HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

成熟に抗う売り方。

2021-02-17 06:53:26 | Weblog
 驚いたというより、やはりなという印象だ。先々週の週末に発表された、セレクトショップ「VIA BUS STOP(ヴィア・バス・ストップ)」全店閉店のニュースである。すでに東京ミッドタウンや大阪梅田、渋谷パルコなど5店舗とオンライン販売の営業を終了し、2月20日には博多リバレインモールや代官山など4店舗をクローズする。

 ヴィア・バス・ストップのようなコレクションブランドをバイヤーがチョイスして編集する業態は、アパレル業界の構造的な不振に関係なく、難しいビジネスになったというのが筆者の見方だ。以下でその理由を挙げてみる。

 1.主導権がブランド側に

 まず構造的な問題として、ブランド側は仕入れのミニマムロットを高めに設定してくるので、それらを売りたいのであれば予算額より多い仕入れを余儀なくされる。だが、仕入れた商品が売れ残れば、在庫として抱えることになり、資金繰りが圧迫されてしまう。また、1ブランドのロットが大きくなると、他ブランドの仕入れが制限される。商社やインポーターを経由すればロットは下がるが、逆に卸価格が上がって荒利益が減るというジレンマに陥る。

 2.荒利確保の難しさ

 コレクションブランドは、総じて掛け率が高く完全買取りであるため、プロパー消化率が70%ほどなければ利益を確保できない。セントラルバイイング制でブランドをエクスクルーシブ(独占販売)調達すれば、商品を売れている店舗に振り分けたり、フレキシブルに売価を変更して売り切る仕組みを作れる。だが、それは米国のノードストロムのような大規模な専門百貨店だからできること。ヴィア・バス・ストップのような規模、店舗数では厳しい。

 3.ターゲットの少なさ

 もともと海外のコレクションブランドをプロパーで購入できる客数は限られる。ただ、そんなブランドを求めるお客も一定数はいる。しかし、リーマンショック以降のグローバルな水平分業(GAFAによる搾取支配)で中産階級が没落し、客数が増える状況ではない。売上げを下支えしてきた中国人旅行者もコロナ禍による入国制限でゼロになる一方、旅行の目的がコト消費に移り始め、ブランド衣料の購入意欲は減退している。

 4.固定費が高い構造

 ブランドのセレクトショップは、都市部の一等地に展開することで、店の格が維持される。家賃はざっくり言って月坪7万円程度から最高15万円くらいだろう。スタッフの給与も高級品を販売する能力が必須だから、一般の販売員より高くなる。つまり、元来、固定費が嵩む高コスト構造なのだ。家賃負担が売上げの4割程度に収まる地方展開ならまだしも、東京のように売上げが減少して固定費の負担に耐えられなくなれば、撤退はやむなしとなる。

 その他、バイヤーが展示会で売れると判断したアイテムがVOIDになる仕入れの不安定さもある。これらはヴィア・バス・ストップのオープン時から懸念されてきた問題なので、あえて閉店の理由に加えさせてもらった。さらに時代が変化する中で、お客が変化したり、ビジネスの潮目を読み違えたこともある。以下がそれだ。

 5.中間層の没落

 90年代初めのバブル崩壊で空前の好景気から一転、厳しい不況に陥り、2000年代もリーマンショックとGAFAによる搾取支配で、中産階級の没落は著しい。3の理由とも関係するが、日本の人口動態で大多数を占めた中間層の実質所得が下がっているのだから、嗜好品の域を出ない高額なブランド衣料にカネをかける余裕はない。景気が良ければ、気分が高揚して多少の背伸びはできるが、コロナ禍で外出が減り生活防衛に追われているとそれもあり得ない。

 6.SPA業態から撤退



 一時は「+A VIA BUS」というオリジナルで構成するディフュージョン業態を展開していた。ここでファン客を獲得し、ヴィア・バス・ストップにアップスライドしてもらう狙いもあったと思うが、数年で撤退した。ヴィア・バス・ストップへの影響を心配したのか、独立した業態として収益が伸びなかったからか。その後、他社がSPAバイイング型を展開してもうまく棲み分け、収益力をつけたことを考えると、全く皮肉な結果である。

