HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

右に倣えはいい事か。

2017-01-04 07:55:59 | Weblog
 2017年が開けた。業界は昨年にも増して厳しい1年になると思うが、新たなビジネスを展開できれば活路が開ける可能性は残っている。

 ここ数年のアパレルビジネスは、インターネットを利用したECに軸足が移り、さらにネットと実店舗を融合したオムニチャンネル化が叫ばれた。これにはメーカー幹部はもとより、大手小売業の経営陣までが「重要な戦略に位置付ける」と異口同音に宣い、台頭する若手コンサルタントは悉くポテンシャルの高さを強調した。

 確かに個人消費が低迷する中で、「服が売れない」理由の一つに「買いたい服が見つからない」があり、既存のリアルマーケットではターゲットと商品の間でミスマッチが起こっているのも事実だ。だから、店舗の販売テリトリーを越境してマーケットを広げれば、商品を求めるお客さんにヒットするのは無きにしもあらず。ECはこうしたテーマを見事に解決し、確実に市場規模を拡大した。

 ところが、商品づくりの課題は残されたままである。国内外で製造される数量こそ無尽蔵だが、商品はブランドやデザイン、グレード、テイスト、オケージョンなどの掛け合わせで、売れるかどうかの価値が決まってくる。ただ、ひと度、売れる商品となればたちまち競合が現れ、似たような商品がネット市場に溢れていく。

 そもそもバーチャル店舗のデジタル写真では、触覚が決め手となる素材や縫製といった商品の優位性を訴求するには限界があり、結局、競争が激化すればECも送料無料や返品自由など、サービス面で差別化するしかない。さらにSNSやO2Oアプリを導入すれば、販売管理に関わる費用がかかり、リアル店舗に比べたコスト優位性は薄れている。

 当然、小売りレベルでは、お客は1円でも安い方に流れていく。事業者間では厳しい消耗戦が繰り広げられ、あれほど威勢の良かった楽天市場でさえ、売上げの鈍化に見舞われている。ネットコンサルはサイトのブランド力向上を盛んに訴えるが、Webデザインや写真撮影には注力する一方、IT投資のために商品の原価率を圧縮するようでは全く意味がない。

 本来、ブランド力とはそれが持つ理念や世界観、活動の目的、表現力によって顧客のマインドにすり込まれていくものだ。その如何を決する商品づくりがおざなりになっているのに、サイトのブランド力もクソもない。所詮、情弱なお客を捕捉するだけに終わってしまう部分もあるだろう。抜本的な解決にはならないはずである。

 ECはリアル店舗や販売スタッフの人件費を抑制しながら、テリトリーの越境でマーケットを拡大できることがメリットだった。しかし、猫も杓子もECに参入した結果、優位性はなくなって来ている。そこで今度はリアル店舗とネットとの融合であるオムニチャンネル戦略がカギになると言われるが、商品づくりの課題がクリアできないまま、販売手法のみを喧伝したところで、個人的には解決策にはならないと思う。

 アパレル業界が闇雲に商品を作り続けた結果、お客にとって買いたい商品が市場にはほとんどなく、在庫の山が築かれるばかり。ビジネスという意味では日本での商品づくりそのものが終焉を迎えたとも言われ、アパレルビジネスはすでにITや金融といった次元で語られるようになっている。しかし、糸へん出身の人間としては、それでは片手落ちのような気がしてならない。

 人口の減少、若者の服離れ、労働力不足、同一労働同一賃金などなど、業界環境はますます厳しさを増している。識者の中には、そうした中での売上げ拡大は、海外戦略に活路を見出すしかないというお方もいる。大手セレクトショップのようにある程度のブランド力を持てば、頭打ちの国内市場よりも海外の方が開拓の余地があるということだろう。

 本当にそうなのだろうか。大手セレクトとは言え、原価率が30%を切るようなお値打ち感もない商品を販売しているのだ。売上げの鈍化は、何も人口減少や若者の服離れによるマーケットの縮小、インバウンド商品の減退だけとは限らないはずだ。アパレルビジネスがマーケティングのフレームワークである4P(製品、価格、流通、販促)では解決できなくなって以降、顧客価値や利便性、コミュニケーションといった「C」がカギを握ると言われたが、これもネット時代においてもはや陳腐化している。

 やはり、原点は一つだ。マーケットを細分化し、ターゲットをしっかりセグメントして、それにあった商品を開発しなければ、売れないものは売れないのである。それが基本の基だと思う。セレクトショップにしても日本では20年という長いスパンで成熟していったが、海外のセレクト市場は成熟度はそれよりも速い。海外戦略なんぞ言っている先から、成熟は始まっているのではないか。そこでは日本国内おけるブランド価値なんて何の武器にもならない。むしろ、潤沢な資金力によって簡単に逆に買収されてしまうリスクがつきまとう。それがグローバルマーケットなのである。

 筆者が知るあるショップは数年前からオリジナル化を進め、ECに注力して海外市場の開拓に乗り出した。商品づくりでは自社で企画から仕様まで行うため、こうした決して手を抜かない姿勢が、海外のお客からも高い評価を得ていた。ところが、海外戦略を初めてちょうど1年たった昨年、某国の購入分300万円全額がカードの不正使用で、売上げ取り消しとなった。クレジット会社は「unfortunately」とだけ答え、泣き寝入りするしかなかったという。

 Amazonが一人勝ちする中で、海外戦略はいともビジネスの救世主のように語られるが、一方でこうしたリスクが増大しているのである。おそらく今年は国際的なネット詐欺がますます横行していくかもしれない。それに対する日本のアパレル、小売りの対策は決して万全ではないし、むしろ脆弱ではないのか。まして個店レベルの海外戦略なんて管理コストの方がかかってしまい、そう簡単に利益が出るはずもない。

 海外事業に乗り出すには現地における商標の申請、カレンシー(通貨)の設定、原産国証明の取得、Shipping(国際配送)の手続き、サイト翻訳の精度アップ(某通販サイトの翻訳機能はグチャグチャ)、通販システムの改修などやることは少なくない。筆者が懇意にするフランスのメーカーも海外戦略を展開した当初は、こうした「条件でかなり困惑した」と言っていた。

 当然、それ以上に不正リスクは増大している。2017年の新年早々、地元メディアをかけめぐったのは中国本土を狙ったと特殊詐欺集団が福岡県内を拠点に活動しているということだった。所謂、外国人によるオレオレ詐欺のグループが日本を隠れ蓑してインターネット電話を利用して、中国の居住者から現金をだまし取っているのである。犯罪はどこまでも巧妙化しているわけで、オレオレ詐欺がEC詐欺にならないと誰が断じることができるだろうか。

 昨年の暮れには、佐川急便の配送スタッフが届けるはずの荷物を投げたり蹴ったり、叩き付けたりという動画が公開され、事件となった。ネット通販の人気もあり、12月には荷物の量が増大し、スタッフは過度の負担に耐えきれずイライラを重ねた末での「犯行」だったようだ。しかし、こうした問題は通販業者が競争優位に立つために「送料無料」を打ち出したことで、その分のしわ寄せが配送事業者にかかっているという構図も浮き彫りにする。

 ネットコンサルタントは、即日や短時間による配送がECの次なる一手と言うが、結果的に物流業者の負担が増すという新たな課題をどう解決するおつもりだろうか。ユニクロの潜入ルポについてのコラムでも書いたが、オムニチャンネル化における商品流通には「店まで商品を配送し在庫」「お客が来店して商品を購入」「ネット通販で倉庫から商品を配送」「お客が店やサイトで在庫を確認し倉庫で購入」の4つが考えられる。

 店内の業務が増えて疲弊するなら、ECを活用するなどで業務を効率化すればいいという理屈になる。でも、今度は物流業者に負担がかかっているわけで、お客側も何らかのデメリットも享受しなければ解決する問題ではない。

 かつてユニクロの柳井正社長は「お客様は神様ではない。王様くらいで十分だ」と言い切った。何でも言うことを聞いていたら、ビジネスにはならないとの意味だ。メリットがあれば、デメリットも生じるし、リスクないビジネスなど考えられない。特に海外戦略を考えればなおさらである。

 行政が税金で資金を拠出し、地域活性化、ファッション拠点化をスローガンにしたガールズコレクション。その代表格TGCが昨年の2回目の実施で経済波及効果が高いとうそぶく北九州市に次いで、熊本市でも開催されることが決定した。しかし、ファッションをメディアコンテンツと捉え、原価率を抑えたチープな服を三流モデルが来た客寄せ興行ごときで、アパレル産業が活性化するはずもないのは確かなことだ。

 今年は数年来続いた好調ビジネスのどれもが踊り場を迎え、難しい局面を迎えることが想像される。それに対して、大手から中小零細までの事業者はどう立ち向かうのか。何でも「右に倣え」をしてもいい事はないと思う。昨年の成功事例を捨てたところにもマーケットはあり、ビジネスチャンスが生まれるかもしれない。
コメント
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