読書日和

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「空飛ぶ広報室」有川浩

2014-08-14 23:55:56 | 小説
今回ご紹介するのは「空飛ぶ広報室」(著:有川浩)です。

-----内容-----
不慮の事故でP免になった戦闘機パイロット空井大祐29歳が転勤した先は防衛省航空自衛隊航空幕僚監部広報室。
待ち受けるのは、ミーハー室長の鷺坂(またの名を詐欺師鷺坂)をはじめ、尻を掻く紅一点のべらんめえ美人・柚木や、鷺坂ファンクラブ1号で「風紀委員by柚木」の槙博己、鷺坂ファンクラブ2号の気儘なオレ様・片山、ベテラン広報官で空井の指導役・比嘉など、ひと癖もふた癖もある先輩たちだった……。
有川浩、渾身のドラマティック長篇小説。

-----感想-----
空井大祐は大型トラックの大規模引き逃げ事故の被害に遭い、右足を骨折してしまいました。
手術とリハビリの結果、日常生活に支障がないほどに回復しましたが、F-15を駆る戦闘機パイロットとして職務を全うするにはその回復では到底足りませんでした。
その結果、空井大祐はP免(パイロット資格剥奪)の処遇となりました。
Pはパイロット、免は罷免で、略してP免とのことです。
その後一年ほど築城(ついき)基地の監理部総務班に勤務した後辞令が下り、市ヶ谷にある防衛省の航空自衛隊航空幕僚監部広報室に転属となりました。
着任して二週間ほど経った4月から物語は始まっていきます。

広報は自衛隊で唯一マスコミと接触を持つ仕事です。
冒頭、帝都テレビの稲葉リカが航空自衛隊航空幕僚監部広報室にやってきて、空井がアテンド役(世話をしたり案内したりする役)になります。
稲葉リカは帝都テレビのディレクターで、スクープを狙ってガツガツしている若手で、加えてかなりの自衛隊嫌いです。
空井の事故を職務中の事故と早とちりし「そんな事故は報道されていないのだから隠蔽だ!」と言って食ってかかっていました。
隠蔽と言うなら、自分達に都合の悪いことを報道せず国民に隠すテレビと新聞の既存マスコミのほうがよほど隠蔽体質でしょうと、思わず突っ込みたくなりました。
自衛隊が大嫌いでどうにかして貶める報道をしてやろうとしている稲葉リカは、広報室にとって厄介事以外の何物でもないようです。

稲葉リカの「だって戦闘機って人殺しのための機械でしょう?」という言葉に、空井は激怒します。
そんな空井を広報室長の鷺坂は「自衛官やってりゃ、何でこんなこと言われなきゃならないんだと思うことはいくらでもある」と諭していました。
また、稲葉リカは身近な大人たちに「自衛隊など未だに合憲か違憲かの議論がかまびすしく、存在の正当性すら怪しい組織である」と教育を受けてきたとありました。
これは学校の教育者となると「日教組(日本教職員組合)」の反日左翼教師のことを言っているのだろうと思いました。
もしくは身の周りの人であれば「九条の会」などの反日左翼系市民団体の関係者など。
その後、広報室のメンバーによる稲葉リカの歓迎会の飲み会で、本人が
「自衛隊が嫌いっていうのは、ちょっと八つ当たりもあって…だって高校の先生は違憲だって言ってたし、憲法九条を汚す自衛隊に反対しましょうって年賀状が今年も来たし…」
と言っていたのを見て、やはり反日左翼教師の影響を受けていたのかと思いました。
こんな難しい感じの稲葉ですが、詐欺師の異名を持つ鷺坂によって「稲ぴょん」というあだ名を付けられ、上手いこと言いくるめられてしまっていたのが面白かったです(笑)

基地と駐屯地の違いは興味深かったです。
陸上自衛隊は駐屯地で、航空自衛隊と海上自衛隊は基地と呼んでいます。
航空自衛隊と海上自衛隊は有事の際に基地をそのまま拠点とするのに対し、陸上自衛隊は場所を移動することがあるため、駐屯地と呼ぶとのことです。

