HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

市民モデルはプロ?

2019-04-10 06:22:01 | Weblog
 先週の続き。4月20日に開催される「KUMAMOTO 2019 TOKYO GIRLS COLLECTION」は、熊本市が「震災復興」「地域の活性化」、熊本県が「若者・女性が活躍する社会創出」「街づくり」「人づくり」「仕事づくり」といった大義を掲げ、イベントに「公金」を拠出する。

 ただ、出演するタレントや裏方スタッフのギャラはもとより、会場費、ステージの設営や音響照明などに莫大な経費がかかるため、チケット収入、自治体の公金支援ではとても総事業費を賄えない。

 そこで、地元企業をスポンサーに付けることで、主催者側はできるかぎり利益が出るようにする。TGCを企画制作するW TOKYOは、地方開催におけるビジネスフォーマットを作っており、熊本開催もそれにそってスポンサー確保に向けた活動を行うように指南したと見られる。



 公式サイトによると、TGC熊本の地元スポンサーは、トップ級のプラチナパートナーが「鶴屋百貨店」。一般クラスのパートナーが「エルセルモ」「再春館製薬所」「桜十字病院」「キューネット」「シアーズホームグループ」「フジバンビ」「明和不動産管理」「HIRATA」「アイシン九州」「熊本ドライビングスクール」「セイカホーム」。メディアパートナーがローカル放送局の「TKUテレビ熊本」になる。

 また、新たに「ウエラ」「KBL美伸」「マルコ」「ダイドードリンコ」など地元以外の企業もパートナー級のスポンサーに加わっている。一応、業種は小売り、冠婚葬祭、化粧品、医療介護、防犯警備、住宅建設、食品、不動産管理、機械設備製造、自動車部品製造、自動車教習所、そして放送。 シアーズホームグループとセイカホームが業種でかぶるが、「一業種一社」というスポンサーシップの不文律は一応守られている。

 スポンサーのランクは拠出する料金で決まる。これはオリンピックやサッカーのワールドカップの方式をベースにしたもので、今や多くのイベントに踏襲されている。スポンサーは自社の事業活動にTGC熊本の「ロゴマーク使用」や「チケットプレゼント」、会場での「プロモーション」などが可能になる。

 筆者の付き合いのある地元ファッション関係者は、「スポンサーはテレビ熊本が日頃からスポットCMを放送しているところを中心にリストアップして、商工会議所が組合企業であるところにプッシュしたようだね。ファッションと関係ない業種ばかりだと格好がつかないから、鶴屋が協賛することで何とかバランスは整ったと思う。観客のことを考えると、エステや理美容も必要だけど、熊本には有力な企業がないから、これは全国ブランドをつけるしかない。TGCもカネのないところは眼中にないだろうし」と、裏事情を読む。



 また、知り合いのショップ経営者は先々週に話した際、「明和不動産は3月いっぱい賃貸契約をした人にチケットが当たるキャンペーンをやってたよ。4月は就職や進学で(熊本)市内に来る若者も結構いるからね。一定の効果はあるんじゃないの。他のスポンサーのことはわからないけど」と、語っていた。

 TKUテレビ熊本はイベントの模様を収録し深夜枠で放送するから、視聴率には期待できないにしても、今後のビジネスモデルにはできるだろう。 企業によってTGCのスポンサーメリットはあるが、いかにマーケティングに生かすかは企業次第のようだ。

 熊本は県内企業の2017年度売上げベスト10のうち、3社がパチンコ企業になる。それらもテレビ熊本のクライアントだろうが、さすがに未成年も来場するガールズコレクションにパチンコ企業がスポンサーというわけにもいかない。まあ、フィギュアスケートには「マルハン」が堂々とスポンサーになっているので、これからスポンサーの撤退や資金不足になれば、あり得るかもしれないが。

 スポンサーの顔ぶれは公式サイトの開設直後は、地元企業だけが名前を連ねていた。しかし、それではW TOKYOとしては資金不足で利益がでないからだろうか、後から全国区の企業もスポンサーに加わっている。公共事業化したイベントへの公金支援は、数を重ねると次第に減額されていく。だから、TGC熊本を2回、3回とリピートしていくには、どこまでスポンサーが集められるか、確固とした事業化=ビジネスモデルが作れるかにかかっていると言えるが、果たして…

 関連企画のもう一つには、ショーに出演する「一般モデルのオーディション」がある。これは昨年12月15日に熊本市役所で行われた。西日本新聞は「審査にはW TOKYOの役員や市の幹部があたった」と報道した。また、地元紙には、オーディションは「下は11歳から上は66歳までの男女45人が参加した」とあった。前出のファッション関係者の知り合いも参加したらしく、「明らかにプロの子が来ていた。スタイルはもちろん、ウォーキングとかが全然違うし。選ばれたのもその子たちだし」と、オーディションの様子を語っていたという。



 これが事実なら、限りなく「出来レース」臭い。裏を取ってみると、オーディションで合格した子の一人は、やはり地元のモデル事務所「バレンタインデュウ」に所属するプロだった。筆者は過去には仕事で何人ものモデルに接しているので、ショーに出演するモデルがウォーキングの優劣によって決まるのは理解できる。ファッション関係者が見せてくれた地元紙の写真を見ても、合格者5名のうち3名の立ちポーズは明らかにプロだ。ならば、最初から地元でもプロを起用すればいいだけの話である。

 一般モデルのオーディションと銘打って市民に期待させときながら、裏ではW TOKYOと地元モデル事務所の間で「TGC熊本を事務所所属モデルを全国デビューさせる」ような話があったとすれば問題ではないか。しかも、地元紙の記事には「市民モデル5人選出」との見出しがついている。メディアまでもが「市民」を強調するのは、穿った見方をすれば、出来レースを打ち消すのに躍起になっているようにも受け取れる。そこまでして、イベントの公共性を装わなければならないのか。

 それとも、これが熊本県が大義に掲げる「仕事づくり」なのだろうか。税金を使って行うイベントで地元事務所所属のモデルをブラッシュアップする。また、テレビ熊本が収録した映像を編集して、モデルのプロモーション動画を作り、代理店や出版社に配信する。それも仕事づくりと言えばそうかもしれないが、オーディションに落ちた純粋な一般市民に代わって「市民が知らないところで利害関係者のビジネス着々と進んでいる」と、皮肉の一つでも言ってやりたくなる。


実力派モデル輩出県



 ともあれ、熊本が過去にプロのモデルを輩出しているのは筆者もよく知っている。まず田中久美子がいる。1987年、熊本市立高校(現熊本市立必由館高校)の生徒だった彼女は修学旅行で原宿を歩いている時、モデル事務所ナウ・ファッションエージェンシーのスカウトの目にとまった。バレーボール部のエースアタッカーで身長180cmの長身。スカウトの「トップモデルになれる子」との見立て通り、翌春にはアンアンの表紙デビューを飾る。その後は順調なモデル人生を歩み、50歳を前に今もバリバリの現役だ。

 もう一人は米野真理子。青学在学中からモデルの仕事を始め、1980年代半ばには雑誌MOREのファッションフォトに登場していた。同時期にMOREモデルには沢田奈緒美や林マヤがいたし、JJデビューした賀来千香子の陰で、米野は地味な存在だった。でも、筆者は評価していた。クールで知的なまなざしが醸す都会的な雰囲気は、キャリア系メーカーの服にはドンピシャだった。現在は地元でソムリエとしてセカンドキャリアを積んでいるというから、近況は熊本の方々の方がよくご存知かもしれない。



 一方、TGC熊本のスポンサーになっている「再春館製薬所」は、ドモホルンリンクルなどの通販事業で今や全国ブランドになっている。昨年、同社のCMに単発で出演した廣田恵子も雑誌MOREの第1回読者モデル出身で、セブンイレブンのCM「いなりずしのけいこさん」で有名になった。熊本出身ではないが、田中久美子と同じナウ・ファッションエージェンシー所属で歳も上だが、今も現役を続けている。

 ナウ・ファッションエージェンシーは、他の事務所と違ってモデルにはCMや雑誌以外の仕事はさせないようだから、ガールズコレクションに出演するタレントまがいとは大違いだ。まあ、ガールズコレクションは、駐車違反の反則金支払いを無視し続けた脱法モデル、交通事故を起こして禊終わらぬタレントでも堂々と出演できるのだから、マネジメントのレベルが窺い知れるというものだ。

 TGC熊本は今回が初開催になるが、主催者側は2回、3回とリピートさせるようなことも言っている。当然、それを実現させ、主催者が収益を上げてイベントをペイさせるには熊本市、熊本県が「公金支援」を続けるということが前提になる。本来ならチケット収入と民間スポンサーで事業費を賄えばいいのだが、主催者としてはそれではリスクがあるし、まさかの時に担保として自治体の公金支援があったのが何かと都合がいいのだ。

 両自治体はTGC熊本について震災復興、地域活性化、 若者・女性が活躍する社会創出等々の大義を掲げている。しかし、復興関連は2回目には使えない。だから、若者・女性が活躍する社会創出、街づくり、人づくり、仕事づくりを準備したのだろうか。まあ、市民から奪い取った税金は使うのが目的だし、税金は使い続けなればならないから、先にイベントありきということがよくわかる。TGC北九州で、大西熊本市長が「熊本でもTGCが開催できれば」と語ったのも、今となれば実に白々しく聞こえる。

 とにかく、イベントを行うために、後から何でも大義をでっち上げればいい。若者・女性が活躍する社会、街づくり、人づくり、仕事づくりが東京から呼んだタレントによる客寄せ興行で創出できるとは、全くもって思えない。イベントを行うために縦割りである自治体の事務事業のどこから予算を引き出すか。そのために若者・女性が活躍する社会、街づくり、人づくり、仕事づくりが無理矢理に大義にこじつけられたに過ぎないのだ。

 つまり、自治体内では使える予算額と使った回数がイコールになれば、効果などは二の次でいいわけだ。そこをW TOKYOのようなイベント事業者につけ込まれるのである。本当に震災復興になり、カネが落ちて地域が活性化し、若者や女性が活躍する社会が生まれるかどうかは、第三者の専門機関などが厳密にチェックしなければわからない。なのにTGCの地方開催でそれらが行われたケースは全く聞かれない。

 熊本市や熊本県はTGCの開催評価をどこに見い出し、どこまでのレベルを求めていくか。折しも、統一地方選挙が実施され、熊本市でも再選を含めて、県議や市議が誕生したと思う。こうした議員ら議会を通じて客寄せイベントへの公金支援とその効果をどう検証していくか。まあ、そこまで公共事業を細かくチェックしている議員はいないだろうが。

 ゆえに、単なる大義を効果に取り繕った見せかけの評価では全く信憑性を欠く。ハッキリしているのは、自治体が市民から奪った税金を今度は東京のイベント事業者と芸能界が収奪していく構図だ。地元メディアでさえも利害関係者と堕し、行政監視も批判もしないので、彼らにとっては使い勝手の良いお仲間に変わりないようである。

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