HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

Y-3とUAの明暗は、代表者の感性差。

2015-06-03 07:52:33 | Weblog
 先週は筆者にとって注目するニュースが二つあった。一つは2002年のデビューの時から注目しているブランド、Y-3が世界的に売上げを伸ばしているという話題だ。

 2014-15年秋冬コレクションから舞台をNYからパリに移したこと、また、世界的にスポーツのラグジュアリーブランドに注目が集まっていることが要因らしい。

 巷にはチープなSPAカジュアルが幅を利かせ、エッジの利いたモードブランドがほとんどない。

 そんな中、Y-3はスポーツファッションとは言え、Y’S、ヨウジヤマモトというDCブランド系譜をもつところに、惹き付けられるファンは少なからずいるということだ。

 ヨウジヤマモトは2009年10月8日、民事再生法の適用を申請し、経営破綻した。負債総額は60億円にも達したが、投資会社インテグラルの支援で、直営店および百貨店インショップ、国内外の卸事業は継続されている。

 当時、パリコレから緊急帰国し、記者会見に臨んだ山本耀司さんの姿は印象的だった。かつてない悲壮感、堕ちたカリスマイメージetc.。でも、ブランドの世界観、デザイン、クリエイティビティを愛してやまないファンは世界中にいる。だから、今がある。

 ものづくりについては、Y’S、ヨウジヤマモトはメイドインジャパンを基本に、一部のアイテムにはフランス生産なども投入されている。しかし、Y-3は中国、タイ、トルコなど生産基地は多国籍に及ぶ。

 コラボ先であるアディダスの素材を使用したり、提携工場のラインを使ったりすれば、そうなるのは当たり前だ。でも、実際に何着も着てきたが、どの国の製造であっても、クオリティには全く問題はない。

 メイドインジャパンにこだわると、製造コストが高いため販売不振になれば利益率が悪化する。一度、苦い経験をしているだけに、同じ轍はもう踏めない。だから、コスト削減できる多国籍生産は、インターナショナルブランドとしては当然の選択だ。

 投資会社の狙いはブランドを再生し、企業価値が高まった時点で転売しようという目論見だろうが、ファンにとってそんなことはどうでもいい。ブランドが存続して、好きなアイテムを店頭で見つけて購入し、着ることができればそれでいいのである。

 「韓国のアイドルグループBIGBANG(ビッグバン)のリーダーG-DRAGON(ジードラゴン)が着用したスニーカーを求めて店頭に行列ができる」という報道もあるが、俄ファンの動向など取るに足らない。

 目下、Y’S for MENが休止中だけに、男性ファンはヨウジヤマモト、はてはY-3にカタルシスを求めているのは、間違いないだろう。

 Y-3とてシステムは、古典的SPAであることには変わりない。だが、隅々にまで妥協のないデザイン性、それが生み出すもの作りの秀逸さ。DCファンはそんな世界観が単純に好きなのである。耀司氏が引退するまで、ファンの気持ちは揺るぎないと思う。

 もう一つの話題は、ユナイテッドアローズの苦戦ぶりである。2015年3月期の連結業績は、営業利益が前期比16.8%減の113億円。6年ぶりの減益に落ち込んだ。

 決算報告書よると、「価値と価格のバランスを欠いた商品群」が店頭に並んだことによる売上げ不振。また、円安によるコスト増を吸収するため、秋冬のシャツやカットソーなど「定番品」を一律値上げしたことが裏目に出て、10月以降に客数が急減したという。

 これを受け、アウトレット店や催事セールを増やし、10~20%の値引き販売によって在庫処分や廃棄処分に踏み切ったため、粗利率が悪化したのだそうだが…。

 ユナイテッドアローズは上場企業であるだけに、投資家向けには苦戦の理由をきちんと説明しなければならないのは理解できる。しかし、ファッション業界的にみると、商品企画の段階で結果の発生は、わかっていても良さそうなものと感じる。

 「ユナイテッドアローズ・グルーンレーベルリラクシング」「ビューティ&ユース ユナイテッドアローズ」は、 UAの中では店舗数が格段に多く、稼ぎ頭と言ってもいい。 イメージこそセレクトショップだが、実質は完全SPAに近くなっている。