広報部には広報班と報道班があり、空井は広報班に所属しています。
自衛隊のいいところを売り込む「攻め」の部分を担当するのが広報班なら、報道班は危機管理的なマスコミ対応をする「守り」の部門とのことです。
鷺坂によると要は報道班で、報道班による守りがあって初めて攻めに打って出ることができるとあって、なるほどと思いました。

稲葉はテレビ番組の企画で広報室に長期密着取材しているのですが、だんだんと打ち解けているのが分かりました。
それとともに、物語は広報室のメンバーそれぞれの思いや葛藤にスポットが当てられていきます。
空井の指導役でもあり広報を10年もやっている比嘉はなぜ一曹のままで昇進試験を受けていないのか。
片山と比嘉の関係と、片山がなぜ比嘉を強烈にライバル視しているのか。
やがて明らかになる比嘉の思いは興味深いもので、そんな考え方もあるのかと思いました。

報道班の二人、がさつな所作から残念美人と称される柚木と、その柚木の防衛大学校時代の後輩・槙。
常にがさつな柚木に横から注意しまくる槙は御目付け役のようになっていました。
しかしかつての柚木を知る槙は、今の柚木の姿が納得いかないようでした。
なぜ今のようながさつな姿になってしまったのか、そこには男だらけの部隊に女性が紅一点的に入っていく難しさがありました。
この辺り、それぞれの人物の仕事との向き合い方や苦悩、意識している人物への思いなどが丁寧に描かれていました。

陸・海・空の自衛隊の性質を表すとされる言葉も出てきました。
それによると陸上自衛隊は用意周到・動脈硬化、海上自衛隊は伝統墨守・唯我独尊、航空自衛隊は勇猛果敢・支離滅裂。
これを作ったのは防衛記者会とのことで、その防衛記者会が自分達を表した言葉もあり、浅学非才・馬鹿丸出しとあって最後に自分達に落ちを付けていました(笑)

ある時、都内でホームレスの就職支援団体を組織している人物の書いたコラムが波紋を呼びます。
航空自衛隊の募集CMをある女性整備士の協力のもと製作したのですが、そのCMについて「戦争賛美だ、軍靴の音が聞こえる」などと批判され、この人物はテレビにも出演して同様のことを言っていました。

一人の女性が少女の頃に亡父を偲んで同じ道に進んだという、他の仕事であれば親子愛として受け入れられるはずのエピソードが、どうして自衛官だと社会悪のプロパガンダのように言われなければならない。

と空井が強く憤っていたのが印象的でした。
他の職業ではそういうことはないのですが、自衛隊だと感動的なエピソードも「戦争賛美だ、右傾化だ、軍国主義だ」と因縁を付けてくる人達がいるのは事実です。
稲葉リカの高校時代の、「憲法九条を汚す自衛隊に反対しましょう」と年賀状に書いて送ってきたという反日左翼教師などはまさにそうです。

「宙(そら)」というアイドルグループがブルーインパルスに体験搭乗する話は興味深かったです。
体験搭乗のためにはブルーインパルス搭乗時に体にかかる物凄い重力に事前に慣れておく必要があって、その様子が面白かったです。
広報部では航空自衛隊のことを多くの人々に知ってもらうために、こういった企画をしています。
放送する番組の趣旨、意義などを勘案して、テレビ局側と話し合って交渉を詰めていって、最終的な判断を下していました。
テレビ局側も色々無理難題を言ってきて、たしかに他の部門とは大きく違う、マスコミとの交渉力が求められる仕事だと思いました。

愛の反対は無関心。無関心が一番まずい状態

というのも印象的で、いかにして航空自衛隊に関心を持ってもらうか、広報の人達は常に考えています。

また最後の章では「あの日の松島」と題して、東日本大震災の時の松島基地の話が描かれています。
私も当時テレビで松島基地が水没している様子を見ていたので読んでいて当時のことが思い出されました。
たとえ基地が被災して自分達も被災者になっていたとしても、自衛官はあくまで自衛官なのだということをこの話を読んで実感しました。


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