HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

その1%がのしかかる。

2019-02-27 04:46:31 | Weblog
 前々から噂されていたが、ついにAmazonが「全商品」でポイント還元を実施する。5月下旬から利用客の購入額に対して「1%以上」のポイントを付与するものだ。すでに出品事業者には「5月23日にポイント制度を変更する」旨が通知されている。

 ただ、費用は「出品者の負担」というから、出品事業者は販売手数料を取られた上にポイントによる割引まで強いられると、ますます利益を削られる。巨大IT企業であるプラットフォーマーの庇護のもと、中小零細の事業者が絞り取られていく仕組みが果たして健全な商取引と言えるのだろうか。

 そもそもポイント還元が利用され始めたのはいつからか。1995年頃、米国の航空会社が「マイレージサービス」を日本でもスタートしたと記憶している。当時、筆者はユナイテッドエアでニューヨークに行ったので貯まったポイントを次に利用したが、日本の航空会社がサービスを始めたのは福岡に戻った1997年以降で、航空各社が連携するアライアンスは2000年代に入ってだった。

 2001年、JR東日本はICカード乗車券「Suica」を発売し、これにクレジット機能がついた「VIEW Suica Card」が登場すると、駅ビル、旅行商品などでポイント付与が始まった。また、書店・AVレンタルのTSUTAYAは、自社で「Tポイントカード」を導入し、他店舗や異業種でも利用を可能にした。家電量販店が本格的に参入したのは、安売り競争が激化した2000年以降ではなかったかと思う。

 百貨店やファッションビル(駅ビル)、ショッピングセンターも、単独の自社カードを発行した。こちらでも入会時のポイント提供、また商品購入だけでなく、来館だけでポイントが付与されるところもある。一方で、岩田屋が経営破綻した2002年には、これから他の百貨店でも同じような噂が出回ると、貯まったポイントの「取り付け騒ぎ」が起こると皮肉られたこともある。それだけポイントサービスが浸透した証左だろう。

 今や消費者はいくつものポイントカードを持っている。筆者も鉄道系からTポイントやPonta、ドラッグストア、アパレル、 アクタスやニトリ、伊東屋やキンコーズ、 ビックカメラ、丸善まで、それぞれで買い物頻度は高くないのにカードだけがウォレットに増えていく。缶コーヒーBossのラジオCMではないが、「貯まっているのは、ポイントではなく、ポイントカードではないのか」も、笑えるオチではないような気がする。

 最近では東急ハンズのようにスマートフォンアプリを開発して電子化するところが出始め、プラスティックカードを持つ必要はなくなっている。しかし、管理コストはかかるわけで顧客の囲い込みにカネをかける割に、どこまで販促効果が上がっているのかと思わないでもない。そして、満を持してネット通販のAmazonがポイント還元に乗り出すことになったわけだ。

 同社は自社調達品とマーケットプレイス出品の全商品にポイントを付与する。1ポイントを1円としてサイト内の物販の他、Kindleのコンテンツ購入などで利用が可能。期間は1年で、その間に購入しなければ無効になる。これが販促にどこまで有効かはわからないが、出品事業者にとっては1%と言えどもコストになる。それがAmazonや他社ものに使われるケースもあるのだから、納得はいかないだろう。

 振り返ると、消費者還元に対する小売業者の不満は、今に始まったことではない。筆者がアパレル業界にいた頃はポイントカードこそなかったが、ファッションビルが自社カードの利息分をゼロにするキャンペーンが始まりかけていた。うちの会社の取引先だった専門店の経営者は、それについて以下のような思いを吐露していた。

 「ファッションビルは自社カードの新規会員の獲得や利用促進のために、平気で数%の金利を割り引くキャンペーンを実施するが、それが我々中小の専門店には非常に堪える

 「信販会社に支払う利息は、百貨店に比べると個店専門店の方がはるかに高いのに
 
 「ウエアの購入はクレジット払いが当たり前になったが、キャンペーンでデベロッパーの自社カードを利用されると、荒利益にもろ響く

 当時、筆者は大学を出て数年が経っていたものの、専門店の経営など深く知る由もない。それからプレスプロモーションに従事するようになって、お客がファッションビルの自社カードで購入した金利を割り引かれても、応分の負担は購入先のテナントが被ることを知った。中小企業にとってわずか1%でも割り引けば、荒利益に影響が出ることがようやく理解できたのだ。アパレルビジネスは金融の側面を持つということもである。

 それでも、デベロッパーは販促策の一環としてカード利用を促すキャンペーンを定期的に展開した。ポスターにはタイポグラフィ的なレイアウトで、「いちばんムダなものは、金利です」というキャッチコピーが踊るなど、止まることを知らなかった。それらが広告賞にノミネートされる陰で、テナントの中小専門店が疲弊しているのも事実だった。

 そして、行きついた先がAmazonまでが1%以上のポイント付与を行うもの。これについては出店する中小零細事業者から「ポイント還元の販促効果よりコスト増が重い」とか、「ポイント費用分を値上げせざるを得ない」とかの声が上がっているという。

 おそらくAmazonはプラットフォーマーとして小売店のコスト増には感知しない一方、値上げには反対するのではないか。それでも巨大IT企業の支配力からすれば、今回の施策で多少の退店はあるにせよ、それほど影響はないと見ていると思う。言い換えれば、Amazonは中小零細から搾り取ることで生きながらえるとも言える。

 ネット通販が定着し始めた10年ほど前、Webコンサルタントは「サイトのデザインはもちろん、SEO対策に注力しアクセス数を増やしながら、マーケティングやブランディングを強化したところが生き残る」とうそぶいていた。今日では各社がそれを達成したため、結局、ポイント還元=割引競争による顧客の囲い込みに行きついてしまったのだ。



 こうした弱肉競争の構図に、国も動き出している。Amazonなど巨大IT企業が圧倒的に優位な立場(店舗やアクセスの多さによる圧倒的な市場支配力)を利用し、取引先企業に対して不公正な契約を強要する(Amazonのケースも含め)ことは、独占禁止法の「優越的地位の濫用」で規制できるという考え方だ。

 所管の公正取引委員会は、「出品者にポイント還元の原資を負担させる場合、出品者側に直接的な利益があることを明示しないまま規約を変更すると、優越的地位の濫用にあたる可能性がある」と回答。また、独占禁止法を補完するために「重要な取引条件は開示を義務づける」ことや、「課徴金の引き上げ」も検討している。

 2月26日、 公正取引委員会はポイントの原資を出品者に負担させるのが独占禁止法に違反する可能性があると、実態調査に乗り出す方針を固めた。Amazonと出品事業者の双方に聞き取り調査を行い十分な情報が得られない場合には、強制調査の対象にする「40条調査」を行う可能性もあるという。ただ、こうした取り組みがどこまでプラットフォーマーの横暴を抑止し、中小零細事業者を保護できるかは未知数だ。

 数年前、かつてDCブランドを数多く扱い、全国的に知名度のあった北九州市の専門店が福岡市の六本松に路面のセレクトショップを出店した。場所は東京・広尾にも似たけやき通り近くで、瀟洒なマンションが立ち並ぶ通りの一角だった。たまたま車に乗っていて、店舗サインのロゴマークを見て出店を知ったのだが、次の機会に六本松で地下鉄を降り、お店を覗いてみた。

 マネージャーらしき男性に「福岡では路面に出店されたんですか」と訊ねると、「ビルインのテナント出店は、カードのポイント還元がかなり厳しくて」「路面ならそれもないので、じっくり商売しようかと」と、照れ笑いしながら応えてくれた。この言葉は実に印象的で、中小専門店の思いが滲み出ていると思った。



 ユニクロのような力のある小売業は、デベロッパーのやり方に与せずポイント還元を拒むこともできる。しかし、Amazonのようなプラットフォーマーは出店者には有無を言わせず、異を唱えるなら退店して構わないと突っぱねる。とすれば、北九州の専門店のように大手の庇護から抜け出すことも、経営判断の一つとしてありではないのか。

 アパレルの販路はネットが全てではないし、右に倣えを捨てたところにもマーケットは出現する。たかが1%、されど1%である。中小零細事業者にとっては、ポイント還元が顧客の囲い込みや販促でどこまでの費用対効果なのか。じっくり精査することが肝心だ。むしろ、大事なのは事業者自らがプラットフォーマーに囲い込まれないことかも。泣き寝入りしないことが中小零細を強くするのである。

コメント
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