1月17日、東京銀座のGINZA SIXで、「テナント14店舗が一斉撤退」とのニュースが駆け巡った。これより前の20年12月末には2店舗、1月10日にも2店舗が閉店している。以下がその顔ぶれである。「アニヤ・ハインドマーチ」「モスキーノ」「3.1 フィリップ リム」「アディアム」「シュウ ウエムラ」「SHISEIDO」「キールズ」等など。
GINZA SIXは2017年4月、森ビルや大丸松坂屋百貨店、住友商事、Lキャタルトンリアルエステートが共同出資するGINZA SIX リテールマネジメントが運営主体となって、銀座松坂屋跡地に開業した。
国内外の高級ブランドを一堂に集め、銀座の再開発とインバウンド需要を当て込んだが、開業3年目にして予想だにしなかったコロナ禍に見舞われた。緊急事態宣言の発令により国内はステイホームの巣ごもり消費に移り、訪日外国人の買い物は入国制限でほぼゼロになった。売上げの大幅な減少により採算割れに陥って、撤退するテナントが出てくるのは当然だ。
しかし、GINZA SIXの凄いところは、撤退するテナントの代替えがちゃんとあること。この春にはアパレルやコスメ、雑貨やグルメなど40以上のショップが新規出店し、リニューアルオープンする。改装中には空き店舗も出るわけだが、「後継店で確実に埋める」ことで、何とか銀座の“格”は維持できそうである。
ただ、中長期的には決して楽観視できない。なぜなら、コロナ禍の終息は一向に見通せないし、東京五輪が開催されても無観客となる公算が高い。インバウンド需要には期待できないのだ。もちろん、国内消費もコロナ不況で減退は否めない。GINZA SIXが以前の状況に回復し、再び成長軌道に乗ることができるかは、全く不透明と言える。
海外ブランドだからと飛びつかない
以前からこのコラムでも書いてきたが、銀座をはじめ、表参道や六本木といった一等地に高級ブランドの旗艦店を出店したところで、どれほど集客、販促に繋がり、売上げを積めているのか。筆者は以前からずっと懸念してきた。端から「広告塔として、メディアハウスだと、割り切っている」と言えばそれまでだが、それらが売上げ効果を発揮できなければ、後ろ盾のファンドや投資家は黙っていないはずである。
売れている高級ブランドもあるとは言っても、インバウンドが下支えしていたに過ぎない。ブランドのアパレルやコスメ、アクセサリーなどの国内需要は、中間層の没落で格差社会に移行、加えてコロナ禍による失業率の増加で激減している。東京に揃う世界の高級ブランドに対する欲求は、雇用が維持されている層でも年を追うごとに成熟しているのではないか。富裕層をはじめ、多くの消費者が求めているかと言えば、もはやそうではないだろう。
ブランド側からすれば、日本市場の開拓を狙ったところで、お客がすんなり受け入れる時代ではないのだから、全く的外れだ。逆にユニクロのような価格に対して価値が高いものが登場し、日本人のブランドに対する目利きはより鋭くなっている。ブランドの世界観はもちろんだが、より具体的な素材、色柄、デザイン、価格を総合して判断して購入するかしないかを決める。売れていないのは、成熟した消費者の購入対象になっていないからだ。
一方、インバウンド需要もコロナ禍を契機に一気に成熟していくかもしれない。と言うのは、かつての先進国がそうであったからだ。日本の旅行者はバブル期までは団体でパリやミラノに出かけ、高級店に列をなしてブランド品を買い漁っていた。また、外国人旅行者も家電量販店で「キャノン」だの「ニコン」だのと、高価なメイドインジャパンを物色していた。洋の東西を問わず旅先でのブランド購入は、共通していたのである。
ところが、90年代半ば以降、格安のエアチケットを購入した個人旅行が主力になり、目的地が大都市以外に広がると、旅の目的も現地の今を知る体験型に変わっていった。おそらく、中国ほかアジアからの旅行者も、自ら体験した旅を楽しみ方をSNSで発信するのがトレンドになるのではないか。そこまで行けば、「日本まで行って海外ブランドを買うなんて、ダセえ成金旅行者だぜ」と、ネットに書き込まれるのがオチだろう。
