―――梓」に出てきた以下の言葉も印象的です。
「どこのカップルも複雑なのだ」
結構何度も出てきて、「そういうものなのだ」と諦めているような納得しているようなこの言葉は印象的でした。
やはり梓が一番達観しているなと思いました。
物語のラストを飾る、最後の二文がとても良かったです。
それで全てが上手くまとまったような気がしたくらいでした。
小田原を舞台に季節の移ろいと共に進んでいった恋愛青春群像劇、なかなか良い物語でした
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