HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

量品計画へバリュダウン。

2021-08-04 05:58:59 | Weblog
 チャイナリスク、チャイナプラスワンと言われて久しい。だが、日本企業の経営者は中国が世界最大の人口を抱えるため、どうしても市場攻略のトップに位置付けたいようだ。アパレルでは、ファーストリテイリングがユニクロ中国の好調さに支えられ、一躍世界一の座を手にしようとしている。それに触発されたのか、無印良品を展開する良品計画も、2024年8月期から中国で年間50店のペースで出店するという。

 これは9月に社長に就任する堂前宣夫専務が中心となって策定され、24年8月期を最終年度とする中期経営計画に盛り込まれた。正確には、この期末までに中国事業を担う専従チームを発足させ、出店の体制を作り上げるもの。しかし、新疆ウイグル自治区の人権侵害が世界から批判される中、中国側の顔色を伺いながらの展開になる。また、欧米の反発や不買運動が起こることも予測されるので、計画通りに進むかは予断を許さない。

 国内事業については、24年8月期に出店を従来の約5倍、年100店ペースに拡大する。店舗面積が1980平方メートル(600坪)以上の大型店を既存の食品スーパーに隣接させての展開。日常の買い物として来店頻度向上を狙い、日用雑貨や衣料品の購入も促す考えというから、まさに「コバンザメ商法」で量を展開し、売上げ拡大を目指す構えか。目標数値は24年8月期が売上高7000億円(営業利益750億円)であるのに対し、6年後の30年8月期には売上高3兆円というから、何と4倍強の壮大な計画になる。

 また、「個店経営を徹底し、国内外とも地域に密着した店舗運営ができる店長級の人材育成を強化」。「社員株主の仕組みを充実させて経営者マインドを高め、個々が自律して働く意識を醸成を図る」。つまり、高額な年収が欲しいなら、サラリーマンではなくマネジメントができる経営者然として働けと言うこと。社員株主に踏み込んだのは、「ストック・オプション」を意味するのか。良品計画としては社員に高額年俸を支払えば、応分を投資させて回収する。いかにもコンサル出身の堂前社長が考えつきそうなことだ。


店長級の育成が出店のペースに追いつくのか

 ただ、あくまで中期計画だから、目標の通りにいくとは限らない。むしろ実現させるにはいくつものハードを乗り越える必要がある。では、それについて考えてみたい。まず、中国事業は、年間50店のペースに足るだけの経済成長が今後も続くかが懸念される。中国のGDPは、2012年以降7%台に低下し、18年は6.6%。20年はコロナ禍の影響もあって2.27%まで低下。30年ぶりの低水準だった。

 ところが、平均賃金は2007年と2020年のを比べると、地域や業種によって差はあるものの、2.5倍~3倍程度上昇。経済成長が鈍化する一方、人件費は上昇するという状況で、日本のようにパートアルバイトが確保できるか。また、店長は日本人が赴任するのか。現地の人間を日本型の店長に育てるのか、である。多店舗、量展開では、計画に盛り込んでいる「店長級の人材育成」が命運を分けるのは言うまでもない。



 中国における既存店は大都市中心の展開だから、スタッフの教育水準、倫理観もグローバル企業が規定するレベルには達していたと思う。しかし、年間50店舗も出店していけば、エリアは地方都市にまで拡大せざるを得ない。パートアルバイトが約束事や内規を破り、隙をついて商品や備品などを着服し、ネットで転売しないとも限らない。

 採用するスタッフのコンプライアンスや労働モラルの低さなどはリスク要因となる。中国事業の専従チームはこれから社員教育、人材育成、法令遵守などについての詳細を詰めていくのだろうが、それが出店ペースにそって機能するかは懐疑的である。

 かつてユニクロに在籍した堂前社長のことだから、中国での年間50店舗の出店といい、連結決算での売上高3兆円といい、同社をかなり意識したものと見られる。目標通りに行くかは別にしても、経営者として相当のリスクに向き合わないといけない。果たして、その覚悟があるのか。まあ、達成できなければ、社長退任も辞さない覚悟で中期経営計画を策定したのだろうが。


