HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

隘路に入る生活提案。

2017-08-09 05:38:22 | Weblog
 「誰がアパレルを殺すのか」。昨秋、日経ビジネスが業界に警鐘を鳴らす意味で付けた辛辣なライトルだ。その記事を書いた記者が今度は、小売業の未来をテーマにした企業研究で書籍・AVの販売のCCC(カルチャーコンビニエンスクラブ)を取り上げている。http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/278209/072600144/

 小売業もアパレル同様に明るい話題がない。代表格の百貨店は売上げ減に歯止めがかからず、2016年の総売上高は1980年以来36年ぶりに6兆円を下回った。スーパーは2016年度の販売額が12.9兆円で、既存店では前年度比0.7%減。衣料品不振のGMSが大きく足を引っ張る形だ。

 コンビニエンスストアは2012年から売上げ増に転じている。ファミリーマートやローソンが統合や買収で企業規模を拡大する一方、セブンイレブンは積極的な商品開発で、平均日販で75万円を目指す構え。数少ない勝ち組として当分、安泰だろう。

 家電量販店は2010年以降、業績の増減を繰り返す。販売額は地デジ移行やエコポイントなど大型テレビの販売増に支えられて来たが、4K、8Kも所詮は買い替え頼み。大手ではリフォームや電力小売りなどへのシフトも見られるが、専業との競争が激しいだけに、家電量販そのものが消滅するとの見方もある。

 そうした小売業界で、CCCは異端の存在だ。80年代にレンタル事業をスタートさせFCで多店舗化すると、90年代には書籍やゲームソフトを抱き合わせる複合業態で売上げを拡大。レンタル事業がネットビジネスの影響を受けると、今度はカフェなどの併設で集客力を高めていった。

 その集大成が東京代官山のT-SITEで、レストランやペット店を揃え、徹底したコンフォート空間を追求する。書籍ではデザイン関連を充実させ、独自の開架手法で見せることで、実際に触れてから購入するスタイルを創り出した。

 二子玉川の蔦屋家電では家電の取扱いにも踏み込んでいる。こちらは商品を機能や価格だけで選ばない客層の開拓に挑むもの。それを見た家電量販大手のエディオンがCCCとFC契約を結んで開店したのが、記事にある「エディオン蔦屋家電」である。家電店でありながら書籍が並びテナントも揃う、従来の発想では作れない異色の店舗と言える。

 フロアは「コミュニケーションと美(1階)」、「趣味とワースタイル(2階)」、「暮らしと子ども(3階)」に分かれている。しかも、家電では美容関連商品、調理器具などにスペースが割かれ、品揃えが充実している。テナントではあるが、電動アシスト自転車が1階で堂々と展開されているのも、他ではなかなか見られない。

 従来の家電店のようなテレビ、AV、白物、周辺機器、消耗品などの括りではない。ライフスタイル提案を軸にカテゴリーをセグメントし、テナントを加えて編集している。また、イベントも数多く企画され、夏休み中には子供向けの「夏の思い出アルバム作り」、大人向けには「海のモビール作りワークショップ」などが開催されている。

 アマゾンなどのネット通販が攻勢をかける中で、増田社長はリアル店舗が生き残るには「モノを売るのではなくて、ライフスタイルを売る」と強調する。ただ、飲食やカルチャーを合体させたライフスタイル業態は、すでにありふれている。フレーズだけ見れば陳腐化した手法に見えなくもない。こうした手法で売上げを伸ばせるかには疑問を抱く。

 家電量販店はナショナルブランド主体の販売で、単体でも数千億円から1兆円の売上げ規模を誇る。ジャパネットたかたもメーカーに独自仕様、買取などの条件を出して粗利を維持する政策ながら、基本は有名ブランドしか扱わない。年商1500億円の3分の2以上を家電で稼いでいる。なんのかんの言っても市場規模が底堅い証拠で、まだまだビジネス基盤は安定しているのだ。

 ところが、エディオン蔦屋家電は、「書籍と家電を軸にした新しいライフスタイル提案」としては目を引くが、お客のニーズは書籍か、家電か、その他である。商品の目的買いを考えると、大半のお客にとって書籍は品揃え豊富な大手書店の方が買いやすいし、家電についても安心感やアフターサービスまで視野に入れると、量販店に眼が行くはずだ。

 家電店の商品構成について言うなら、量販店もダイソンの扇風機やクリーナーを扱い始め、ジャパネットたかたはルンバを販売するなど、ナショナルブランドとは異質の商品にも目を向けるが、まだまだ一部に止まっている。メーンは国内メーカーの有名ブランドで、なおかつそれがマス市場を形成しているから、売上げ規模は大きくなるのである。