 7.お客の成熟

 お客がコレクションブランドを全く求めないかと言うと、そんなことはない。オークションやユーズド販売では、ブランド人気が健在だ。もともと価格が高く上質なことから、まだまだ着られる中古品が流通し、市場を形成するようになっている。一方で、グローバルSPAのデザイナーズコラボには早朝から長蛇の列ができ、転売が横行している。それだけお客が成熟して価格対価値を見分けるようになり、ファースト&プロパーの販売は厳しい状況と言える。


ローコストのデジタル&リアル業態の開発

 筆者がヴィア・バス・ストップを知ったのは、ニューヨークから地元福岡に戻った1990年代後半。記憶では、98年に事務所近くにメンズ業態、99年に博多リバイレインのスーパーブランドシティ(現在の博多リバレインモール)、2000年初めに福岡三越、13年に天神ヴィオロ(CASA VIA BUS STOP)に次々と店舗がオープン。その後、メンズは博多リバレインの店舗の統合され、福岡三越店が閉店するなど、次第に勢いを失っていった。



 地元セレクトショップ「BASEMENT」が福岡の全店舗をFCで運営していた。博多リバイレインの店舗は時々覗いていたが、この10年ほどは中国人観光客の買い物コースとなったためにご無沙汰だった。それでも、雑誌で見た「ヴィクター&ロルフ」のジャケットが気に入ったので、街で会ったスタッフのMさんと訊ねると、「完売しました」との返答。残念だった反面、他の人も同じような嗜好なんだと実感した。

 ヴィア・バス・ストップで言えるのは、ブランドの寄せ集めでMDに奥行きがないこと。お客の大半がSPAのMDに飼い慣らされてしまったこと。商品を点でしか展開しないブランドセレクトではお客が色、型、サイズでジャストフィットを選べないから、購入に結びつくのは容易ではない。ヴィクター&ロルフのジャケットが売り切れたのは、日本人の感覚をよく知るバイヤーの勝利で、雑誌メディアの後押しもあったと思う。

 「コレください」という顧客が維持される間は持ち堪えられても、先に挙げた理由からそれが難しくなり、全店閉店という寂しい結末に至った。オンワード樫山の力を借りてオリジナルによるSPA型セレクト=+A VIA BUSを継続させていれば、生き残れたかもしれない。ただ、ユナイテッド・アローズやアーバン・リサーチを見れば、SPA型セレクトは売れ筋追求で感度面が鈍くなり、コアなブランド好きからすれば物足りない。

 東京では再開発が続き、家賃の高止まり傾向は今後も続くと見られる。しかし、コレクションブランドのセレクトショップが都心展開で売上げを上回る家賃を支払うのなら、ビジネスにならない。一方で、ブランドを購入したいお客は多くはないが、一定数は存在する。そうした客層をターゲットにするにも、高コスト構造の実店舗では難しい。ならば、どうするか。

 デジタルを駆使したバーチャルセレクトショップでコレクションブランドの情報を発信し、まずはお客の購買意欲を換気する。そして、専用サイトに誘導して注文を受けた商品を仕入れて(VOIDの場合はキャンセル)販売する手法がギリギリの妥協点だろうか。もちろん、高額なブランドを試着なしで購入することには、二の足を踏むお客もいる。通常のサイトとは違ったデジタルフィッティングやサイズ計測サービスなどの重装備が不可欠だ。

 デジタルによる受注・仕入れ・販売だけでは限界があるので、バイヤーの能力を信頼して現物を見せるトランクショーを並行する。シーズンごとに百貨店や都市部のレンタルスペースで開催してはどうか。もしくはローコストの倉庫街に巨大なデポを常設で作るという方法もある。東京だと城南島とか、有明とかだろうか。そこで、商品の着荷、展示・陳列、接客販売、ネット注文の発送を行えばいい。

 ここなら空間演出も自由にできるし、在庫する現物を確かめ試着もできるから、多少交通が不便でもブランドが欲しいお客はやってくる。やはり、商品の魅力をお客に伝えるには、リアルな売り方が一番であることに変わりない。高コストな販売スタイルから脱却すれば、業態として存続できなくはない。お客の成熟に抗う売り方が次の一手になる。

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