HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

利益を生む力とは。

2019-02-20 04:56:46 | Weblog
 先週の業界は「ZOZOTOWNの躓き」一色だった。知り合いのアパレル関係者らとネットや電話で会話している時も、誰彼なくZOZOTOWNの話を振って来た。試着派の当方としては正直、ZOZOTOWNでの注文は「外れ」が多かったので、購入を諦めほとんど返品している。

 一昨年に購入したスニーカーも2週間ほど履いたが、しっくりこないのでそのままだ。「今後もEC特化でバーチャルを貫く限りは、購入することはないと思う」と、個人的な意見を述べるしかなかった。

 地元のネット情報会社の担当者は、ビジネス紙誌までが取り上げていたので、気になったのか電話をくれた。ここでも「大手ブランドが次々と自社ECの開発に移行すれば、ZOZOTOWNに残るのはマイナーブランドばかりになる怖れがある」と、答えた。そうでなくても売上げランキングの上位には、感度や知名度とも今イチのものやディスカウントされた商品ばかりが並ぶ。

 お目当ての商品をわざわざ探すにしても、キーワードを入力して検索に引っかかるのは、安っぽいものばかり。地方ではショップに行っても大した商品がないから、ZOZOTOWNに期待するお客は少なくないと思うが、「魅力的と感じる商品が減っていけば、アクセス数や購買率は確実に落ちていくので、ECプラットフォームとしての競争力は衰えていくのではないか」と、私見を述べた。

 加えて、福岡という街に照らし合わせると、モノを売るしかないことから、ZOZOTOWNの躓きは他人事ではない。大手のブランドが自社ECを充実させることは、小売事業者が自らの課題として向き合わなければならない。お客にとってECプラットフォームが商品購入の主流になっていく中、小売りの街という性格からすれば、「百貨店や商業施設がECに実店舗をどう融合させて商品選びや試着、決済、受け取りまでに対応していけるかが問われて来る」と、見解を述べた。

 正直、現状の実店舗が抱える商品では、もはやお客のニーズ、ウォンツには対応できない。これは福岡だけでなく、ほとんどの都市商業に言えることだ。それは小売業側も薄々気づいているだろう。だから、小売業が激的な環境変化に直面している状況では、場当たり的な客寄せイベントを開催したり、スマホ対応型の共同懸賞を実施したところで、福岡は抜本的な解決策、ましては産業振興にはなり得ないということである。

 翻ってZOZOTOWNの件。筆者はもともとEC礼賛の流れには与しかねるので、出店する中小のアパレルには販売手数料を30%以上も取られながら、大手が離反しても継続する理由が本当にあるのかと、問いたい。ECそのものは生活に完全に浸透したので否定するつもりはないが、筆者が特に思っているのは「現物の商品を確かめて買いたい」「気に入らなければ、試着の場で返品したい」「時間に関係なく受け取りたい」である。これらはECが販売チャンネルの主力になれば、むしろ差別化の要素として重要ではないかと思う。

 つまり、こうしたニーズを店舗とECを融合させる中でくみ取っていけるところが、商取引の激的変化の中、次なる主役に躍り出るのではないか。それが自社ECにシフトしている他社なのか、それとも巻き返しにかけるZOZOTOWNなのか。自社ECに注力するブランドがそれらのシステムを完全に構築した時、ZOZOTOWNはどうするのか。

 ECプラットフォーマーの進化が望まれる中で、ZOZOTOWNがこうした消費者ニーズに真摯に対応していくのか。対応しようという姿勢が見られるのか。それが中小のアパレルにとっては継続か、撤退かの見極める潮目になるのではないかと思う。

 小売りの現場を考えても、単に「店はなくならない」という情緒論ではなく、具体的にどういう手法を取れるところが台頭していくのか。そこでは店の役割はどうなるのか。それを明確に示せるところがオムニチャンネル時代のリーディングセーラーになっていくのは間違いないだろう。