個店経営、コバンザメ商法は無印に馴染むのか

 一方、国内の既存店は東京の銀座や有明などの大型旗艦店を除けば、SCなどのビルインになる。拡大戦略では、「地域に根付いた食品スーパーの隣など日常生活に密着した立地に売場面積1980平方メートル超を出店」。つまり、地域スーパーに隣接させ駐車場まで完備した独立の「路面店」を展開していくと解釈される。



 また、「生活に必要な商品の全てを販売」とは、有明店で品揃えが始まった「米穀」「青果」に加え、「精肉」「鮮魚」「日配」「塩干」なども取り揃えるのか。とすれば、地域スーパーが集客したお客に対し、無印良品の衣料や雑貨のついで買いを促すコバンザメ商法だけでは、売上拡大は厳しいとの判断があったことになる。当然、良品計画として全く新しい挑戦だ。

 西友時代の無印良品なら母体が生鮮や日配などを扱っていたが、今は完全に独立している。そのため、専門の人材を確保してMDから仕入れ、販売までのノウハウを確立しなければならない。年商2000億円に成長したドラッグストアのコスモス薬品ですら、日配を扱い始めた当初は相当のロスを出したと営業責任者は語っていた。西友ですらウォルマートの傘下入りしたものの、経営を立て直せずに楽天と提携してネットスーパーに活路を見出そうという状況だ。地域スーパー路線を短期に軌道に乗せるのは、それほど簡単なことではないのである。

 そもそも地域密着と言葉では簡単に言えるが、既存のスーパーは長年の経験値をもとに経営ノウハウを確立し、顧客も確保している。NBの戦略商品や重点販売商品、ファミリーを集客するベーカリーや惣菜、メーカーのリベート活用、棚割りやエンド展開、チラシ投下、EDLP、PA管理などで一日の長がある。それと対峙できるように店長級の人材を育成すると言っても、現状の良品計画に地域密着=ローカルスーパーの店長育成ノウハウはない。

 だから、「個店経営を徹底し」にその解が隠れているような気もする。つまり、自社でローカルスーパーのノウハウを確立するには時間もかかるため、スーパーの店長経験者をヘッドハンティングするのではないかということ。または良品計画の社内から独立希望者を募って、1店舗または複数店を丸ごと任せる狙いではないか。後者はユニクロが実施しているSS(スーパースター)店長のようなポストとも受け取れる。

 もっとも、日々の買い物でお客を呼ぶには、商品と価格が決め手になる。特にスーパーの利用頻度が高い中高年は、NBシンパがほとんど。しかも、NBを1円でも安く買いたいという購買心理が働く。ところが、無印良品はグロサリーにしても自社ブランドだ。だから、可能なのは衣料や雑貨の限定値下げくらい。戦略商品や重点販売商品を設けて安売りしてしまえば、ブランドを毀損しかねない。どこまでの競争力を持てるかは疑問だ。



 ファミリーを集客するには、「惣菜」「ベーカリー」が不可欠になる。無印良品はカフェレストランを運営し、ベーカリーは有明店で展開している。厨房の設備投資をすれば展開はできると思うが、店別の製造オペレーション、品揃えや個数、タイムスケジュールなどは、店長の力量による。また店長は製造スタッフのフォローに回るために魚を捌いたり、寿司を巻いたり、揚げ物の下拵えくらいは修得しておくのがスーパー業界の常識。地域に密着した店舗運営ができる店長級の人材育成には、ここまでが求められるのである。

 生鮮や惣菜、ベーカリーについてはテナントを入れれば、可能になるかもしれないが、それでは無印ブランドを生かしきれない。地域に住む消費者からすれば無印良品は知っていても、日々の買い物で簡単に乗り換えるとは思えない。地域スーパーのテリトリーに割り込んで、無印良品が簡単にお客を捉まえられるほど甘いものではないのだ。堂前社長が描く青写真にはいくつもの暗雲が立ち込める。

 振り返ると、無印良品が1980年にデビューした時は西友のPBだった。だが、セゾングループのクリエイティブ戦略に支えられ、独立ブランドとして価値を醸成した。特に衣料品についてはDCブランドの影響を受け、素材の活用が秀逸だった。それが2000年以降は、価格を全面に打ち出した廉価政策に転換。反面、商品企画に注力する姿は薄れていった。そして、昨今はさらに値下げを断行している。それを「無印量品」と揶揄する人もいる。売上げ追求で量の展開には、バリュダウンが見え隠れする。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする