次女から電話があったその夜遅く、長男から電話があった。
こういうときはこういうもんだ。
来年度の奨学金申請のための書類のことだった。
この連休明けが締め切りだというので、大急ぎの話。だから夜をいとわず電話をしてきたようだ。
用件が終わって、ところでさあと話をAKBの峰岸みなみちゃんにふった。
AKBオタの長男が一押ししているのは、実は峰岸みなみちゃんだ。
卒論のために、昨年11月からみなみちゃんを封印して1月末の提出に向けて頑張っていた。
「卒論が終わったら~~ルンルン」のはずだったのが、この騒動。
一言言ってみたくて機会を待っていた。
「ねえ、みなみちゃん、もう私のことは忘れて学問に専念してくださいって、君に言ってくれたんじゃない?」
「わかってるよ!みんなメールくれたんだから・・・」
「辞めればいいのに、二十歳の女の子でしょう・・・あそこまでする意味って何?
借金でもあるの? あの坊主頭は誰に対してやったの?
あんたがたみたいなファンに対してじゃないよね!なんか、腑に落ちないのよね」
と、意地悪く突っ込んでみた。
アイドルを追っかけるなんて、熱病みたいなもので、熱が冷めればなんだったんだろうというようなもんだ。
みんなそれはわかっているから、息子も「まあ、そーなんだけれどね」
といいながら「実はこういうことだったらしい」ということを話してくれた。
息子が教えてくれたことの流れは、そうであればみなみちゃんのあの行動にもしっくりと来るものがある。
しかし、そこには、息子のようなファンの暖かい心はない。
昔、歌手や役者といった興行者は、卑しまれたものだ。歌舞伎の語源「傾く」も傾いた身なりや視点をいい、
よい意味ばかりではない。それを長い長い年月を重ねて、先達たちが苦労して高めてきた。
トップアイドルの地位をほしいままにしているAKBでさえ、やっぱりこんなものなのかという感じがした。
そこに感じるのは、大津の中学校や、大阪の高校で起ったこと、女子柔道で起ったことと、
共通のにおいを感じてしまう。日本人てこれくらいのもなんだなあと、悲しくなる。
息子いわく、研究生で頑張るみなみちゃんを応援するのに連日研究生公演が超満員だそうだ。
彼もあわてて飛んでいったらしい。
卒論がうまく進まないとき、終わったら握手会でみなみちゃんに「やっと終わったよ」
と話すのを楽しみに、それを励みに落ち込みそうになる自分を鼓舞していたようだ。
そういうえば大学受験でひりひりした時間を過ごしていた昨年の次女が、
気持ちを持て余したときに頼ったのが嵐の相葉君だった。アイドルってありがたいものだと、そう思ったっけ。
震災でどうしようもない日々を過ごしている人たちが、心の慰めにしている芸能人は多いと思う。
みなみちゃんはそういう素晴らしい仕事をしている、そういう才能を持っていると、
もっともっと自信を持ってほしい。
他の誰にもできない、変わりのない仕事なんだから、そう彼女に伝えてよと息子に言うと、
「そういうの伝えたくて、でも、口下手でさあ、目の前に彼女がいるとうまく言葉が出てこないんだ。
今度、みなみちゃんのお母さんがやってるカフェに行って、お母さんに話してくるね」 と返ってきた。
わが息子、彼女もできずに、みなみちゃんのおっかけをいつまでやるのか情けない気分もするが、
振り返ったらこれはこれで面白いかもしれない。