 つまり、ECモールのZOZOTOWNがクーポンの連発や常時10%の割引といった販促策のみにあぐらをかき、現状のプラットフォームのままで店舗委託事業を続けて行くのであれば、躓きでは終わらず凋落へと突き進む可能性がないでもない。投資家の判断は一般客よりはるかにドライだろうし。

 昨年、知り合いが注文した「PBジーンズ」を見せてもらった。しかし、いくらお客の体型に合わせた「オーダージーンズ」を謳っても、量販店でハンギングされているような安っぽいデニム生地を使ったものだ。すでに多くの識者が分析している通り、このジーンズはお客が計測したサイズにそって仕上げたものではなく、あらゆるサイズを落とし込んだ既製パターンによるものをある程度、製造していた在庫に過ぎない。

 筆者は出来上がりを見て、瞬時にファッションアイテムとしての価値は、非常に薄いとの印象を受けた。やはりオーダーというイメージ先行も、話題性ばかりで真摯なもの作りに取り組むことではなかったようだ。それはオーダースーツも然りではないか。

 名だたるセレクトショップや著名なブランドが出店してでき上がったECモールの格と、PBへの取り組みは肝心なもの作りが稚拙でダサい。両者のギャップは洋服好きから見れば、あまりに大きすぎる。やはり餅屋は餅屋である。アパレルのことはメーカーに任せ、ZOZOTOWNはECプラットフォームの進化を突き詰めた方がいいというのは正論に感じる。



 業界人としてはここら辺までしか追及できないが、あれほど持ち上げて来た経済紙誌でも急転直下、上場企業の経営者として姿勢を疑う論調が増えている。ここで詳細を取り上げるのは差し控えるが、ZOZOTOWNに出店するアパレル以上に、厳しく見ている投資家がいるのは間違いないだろう。

 長らくアパレルや小売りの業界を見て来たので、経営のトップ像にも触れてみたい。経営者を志向する人は、自己実現を達成したいのと同時にカネを儲けたいという野心、サクセスしたいという野望を持ち合わせている。それらがある程度、叶うようになると次なる目標に移行していく。

 一つは土地や建物といった不動産に投資して、自分の資産を堅持しようとする人。もう一つはもっと大きな事業に参入したい、もっと売上げを拡大したい、そして世の中(マーケット)に凄い経営者だと評価されたいと考える人。発展志向型の前澤社長は、後者に近いだろうか。

 ただ、「企業は社会の公器」であることを考えれば、経営者としてまず組織を固めるために社員教育や福祉などに稼いだカネを使うはずなのだが、前澤社長はそうではない。SNSを通じて球団経営、月旅行、100人に100万のお年玉など、耳障りのいい夢を語るばかりだ。いくら自己資金を使うと言っても、上場企業の経営者が語れば、投資家は注目するし、株価にも影響する。まるでそれが狙いのようにも見て取れる。

 経済紙誌の中には、「ストックオプションとして新株予約権を自身に付し、株価が上がれば自分がまたぼろ儲けできるスキームにしている」「自分の株を売った途端に自分に株が来る仕組みにしており、まさに打ち出の小槌だ」と、前澤社長の巧みな錬金術を厳しく指摘するところまで出てきた。

 2020年9月には、物流施設専門のデベロッパー、プロロジスが茨城県つくば市に開業する「プロロジスパークつくば2」を借りて、自社の物流センター「ZOZOBASE」を拡張することが、このほど発表された。前澤社長としては、これも合理化に対する投資のつもりだろうが、このままブランド離れが進めば、物流センターは計画通り(取扱高7000億円規模)に稼働していくのかと、不安になってしまう。

 せっかくSNSを休止し、本業に専念することを発表したのだから、システム面での投資や経営体制のあり方でも、ZOZOTOWNは変わったところを見たいものだ。でないと、社員やアルバイトは前澤社長のためだけにあくせく働いているようなもので、企業力はもちろん、経営に携わる幹部の力量、それらを含めた組織の力、個々のスタッフの能力やモラルは高まらない。結果として、前澤社長がいちばん望んでいるはずの「企業として利益を生む力」は、どんどん減退していくのではないかと思う。

コメント
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