もちろん、インバウンド需要は高級ブランドだけではないから、観光地は新たな商品を開発することで、誘客することはできる。だが、銀座や表参道などアパレルやバッグ、コスメを主力とした商業地、そこに店舗を構える事業者にとっては、ブランドニーズが減退していけば店舗を維持することは難しくなる。デベロッパーやビルオーナーは、コロナ禍による高級ブランド店の退店がその前兆だと認識し、対策を打ち出さなければならないのだ。
世界に冠たる日本の食や飲を高級ブランドに
では、東京の一等地で、海外の高級ブランドに代わる業態とは何か。筆者が考えるのは、各自治体が東京のアンテナショップで扱う地域の「食」や「飲」を上級・高級ブランドで仕掛け、独立した専門店またはセレクトショップで展開する手法だ。訪日外国人にも日本の文化として受け入れて貰えば、結果としてインバウンド需要にも貢献する。カテゴリーは「菓子」「漬物」「乾物」「調味料(醤油や酢含む)」「日本酒」「だし」などである。
筆者が東京出張時に購入しているのは、田丸屋の金印山葵漬け(1350円/http://www.tamaruya.co.jp/item.html)、紀ノ国屋のアーモンドフロランタン(1500円/https://www.super-kinokuniya.jp/eshop/items/07-4960466202331/index.php)、成城石井のプレミアムチーズケーキ(1本790円/https://www.seijoishii.com/d/52342)等だ。どれもお土産用ではないから価格は高いが、自分が食べて美味しかったし、家族もそれらの味を知ると空港売店で買えるようなものでは満足しなくなっている。
新たに気に入ったのは、高知の芋屋金次郎(https://www.imokin.jp)が鹿児島産のコガネセンガンで作る季節限定の「チョコがけけんぴ」。ミルク、ビター、ホワイト、抹茶、いちごの「あまおう」があり、カリッとした食感と上品な甘さが絶妙だ。材料と製法でここまで美味しくできる。ロゴやパッケージにはデザイナーが関わり、東京の「COREDO室町」への出店で、上級・高級ブランドで仕掛けようという意図も窺える。
人間は食や飲が必須で、必ず購入する。食材の需要は巣ごもりで急増した。カルディコーヒーファームでは、高級輸入食品が並ぶ冷蔵庫が昨年暮れには空になっていた。このような状況なのだから、日本産の食や飲への高級品ニーズを喚起すれば、市場を掘り起こせるのだ。それにはマーケティングリサーチを行い、知恵に知恵を絞って上質な商品を開発すること。また、デザインやプロモーションに注力して、ブランドとして仕掛けていくことである。
筆者が仕事を通じて知り得たその過程事例を挙げよう。ある老舗菓子舗の二代目店主は生前、「博多には美味しいお菓子はあっても、謝罪の時に持っていける格式のある茶菓子がない」と語っていた。目下、大手広告代理店出身の三代目がそうした商品の開発とブランド力の向上に心血を注いでいる。
東大を卒業後に実家の造り酒屋を継いだ経営者は、自ら手がけた純米大吟醸が英国ロンドンで開催されるIWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)の最優秀賞を獲得するも、「東京で売れない酒は、ニューヨークでも売れない」と、現状に満足することなく世界戦略の酒造りに邁進する。
ドレッシングのブランド化で成功したピエトロの故・村田邦彦社長はかつて、「海外出張の時こそ、美味いもの、良いものを食え。でないと上級のメニューは作れない。カネは俺が出す」と、社内規定に縛られ萎縮する社員に対し商品開発に必要な姿勢を教え込んでいた。
三社に共通するのは、上質な商品を開発し続ける姿勢。美味しい商品がデビューすれば、それを超える商品を開発する競争意識。格を維持するには決して低価格に向かわないこと。むしろ、物作りにコストと時間をかけるため、売価が上がるのは承知の上だ。それでも売っているのだから、商品に魅せられ求めるお客がいる。それが上級・高級ブランドのビジネスなのだ。
デベロッパーは高級ブランドが撤退すれば、他の高級ブランドに入れ替えればいいという発想だろう。しかし、それを繰り返していれば、いつかは行き詰まる。日本にも優れた商品はいくらもある。デベロッパーはそれらにも目を向ける必要があるのだ。店舗の常設が難しいなら、定借を利用し期間限定で入れ替え、内装を工夫すれば、スケルトンにする必要もない。