 SPA化したこの2業態はメーカーが企画した商品をバイヤーが1点1点吟味して仕入れる形態ではない。シーズンテーマとアイテムのアウトラインだけ決め、あとはアパレルメーカーや商社にOEMやODMで企画してもらっている方が正しいだろう。

 自社企画のオリジナルの方が仕入れよりも利益が出るから、上場企業としては当然その方向に向かう。本来ならセレクトショップだから、「価格以上に価値」を優先して商品を揃えるべきなのだが、現実は決算報告にある通りになってしまったということだ。

 ただ、筆者はもう一つの見方もしている。それは2業態の商品デザインが完全に「トラッド化」してしまったことである。特に昨年の秋冬のアイテムを見ると、コートにしてもセーターにしても、パンツにしても完全にトラッドなデザインとなっていた。

 しかも、クオリティをだいぶ下げているように感じた。円安で材料費や工賃が上がっているわけだから、適正利益を確保するには原価率を下げなければならない。

 利益率を高めるには量産が必要になる。当然、在庫消化を前提にすれば、結果そうならざるをえなかったではなく、最初から通販やアウトレット販売も見込んで生産しているのではないかと思えるくらいだ。

 2業態の売場に並んでいるのは、トラッド=当たり外れのないベーシックなアイテムばかりで、商品の完成度はさほど高くない。売上げ不振は、最初から通販やアウトレットを前提に生産していることを、お客に見透かされたからではないだろうか。

 セレクトショップを公言するなら、本来は選り抜かれたアイテムであるはずなのに、お客が期待するほどの商品でなければ、売れるはずがないのである。

 特にこの傾向は竹田光広社長が就任してから、顕著になってきたように感じる。

 一方、Y-3は山本耀司という類いまれなデザイン感覚と才能をもった一人のクリエーターによって創り上げられていく。今は経営の第一線からは退いたものの、商品化にまで首を突っ込んで厳しくチェックしている。

 だからこそ、デザイナーズブランドとして、秀逸なクリエイティビティ、高い完成度、妥協を許さないデザインが維持できるのだ。

 洋裁師の息子として東京に生まれ、ぎょうせいから慶応義塾大学の法学部と進み、文化服装学院を卒業後、デザイン活動を始めた。

 勉強しても簡単に入学できない大学と、技術を見つけなければ卒業しても意味のない専門学校。まさに環境が人を育てるという典型的な例である。

 旧ヨウジヤマモトの時代は、カリスマデザイナーでありながら、クリエーター系の社長として君臨していた。この企業の基礎を築いたのは、まさに山本耀司氏本人である。その功績は決して色褪せることはないだろう。

 民事再生法に至ったのは、同社を発展・躍進させる段階のマネジメントで、それに携わるものが躓いてしまっただけに過ぎないのである。

 かたや、竹田光広社長は福岡県の生まれ。大分大学経済学部を卒業後、中堅商社の兼松江商に入社。同社が兼松繊維に社名変更したことから、商社マンとしてアパレルに携わり、その経験を買われてUAに入社したということになる。

 国立大卒のエリート商社マンから日本を代表するセレクトショップのトップに。そこで「今一度、ブランド価値の向上に取り組む」と言えば、実にカッコいい。しかし、今決算を見る限り、図らずもそうしたキャリアが通じない面を露呈したと思われる。

 商社マンとしてネットワークや人脈をもち、素資材や工場手配の経験から、ファッションビジネスに携わることはできるのかもしれない。しかし、トレンドがつかみづらく、マーケットが変化する中で、その経験が小売りに生かせるかは未知数である。

 今回の苦戦はそうした能力の限界が現れたということではないだろうか。

 ファッション業界人には経営者、バイヤー、デザイナー問わず、感度、感性、気づきがどこまでいっても求められる。時代のうねり、お客の変化、流行の移り変わりを見逃さず、瞬時にリアクションを起こして、方向を修正しなければならない。

 商品に対する感性能力は親から受け継いだ遺伝子はもちろんだが、その人間が育ち生活した環境にも大きく影響される。感度、感性、気づきは少なくとも22歳くらいまで培われるから、それまでにそうした環境に身をおかないと習得できない。

 だとすれば、どうだろうか。竹田社長がそうした環境に身をおき、感度、感性、気づきの能力が培われているかである。

 話は少しズレるが、4月16日に竹田社長が青春時代を過ごした大分市に「JR大分シティ」が誕生した。

 核テナントは2012年、博多駅に開業したJR博多シティと同じ「アミュプラザ」で、同じデベロッパーの力関係からリーシングされているテナントも共通するものが多い。

 「ユナイテッドアローズ・グルーンレーベルリラクシング」「ビューティ&ユース ユナイテッドアローズ」も、定番テナントとして顔を並べる。

 大分シティの関信介社長はメディアのインタビューに対し、「大分から新しいファッショントレンドを発信していければ」と語った。額面通り解釈すれば、それまでの大分にはそれほどトレンドを発信できるような商業施設がなかったということになる。

 九州の中では、ことトレンドファッションにはいちばん縁がなかった地域と言ってもいいのかもしれない。

 ただ、そんな大分だからといって、お客からそっぽを向かれたこの2ブランドを含め、通販でも購入でき消費者のほとんどが知るSPAブランドを揃えて、「何かトレンドの発信」なのだろうか。

 大分ではトキハ百貨店の前からは10分おきに高速バスが出発し、10年以上前から買い物客を福岡に持ち出してきたのである。

 「お客さんからすれば、何を今さら」である。関社長のコメントは全く失笑ものと言うしかない。言い換えれば、竹田社長はそんなファッションマーケットの大分で青春時代を過ごしたのである。

 とすれば、ファッション業界人に必要な感度、完成、気づきは、培われているのだろうか。それとも、今期の決算はそうした理由を如実に表したことなのか。

 竹田社長はある業界誌の対談で、「(UAの)オリジナル商品が付加価値でない存在になってきた今、商品力の強化、クリエーティビティの強化が大きな課題です。自社企画商品のクオリティアップやレベルアップは永遠の課題です」と、語っている。

 しかし、そうした言動とは裏腹に稼ぎ頭2業態の売場を見る限りでは、セレクトショップの商品とはかけ離れた量販&通販レベルのクオリティだ。また、トラッドSPA化というクリエイティビティとはほど遠い感度、感性に成り下がっている。

 筆者もUAでも購入したことはあるが、かつてはグルーンレーベルリラクシングも、ビューティ&ユースも、素材のクオリティが高く、モードまでは行かなくともそれなりにトレンドを打ち出したアイテムは存在していた。それが今では…である。

 それを竹田社長は気づいていたのか。気づいていたにしても、組織が肥大化した今のUAに、すばやく修正できるほどの機動力はないのか。

 結局、値下げやアウトレット消化しか手の打ちようがなかったということである。それではイオンなど量販店の衣料品売場で行われていることと何ら変わらない。

 もっとも、商品の劣化に気づいていなかったのなら、ファッションビジネスに携わる経営者としては、基本的な能力や素養を欠くことになる。

 対談で語ったように「永遠の課題」と言えば、経営者としてモラトリアムできると思ったのか。でも、それで株主や投資家がそれで納得するとは思えない。

 田舎の大学を卒業した経営者が理屈でファッションビジネスをコントロールしようとしても、送った大学生活のファッションライフが知れるなら、やがて必ず反動が来ると思っていた。その兆候がシーズンごとに顕著になっていると思う。

 国立大学卒、商社のエリートコースを歩み、ネットワークや生産背景、数値管理に長けていても、売場に投入する商品を一瞥しただけで売れるか、売れないかの見極めには、やはり鋭いファッション感性が欠かせない。

 そうした能力を欠く経営者に「ジャパニーズスタンダードを標榜したセレクトショップ」の威光とDNAを継承できるのかと言えば?を付けざるを得ない。

 そうした意味からも、Y-3の躍進はファッションの本質を語っていると思うし、UAの苦戦は小売り専門店の効率経営が限界に来ていることを指し示す。少し穿った書き方になったが、こうして見ると対立構造は、実にシニカルで面白い。
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