HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

アリバイ作りの予感。

2017-01-11 06:57:01 | Weblog
 昨年暮れに業界の知人から「東京ガールズコレクション(TGC)が熊本で開催されるかもしれない」との情報が入って来た。昨年10月のTGCイン北九州では、熊本地震の復興応援ステージが設けられ、大西一史熊本市長はビデオメッセージで1万人以上の観客に復興支援を呼びかけるとともに、「(TGCを)いつかは熊本市でも」と語っていた。

 その報道を耳にした時、TGCをプロデュースするW TOKYOから熊本にもイベント開催の打診があっているなと、直感した。その時期が震災以前か以後かわからないが、復興アピールは開催の大義になるし、桜町地区で進む再開発事業が完了し、新しい商業施設がオープンする2019年は、絶好のタイミングとも言える。

 福岡市で開催される同系の福岡アジアコレクション(FACo)も、商業施設の柿落しとしとなった年があった。2010年には福岡パルコ、2011年には博多阪急がそれぞれオープニングイベントとして協賛したのだ。そう考えると、数年先の熊本が同じ流れになるのは想像に難くない。

 北九州市は、福岡県が2009年から福岡アジアコレクションを支援していることで、自治体間の対抗意識や予算拠出の公平性からTGCイン北九州への福岡県の支援を取り付け、二度の開催にこぎつけた。市側は昨年開催分の経済波及効果を14億5000万円とみており、こうしたデータは熊本市にとっても追い風になる。TGCの九州開催は他に宮崎の例があるだけで、W TOKYOが他都市をリストアップしていたすれば、熊本市が候補となる条件は揃っている。

 ただ、熊本市がTGCをプロモートするには、自治体としての支援や予算的な裏付け、熊本商工会議所ほか関係団体の連携、企業スポンサーの確保などが必要だ。要は開催資金をいかに捻出するかであり、W TOKYOとしても資金面の「担保」が絶対条件のはずだ。そう考えると、「復興支援」は行政が税金から資金を拠出するには十分な大義と言えるし、商工会議所がスポンサー企業を連携させ、残りの資金確保に動くことの説明もつく。宮崎のように単発なら、開催は不可能ではないだろう。

 加えて熊本の中心市街地を取り巻くファッション環境が依然として厳しいことがある。福岡市への年間100億円とも言われる持ち出ちの大半はファッション消費だし、周辺市町村ではゆめタウンやイオンモールの攻勢があり、郊外なりのファッションステージが形成されつつある。実際、ひかりの森周辺は新興住宅地としての発展は著しく、おしゃれをして歩くにも遜色ない街並になりつつある。

 それに対し、中心市街地は上通、下通のアーケードに店舗が並ぶ典型的な地方都市の商業構造だ。ご多分に漏れずここでも家主が高額な家賃を請求するため、出店は大手資本が中心で、2階部分には空き店舗も散見される。長引くデフレでファッション業態の顔ぶれは決まっており、大小ある再開発も面による計画ではないため、おしゃれをして歩く街路にはなりきれていない。そうした環境が中心市街地の活性化、ファッションタウン化の妨げになっている。

 個別の商業施設では、鶴屋百貨店が福岡への持ち出し阻止を旗印に有名ブランドの集積、東急ハンズ、ユザワヤなどのリーシングに注力したものの、所詮は対症療法に過ぎず、地域百貨店として抜本的な戦略は見い出せていない。しかも、百貨店系アパレルの売上げ不振は、鶴屋とて例外ではないはずだ。

 一方、熊本パルコは昨年3〜8月の売上げが震災前年比で2.9%増となっている。秋物の需要期に入った9月は微減だったが、10月は気温が高めだったにも関わらず15.4%増。気温が低下した11月は45%増と、復興需要と9月の30周年改装を上手く取り入れた形だ。しかし、これからは競争激化の波に飲み込まれるのは言うまでもない。