 ここからは私見だが、二子玉川やエディオンの蔦屋家電には、国内メーカーがマスルート向けに開発した製品よりも、デザイン性や機能を絞り込んだものの方が似合うと感じる。東芝OBが創業したリアルフリートの「アマダナ」やクリエイティとテクノロジーを融合させる「バルミーダ」である。他には「T-fal」がそれに当たるだろう。

 国内メーカーの有名ブランドを扱うにしても、そうした商品をメーンで打ち出した方が売場も引き立つし、何よりフロアごとのライフスタイル提案にも合致する。それらはメーンの商材にはなり得ないが、デザイン関連の書籍などとは親和性がいいし、量販店はなかなか扱わないので集客の目玉になる。

 しかしながら、アイテムの種類は狭まり、購入客が限定されるので稼ぐ商材にはなり得ない。筆者も自宅ではSONYやパナソニックの家電を使用しているが、事務所では軽食を作るトースター、残業用の食材や飲料水をストックする冷蔵庫、掃除用のコードレスクリーナーは、スウェーデンブランドのELECTROLUX(東芝などがOEMで製造)を愛用している。デザインに携わる事務所で、インテリアなどとのコーディネートを考えてのことだから、マスマーケットからは完全に外れている。

 アマダナやバルミーダ、 T-fal 、ELECTROLUXは、どちらかというと家電店よりインテリアショップや雑貨店向きの商品で、今ではネット通販がメーンの販路になりつつある。ターゲットが限定されるだけに、マーケットを広げないと売上げは積めない。言い換えれば、顧客が限定されるので、1店舗で数を売る商品にはなりにくいのだ。

 ライフスタイル提案の家電店と言えば聞こえはいいが、売場づくりに合わせて取り扱う商品を絞り込むと、売上げ規模は限られてしまう。売上げとの兼ね合いを見ながら、基本的なMD構築するのは容易ではないのだ。量販にどっぷり浸かって来たエディオンがそれをどこまで我慢できるか。それは企画開発したCCCとて、主力業態TSUTAYAの方向性をどうするかの試金石でもあると思う。
 
 代官山店のような旗艦ストア、ギンザシックスの蔦屋書店は多店舗化できないし、そもそも高コスト構造で単体でペイしているかすら疑わしい。 他の都市型店にしても小洒落た書店にカフェを併設し、上層階にレンタル店舗やCDショップを構えたくらいで、どれほどの売上げがあるのか、ずっと疑問に思っている。

 カフェやレストランなら単独業態がどこにでもある。だから、TSUTAYAは郊外店を含め、わざわざ買いに行かせるような品揃えしないと、競争力はつかない。それとて、アマゾンなどのネット通販が扱えば、お客が現物や価格を確認するだけのショールームと化してしまう怖れがある。もの作りをしていないCCCには、いちばん難しい選択なのだ。

 だから、イベントに注力し集客しているのだろうが、小売業は興行ではないからそれが収益にはなり得ない。イベントはあくまで集客、販促の手段であり、販売して売上げを稼ぐのは商品である。そう考えると、いくらTSUTAYAが2013年以降、売上げがV字回復し、営業利益が120億円に達してていると言っても、楽観視はできないと思う。

 記事には「CCCの施設に個性をもたらしているのは、(中略)増田社長の細部へのこだわりもある。店舗で働く社員にとって「顧客視点の徹底」は最重要課題だ」とある。この顧客視点がミソで、経営者なら誰でもできそうで、実際にはできないこと。増田社長だからできるのだとの声は少なくない。

 増田社長は70年代にトレンドと売れ筋を提案しながら互いに競い合い、マーケットをリードした専門店チェーン、鈴屋の出身。筆者の知り合いにも何人か鈴屋OBがいるが、総じて増田社長を高く評価する。トップダウン式の顧客視点もそうだが、やはり他の小売業がやらない企画提案力は群を抜くというものだ。

 CCCは今後もライフスタイル提案の業態、コンフォートな店舗環境、イベントや飲食などの時間消費を切り口に、いろんな小売業態を創造していくようだ。それにしても、運営コストを吸収できるだけの売上げがあるかは未知数。だから、ローコストな郊外店をいかにリニューアルして、魅力ある店舗にしていくかがカギになると思う。

 もっとも、これまでは現にある商材やサービスをパズルのように組み合わせてライフスタイルに焼き直し、コンフォートな空間で展開するものだった。それで成長軌道に乗ることができたが、その成功体験だけで小売業の未来を示すのは容易ではない。

 すでにライフスタイル提案そのものが隘路に入っている。求めるお客がいないわけではないが、嗜好が多様化するにしたがって絶対数は多くならない。消費者のライフスタイルを切り口にする業態こそ、マスを握れないもどかしさを抱えながら、生きながらえるしかないのだ。小売業の未来はますます混沌としていると思う。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする