なんでも内科診療日誌

とりあえず何でも診ている内科の診療記録

「老衰を診る」

2020年03月01日 | Weblog

 先日丸善で見つけて、「老衰を診る」今永光彦著(MCメディカ出版)を購入した。老衰を研究している医師は珍しいので、貴重な本になる。正確さを期すために、研究結果を本文に入れ込んでいるのが若干読みにくいかもしれない。

老衰を診る: 人生100年時代の医療とケア

 

 第1章 老衰の過去・現在・未来

 80歳以上の全年齢において死因の第5位までに入っており、95歳以上では第1位になっている(2016年人口動態統計)。2000年以降は老衰死が増加しているのは、死亡者全体のなかで超高齢者の死亡者数が増えているため。

 老衰で亡くなった方の年齢は、ほとんどが80歳以上で、80歳未満で老衰と診断されたのは老衰死亡者数の3%程度。7割を90歳以上が占める。

 老衰死亡者の死亡場所は、病院や高齢者施設が多くなっている(自宅は15%)。高齢者施設での看取りも増えている。

 死亡診断書記入マニュアルにおいて、死因としての老衰は、「高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死の場合のみ」用いるようにと記載されている。

 第2章 老衰の診断

 医師は、「年齢が80~85歳以上で、緩徐な状態低下があり、他に致死的な病気の診断がついていない患者」を老衰と考えている。

 しかし老衰と診断することに対して、「病気の診断を積極的に行わないことへの葛藤」や「病気の見逃しに対する不安」を抱えている。

 老衰と診断するにあたって、「他医師からの老衰という概念の提示」、「老衰という診断に対する同意」が老衰と診断することを後押ししている。一方、「老衰という診断に対する他医師の否定感」を感じると、老衰と診断することを躊躇させる。

 前提条件として、老衰と診断することに対する家族の納得・理解を得ることが必要である。

 老衰と診断するにあたって、確認することは、1)口腔内や咀嚼の問題がないか、2)薬の副作用がないか、3)血液検査で原因となるような異常がないか、4)食事形態・摂食時にポジショニングの影響はないか、5)便秘の影響はないか、6)レントゲンで原因となるようないじょうがないか、7)CT検査で原因となるような異常がないか、8)上部消化管内視鏡検査で原因となるような異常がないか、9)下部消化管内視鏡検査で原因となるような異常がないか、を確認している。( 6)~9)まで必要と考える医師は少ない)

 当方は病院勤務医なので、腫瘍マーカーや甲状腺機能を含む血液検査・頭部CT・胸腹部CTはすでにしている。上部・下部消化管内視鏡検査は通常していない。

 第3章 老衰患者へのケア

 まず可逆的な状態を見逃さない。義歯など口腔内の不具合、配偶者の死亡によるうつ状態、骨粗鬆症治療の副作用による高カルシウム血症などによる食事摂取不良は、治療により改善する可能性がある。環境による影響を考慮する。慣れた高齢者施設や自宅に戻ると摂食できるようになることもある。

 家族が老衰をどのようにとらえているかを確認する。老衰として受け入れる家族では老衰とするが、受け入れない家族(家族の一部の場合も)の場合は難しい。

 当方は、「軽度の肺炎もあり、心機能の低下(心不全)もあり、腎機能低下もあり、病名はいっぱいつきますが、老衰という表現をするのが適切かもしれません。どうでしょうか。」と家族の意向を訊く。それがいいと言われれば老衰とする(同意を得られるような家族を選んで訊いているということもある)。同意を得られなければ病名を選んで記載して直接死因を多臓器不全にする。

 今の病院に赴任した時の副院長(大学では講師を務めた内科のトップ)は、絶対に老衰とはしなかった。多臓器不全と書いているので、要するに老衰では?、多臓器不全とのみ書くと死亡統計のどこに入る?、と思ったのものだ。

 第4章 老衰の看取り

 どこで看取るか。在宅か、高齢者施設か、病院か。経口摂取できる範囲でみるか、経管栄養をするか、点滴をするか。

 点滴は末梢用を想定して記載されているが、現実的には家族の希望で中心静脈栄養になることもある。

 「点滴ボトルの下がった風景」が家族と医療・介護スタッフの情緒をケアしているという報告があるそうだ。

 病院としても何となく治療している雰囲気があり罪悪感がない。家族も病院で治療を受けているという理解になる。末梢用点滴500mlを皮下注でキープという形づくりだが、他の病院でもしているようだ。

 

 

 

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