 4月には下通のダイエー城屋跡にNSビルがオープンする。1階〜4階の商業ゾーン「COCOSA」は、天神VIOROのデベロッパーが運営に当たる。テナントはすでに決定済みで、セレクトショップ中心のリーシングになると思われる。同じテイストのテナントをもち、ターゲットが競合する鶴屋東館、同New-S館、熊本パルコへの影響は免れない。さらに2019年には大型商業施設が開業するわけで、市場規模、購買力が限られる熊本の中心市街地では、ファッションタウンより同質化競合の不安が先に立つ。

 もっともファッション業界では、「熊本は進歩的」と言われてきた。デザイナーズブランドやインポートファッションをいち早く取り入れる気質が全国でも群を抜いていたからだ。80年代の初め、上通のアーケード入口ではコムデ・ギャルソンがすごく似合うお姉さんが闊歩しているとの評判だった。



 80年代半ばからはバブル景気の後押しもあり、下通商店街が切れた「シャワー通り」が注目を浴びた。英国のマーガレット・ハウエルがダイレクトに開店すると瞬く間にビルが建ち、その1階には同国のポール・スミスが本人の協力もあって登場する。仕掛人のA氏は後にセレクトショップの草分けと言われる「パーマネントモダン」を誕生させ、2015年にはそれを東京青山に逆上陸させた実績をもつ。

 A氏の後に続いたS氏はシャワー通りに立て続けに出店し、立志伝中の人物として業界誌にも登場した。しかし、そうした栄光もつかの間、バブル崩壊の影響で一転倒産に追い込まれてしまう。結局、1社による多店舗化で体裁を整えただけのシャワー通りは歯抜け状態となり、完全に輝きを失った。

 2000年代に入ると、呉服商から転身したM氏が高級服を売ろうとミセス向けのセレクトショップなどを出店し、通りの整備にも尽力した。しかし、後に続く経営者が登場することはなく、バブル期の威光を取り戻すまでにはいたっていない。

 若手経営者は初期投資がかからない上通商店街を抜けた並木坂、上乃裏通りに出店した。熊本で受けそうなレアなブランドや値ごろなカジュアルは、民家を改造した店舗の方が似合い、県内外から多くの若者を集めた。ただ、中小零細、個人経営の店舗が中心で、経営力の乏しさから出退店が繰り返される状況に変わりはない。それでも路地裏にはカフェや居酒屋が立ち並び、下通の歓楽街にない小洒落た雰囲気がビジネスマンやOLを惹き付けるのも事実だ。

 「熊本は全国的に見てもファッション感度が高い」。80年代のファッション業界では公然と言われていたことなので、今さら否定するつもりはない。ただ、高級ブランドの売上げ不振、百貨店や地域専門店の苦戦、郊外SCの攻勢、グローバルSPAとファストファッションの快進撃は、熊本も例外ではないだろう。唯一の救いは他の地方都市に比べファッションに興味がある若者が比較的多いことだろうか。それもECに取り込まれており、地元店にどれだけカネが落ちているかは懐疑的である。

 レアなブランドを仕入れるのが上手いと言ったところで、ナイキの限定スニーカーなんかになれば、直営店でしか購入できない。高速バス代に4000円以上を使っても、福岡まで買いに行くのが昨今の若者意識だ。その意味では熊本も他の地方都市と変わらない消費環境になっている。そんな状況下において、三文タレントによる一過性の客寄せ興行で、80年代のようなファッションタウンのロイヤルティが取り戻せるのだろうか。

自治体と商工会議所のアリバイ作り

 TGCのような客寄せ興行は「神戸コレクション」が先駆けと言われる。神戸にはワールドを筆頭にアパレルメーカーが数多く存在するため、一般向けにもファッションイベントを開催する土壌があった。神戸商工会議所が中心となって神戸市を動かし、芸能界にパイプをもつMBS毎日放送がプロデューサー、イベント会社のアイグリッツが企画に当たった。こうしてタレントが地元ブランドを着てランウエイを歩くガールズコレクションのプロトタイプができ上がったのである。

 しかし、行政課題だった地元ファッション産業の活性化は、 結果的に見ると神戸市と神戸商工会議所のアリバイ作りに過ぎなかった。結局、税金からカネが転がり込んだのは、企画制作にあたるMBSとアイグリッツ、東京他の芸能事務所に他ならないからだ。

 福岡の場合は神戸コレクションのフォーマットを踏襲し、自治体からの公金支援を受けるために「福岡アジア」という冠を付けたのが実のところだ。大義には地元ファッション産業の振興、情報発信が謳われているが、福岡は小売りの街でアパレルメーカーなど数えるくらいしかない。だから、ショーに登場するのもNB主体で、地場ブランドは申し訳なさそうに盛り込まれているだけ。こちらもアリバイ作りなのは火を見るより明らかだ。行政は事業を「民間主導」とボカしているが、イベントの実行者はMBSと同系列のRKB毎日放送。つまり、公共事業が民放テレビ局の「事業」になっているのである。

 熊本市がTGCを開催する場合、事業主体がどこになるのか。単発であれば市の経済観光局あたりだろう。2回、3回と継続させていくなら、福岡市と同じように商工会議所が中心となり、民間主導で事業化させるしかない。その時はテレビ局が名乗りを上げるのか、それとも代理店が飛びつくのか。だいたいのところは想像がつく。

 ショーに出展する商品についても、福岡と同じくNB主体になると思う。それでは地場ファッションの振興や活性化つながらないと、鶴屋百貨店はじめ、パーマネントモダン、地元発祥のベイブルックなどにも商品提供の声がかかるだろう。しかし、火事場のような忙しさのバックステージでは、商品という「売り物」がファンデーションやリップで汚されるリスクが伴う。プレス用の商品を持たない中、それを承知で小売店がすんなり貸し出しに応じるのか。スタイリスト経由で情報番組のコメンテーターに着てもらうのとはわけが違うのである。

 あとは熊本のファッション協会が地元ファッション事業の意識をどう統一するかだが、そこには一にも二にもイベント開催の大義が重要になる。資金の大部分を自治体やスポンサー企業が拠出するため、ファッション事業者は何も言えずことが進んでいく。熊本を飛び越え全国区の知名度をもつファクトリエやシタテルがスポンサーとなるのことも、事業目的が違うので考えにくい。

 熊本市では地震で全壊、半壊となった住宅が1900軒以上ある。それに対する支援は遅々として進まず、住宅再建の目処が立たない市民が少なくない。果たして3年後にそんな状況から脱却し、完全復興を遂げられるのか。大部分の市民やファッション事業者は納税者であり、税の再配分を受ける資格を有する。しかし、血税が表向きだけの復興支援のもと、イベント会社と芸能界に流れるのを見過ごせるだろうか。

 それをチェックするのはメディアの役割のはずだが、福岡の事例をみる限り期待薄だ。福岡ではRKB毎日放送が関わることもあり、他局が取り立ててパブリシティすることはなく、事業の問題点を検証するような報道もない。開催から数年を経過しても産業振興や情報発信に実効性がないため、最近では当の大義すらその集客力に合わせ、「賑わい創出」や「観光」にすり替えられている。

 それでも、タレントの肖像権がW TOKYOや芸能事務所に厳重に管理されているため、情報発信の名のもとでの写真の二次使用やYouTubeによる動画配信はできない。結局、TGCイン熊本は1日限りの客寄せ興行で終わってしまう可能性が高く、ファッションタウンとしてのロイヤルティを取り戻すことは不可能に近い。

 熊本では行政主導のイベントになればスポンサー企業はまとまるはずで、地元メディアとしてスポット収入や広告出稿が期待される。そうした利害が絡んでいるため、メディアがこうした問題点に真摯に向き合い、批判するとは思えない。

 もし、地銀団までもがスポンサーに名前を連ねると、どうだろうか。シャワー通りを発展させた立役者のS氏は、バブル崩壊で貸し剥がしに会い倒産に追い込まれたと、業界では語られている。「ファッションタウンの礎は俺がつくったのに、今さら復権かよ」。S氏の恨み節が聞こえてきそうである。

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