お客の価値観は確実に変化している。コロナ禍後にはさらに先鋭化していくだろう。お客が求める高級ブランドとは何か。それをもう一度見つめ直す時期。埋もれた日本ブランドが羽化するチャンスでもある。
GINZA SIXは2017年4月、森ビルや大丸松坂屋百貨店、住友商事、Lキャタルトンリアルエステートが共同出資するGINZA SIX リテールマネジメントが運営主体となって、銀座松坂屋跡地に開業した。
国内外の高級ブランドを一堂に集め、銀座の再開発とインバウンド需要を当て込んだが、開業3年目にして予想だにしなかったコロナ禍に見舞われた。緊急事態宣言の発令により国内はステイホームの巣ごもり消費に移り、訪日外国人の買い物は入国制限でほぼゼロになった。売上げの大幅な減少により採算割れに陥って、撤退するテナントが出てくるのは当然だ。
しかし、GINZA SIXの凄いところは、撤退するテナントの代替えがちゃんとあること。この春にはアパレルやコスメ、雑貨やグルメなど40以上のショップが新規出店し、リニューアルオープンする。改装中には空き店舗も出るわけだが、「後継店で確実に埋める」ことで、何とか銀座の“格”は維持できそうである。
ただ、中長期的には決して楽観視できない。なぜなら、コロナ禍の終息は一向に見通せないし、東京五輪が開催されても無観客となる公算が高い。インバウンド需要には期待できないのだ。もちろん、国内消費もコロナ不況で減退は否めない。GINZA SIXが以前の状況に回復し、再び成長軌道に乗ることができるかは、全く不透明と言える。
海外ブランドだからと飛びつかない
以前からこのコラムでも書いてきたが、銀座をはじめ、表参道や六本木といった一等地に高級ブランドの旗艦店を出店したところで、どれほど集客、販促に繋がり、売上げを積めているのか。筆者は以前からずっと懸念してきた。端から「広告塔として、メディアハウスだと、割り切っている」と言えばそれまでだが、それらが売上げ効果を発揮できなければ、後ろ盾のファンドや投資家は黙っていないはずである。
売れている高級ブランドもあるとは言っても、インバウンドが下支えしていたに過ぎない。ブランドのアパレルやコスメ、アクセサリーなどの国内需要は、中間層の没落で格差社会に移行、加えてコロナ禍による失業率の増加で激減している。東京に揃う世界の高級ブランドに対する欲求は、雇用が維持されている層でも年を追うごとに成熟しているのではないか。富裕層をはじめ、多くの消費者が求めているかと言えば、もはやそうではないだろう。
ブランド側からすれば、日本市場の開拓を狙ったところで、お客がすんなり受け入れる時代ではないのだから、全く的外れだ。逆にユニクロのような価格に対して価値が高いものが登場し、日本人のブランドに対する目利きはより鋭くなっている。ブランドの世界観はもちろんだが、より具体的な素材、色柄、デザイン、価格を総合して判断して購入するかしないかを決める。売れていないのは、成熟した消費者の購入対象になっていないからだ。
一方、インバウンド需要もコロナ禍を契機に一気に成熟していくかもしれない。と言うのは、かつての先進国がそうであったからだ。日本の旅行者はバブル期までは団体でパリやミラノに出かけ、高級店に列をなしてブランド品を買い漁っていた。また、外国人旅行者も家電量販店で「キャノン」だの「ニコン」だのと、高価なメイドインジャパンを物色していた。洋の東西を問わず旅先でのブランド購入は、共通していたのである。
ところが、90年代半ば以降、格安のエアチケットを購入した個人旅行が主力になり、目的地が大都市以外に広がると、旅の目的も現地の今を知る体験型に変わっていった。おそらく、中国ほかアジアからの旅行者も、自ら体験した旅を楽しみ方をSNSで発信するのがトレンドになるのではないか。そこまで行けば、「日本まで行って海外ブランドを買うなんて、ダセえ成金旅行者だぜ」と、ネットに書き込まれるのがオチだろう。
もちろん、インバウンド需要は高級ブランドだけではないから、観光地は新たな商品を開発することで、誘客することはできる。だが、銀座や表参道などアパレルやバッグ、コスメを主力とした商業地、そこに店舗を構える事業者にとっては、ブランドニーズが減退していけば店舗を維持することは難しくなる。デベロッパーやビルオーナーは、コロナ禍による高級ブランド店の退店がその前兆だと認識し、対策を打ち出さなければならないのだ。
