HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

演出には物語がいる。

2017-08-23 05:53:00 | Weblog
 福岡の中心部で生活をしていると、百貨店やファッションビルのウィンドウもありふれた光景になってしまう。通りすがりにディスプレイ作業に出くわしても、商品そのものに特徴がなければ、AIDMAの法則のAで止りIには行かない。ディスプレイはもの言わぬスタイリスト。テーマを設定して装飾を施せば完了ではなく、微に入り細にいった演出にこそストーリーが必要だと思う。

 業界に入った頃は、取引先を通じてマネキン屋さんやフリーのディスプレイヤーと交流があり、ウィンドウから壁面、VPやFOまでのノウハウを教わった。中小零細のアパレルは卸が専門だから小売店のような演出技術は求められないが、大手アパレルメーカーは直営店を展開することから、専属のデコレーターやディスプレイチームがいた。そしてマネキン屋さんのスタッフやフリーのディスプレイヤーが企画から参画することもあった。

 有名だったのはワールドが直営展開する「リザ」だ。専門チームがキャラバンを組んで全国の店舗に出張していた。神戸三宮の旗艦店はまさにお手本と言えるのレベルで、専門店関係者が視察するほどだった。また、全国チェーン鈴屋のディスプレイもウィンドウに貼ったカティングシートでシーズンテーマを訴求したり、限られたスペース(奥行き)のハンディを克服するためにタペストリーを使うなど、その道の先駆者だった。

 かつてはメーカーが作る商品からいかに売れるテーマを設定して、ストーリーと演出のもとであらゆるツールと材料を駆使し、スタッフが徹夜で作業するディスプレイこそ、人の英知と技術の結晶だと思っていた。 しかし、今では小手先の演出であるディスプレイより、トータルな展開法のVMDが重視されている。

 これも時代なのだろうか。ウィンドウディスプレイでは、なかなか通行人の心をつかむことができなくなったようだ。最近ではあまたあるコンテンツの中から、商業施設やストアのコンセプトに合致するものを選び出し、独自のテーマやストーリーを作り上げることに注力するディスプレイも登場している。



 バーニーズニューヨーク横浜店は先日、「クレイジーケンバンド」結成20周年を記念したディスプレイを公開していた。バンドが横浜で結成されたこと、曲の中でバーニーズが登場することなどから、過去に何度もディスプレイに登場したようだ。今回はリーダーの横山剣自らバーニーズ側と組んで演出に参画したという。

 横浜は開港後、港町という特性から様々な海外文化が流入した。特にアメリカンカルチャーは日本的なフィルターを通して解釈され、独自の風俗や音楽を生んでいる。テレビドラマの「俺たちの勲章」や「プロハンター」、「あぶない刑事」では、街のロケーションにファッション含めたカルチャー上手くをシンクロさせていたし、クレイジーケンバンドも横山剣が描く詩や作る曲からステージ衣装に至るまで、日本人が捉えたアメリカンな横浜軸が貫かれている。

 横山剣自身のソウルフルな歌声はJ-WAVEでたまに聞いていたが、テレビドラマのタイガー&ドラゴンの挿入歌で一躍全国区になったと思う。夏になると必ずラジオからアンプテンポで韻を踏むGTが流れてくるが、自らの歌をロックとか演歌とかを含めた歌謡曲と言っているように、その曲調はいつ聞いても心地いい。東京のようにすかしたところがないのが「ハマ音楽の魅力じゃん」と思う。

 バーニーズニューヨーク横浜店は、バーニーズである以上、基本MDは変えようがない。でも、横浜で25年以上も展開する店舗として地元民に愛されるためには、何らかの形で地域密着は必要だ。その意味で横浜店は横山剣が曲に描いた地元での買い物スタイルの一つとして定着したということだろう。それを梃にディスプレイから横浜ファッションストーリーなどが生まれてくることがあっても良いのではないかと思う。

 よそ者の視点であえて言わせてもらえば、横浜ファッションはトレンドがコロコロ変わるものではないし、逆に古き良きというか、時間が止まったようなテイストが受け入られるのではないだろう。海外のラグジュアリーブランドは無理だが、東コレ系のデザイナーなら原宿青山発信としてエッジをきかせるより、横浜ライクな古きテイストをクリエーションに昇華させるって手もあるのではないかと思う。

 個人的には、ドラマの「プロハンター」で俳優の藤達也が着ていた「YOKOHAMA my SOUL TOWN」のロゴの入ったブルゾンやTシャツをバーニーズが限定で復活させてくれないかと思っている。タイプフェイスが独自のもので、当時の横浜らしさが見事に表現されていた。それを衣装に起用したプロデューサーやスタッフのセンスの良さもうかがえる。当時の視聴者には共演した草刈正雄が着ていたトロント大学のスタジャンの方が人気が高かったようだが。そんなテイストはセレクトショップに任せておけば良いと思う。

 筆者の地元にあるバーニーズニューヨーク福岡店は、レソラ天神の地下1階から地上2階までの3層構造で、そえほど品揃えの奥行きはない。元来、ビジネスエグゼクティブを対象とするファッション専門店だけに、品揃えはラグジュアリーブランドや一部のコレクション系デザイナーに絞り込まれている。ウィンドウディスプレイは2011年のオープン時からずっと見ているが、今イチパットしない印象だ。

 この秋第一弾のディスプレイは「the BEST in FALL」と題して、阿部千登勢の「SACAI」や落合宏理の「FACETASM」などがラグジュアリーブランドと一緒に飾られている。昨年も同様に感じたが、あまりにコレクション系のブランドを打ち出すために、アイテムそのものがデザイン的に陳腐化した印象は拭えない。とても洗練しているとは言い難く、どうしても安っぽいカジュアルにしか見えないのである。

 福岡の経済規模を考えると、バーニーズの買い物できる客層は限られる。だから、ディスプレイでラグジュアリーよりカジュアルを打ち出す方向性はわからないではないが、これでは通行客の目を釘付けにし、購入させる気にはさせないのではないか。やはりまずは商品そのもののレベルやクオリティ、クリエーションなのだ。

 バーニーズニューヨークの日本法人「バーニーズジャパン」は、今日ではセブンアンドアイホールディングスが100%子会社になった。基本MDの構築は傘下の百貨店西武・そごうの仕入れノウハウや外部からのスタッフ招聘で行っているのだろうか。しかし、お客の目は肥えて来ているし、マーケットは成熟している。欧米のラグジュアリーと国内のコレクション系、雑貨、小物をセレクトミックスする手法がどこまで通用するかは疑問だ。

 日本の大手セレクトショップは仕入れ商品を減らしてオリジナルを増やすSPA系セレクトで売上げを維持している。バーニーズジャパンくらいの店舗数ではオリジナル開発は厳しく、仕入れに頼らざるを得ないのだろうが、それにしても大枚をはたいても買いたくなるような商品がディスプレイに飾られていないのであれば、売上げには結びつかない。

 横浜店のようにカルチャー色を出せればいいのだが、福岡ではそれも無理である。販促としては売場に並ぶ商品を使うしかなのだろうが、そもそもの商品に魅力がなければ設定したテーマに演出を施したところで、ストーリーは生まない。

 かつては日本のバーニーズも一部のオリジナルを開発していたようだ。決して絶対数は売れないかもしれないが、上質やミニマルを切り口にするファクトリー系ブランドなんかを開発してみてはどうだろう。価格が高くても売れるかもしれないし、ディスプレイも演出で商品の個性を殺すこと無く、独自性やストーリーを発揮できるのではないか。

 セブンアンドアイホールディングスは、同社のPB「セットプルミエ」に期間限定でジャンポール・ゴルチェや高田賢三によるデザインを採用したが、西武やそごうの売上げを押し上げることなく、全く期待はずれに終わっている。所詮、スーパールーツの持ち株会社が潤沢な資金力を背景にとりあえずやってみただけの話で、百貨店のMDをテコ入れするほどのノウハウはなかったということである。

 そうした親会社の現状がバーニーズにも現れている。そこまでだと言い過ぎだろうか。しかし、店舗演出に感動もストーリーもなければ、お客は商品に気を留めるはずもないし、まして購入への行動を起こすとは考えにくい。ファッションマーケットが急速に成熟し、縮小の一途を辿っているだけに高級専門店こそ、まずはディスプレイから熟考することが必要だし、それにそった商品調達は必須条件だと思う。
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