世界に冠たる日本の食や飲を高級ブランドに
では、東京の一等地で、海外の高級ブランドに代わる業態とは何か。筆者が考えるのは、各自治体が東京のアンテナショップで扱う地域の「食」や「飲」を上級・高級ブランドで仕掛け、独立した専門店またはセレクトショップで展開する手法だ。訪日外国人にも日本の文化として受け入れて貰えば、結果としてインバウンド需要にも貢献する。カテゴリーは「菓子」「漬物」「乾物」「調味料(醤油や酢含む)」「日本酒」「だし」などである。
筆者が東京出張時に購入しているのは、田丸屋の金印山葵漬け(1350円/http://www.tamaruya.co.jp/item.html)、紀ノ国屋のアーモンドフロランタン(1500円/https://www.super-kinokuniya.jp/eshop/items/07-4960466202331/index.php)、成城石井のプレミアムチーズケーキ(1本790円/https://www.seijoishii.com/d/52342)等だ。どれもお土産用ではないから価格は高いが、自分が食べて美味しかったし、家族もそれらの味を知ると空港売店で買えるようなものでは満足しなくなっている。
新たに気に入ったのは、高知の芋屋金次郎(https://www.imokin.jp)が鹿児島産のコガネセンガンで作る季節限定の「チョコがけけんぴ」。ミルク、ビター、ホワイト、抹茶、いちごの「あまおう」があり、カリッとした食感と上品な甘さが絶妙だ。材料と製法でここまで美味しくできる。ロゴやパッケージにはデザイナーが関わり、東京の「COREDO室町」への出店で、上級・高級ブランドで仕掛けようという意図も窺える。
人間は食や飲が必須で、必ず購入する。食材の需要は巣ごもりで急増した。カルディコーヒーファームでは、高級輸入食品が並ぶ冷蔵庫が昨年暮れには空になっていた。このような状況なのだから、日本産の食や飲への高級品ニーズを喚起すれば、市場を掘り起こせるのだ。それにはマーケティングリサーチを行い、知恵に知恵を絞って上質な商品を開発すること。また、デザインやプロモーションに注力して、ブランドとして仕掛けていくことである。
筆者が仕事を通じて知り得たその過程事例を挙げよう。ある老舗菓子舗の二代目店主は生前、「博多には美味しいお菓子はあっても、謝罪の時に持っていける格式のある茶菓子がない」と語っていた。目下、大手広告代理店出身の三代目がそうした商品の開発とブランド力の向上に心血を注いでいる。
東大を卒業後に実家の造り酒屋を継いだ経営者は、自ら手がけた純米大吟醸が英国ロンドンで開催されるIWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)の最優秀賞を獲得するも、「東京で売れない酒は、ニューヨークでも売れない」と、現状に満足することなく世界戦略の酒造りに邁進する。
ドレッシングのブランド化で成功したピエトロの故・村田邦彦社長はかつて、「海外出張の時こそ、美味いもの、良いものを食え。でないと上級のメニューは作れない。カネは俺が出す」と、社内規定に縛られ萎縮する社員に対し商品開発に必要な姿勢を教え込んでいた。
三社に共通するのは、上質な商品を開発し続ける姿勢。美味しい商品がデビューすれば、それを超える商品を開発する競争意識。格を維持するには決して低価格に向かわないこと。むしろ、物作りにコストと時間をかけるため、売価が上がるのは承知の上だ。それでも売っているのだから、商品に魅せられ求めるお客がいる。それが上級・高級ブランドのビジネスなのだ。
デベロッパーは高級ブランドが撤退すれば、他の高級ブランドに入れ替えればいいという発想だろう。しかし、それを繰り返していれば、いつかは行き詰まる。日本にも優れた商品はいくらもある。デベロッパーはそれらにも目を向ける必要があるのだ。店舗の常設が難しいなら、定借を利用し期間限定で入れ替え、内装を工夫すれば、スケルトンにする必要もない。
お客の価値観は確実に変化している。コロナ禍後にはさらに先鋭化していくだろう。お客が求める高級ブランドとは何か。それをもう一度見つめ直す時期。埋もれた日本ブランドが羽化するチャンスでもある。