HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

お下がりこそSDGs。

2021-08-11 06:27:47 | Weblog
 アパレル関係や小売業のプレスリリースでは、毎日SDGs関連の情報が何かしら発信される。ここ数ヶ月を見ても、以下のようなものがあった。

○土に返る新素材
○植物由来の加工剤
○漂着ペットボトルを再生
○衣料品再生事業で復興
○日本古来の資源で地域活性


 内容は新素材の開発から環境負荷にならない製造法、リユース、自然素材への回帰と様々だ。アパレルは基本的に生地や糸無しでは成り立たないから、まずはそれらをどんな組織・混紡、どんな製造・加工法で製品にするか。次に小売りの段階を経て着用が始まると、洗濯などケアをどうするか。さらに着古した物をユーズドとして再販・再利用するか。破砕してウエスや繊維原料などに分別するか、である。SDGsの取り組みはざっとこんなところだろうか。

 アパレルの歴史を考えると、繊維製造の川上から企画デザイン、縫製・加工・卸の川中、小売りの川下と、事業者はそれぞれ独立して発展してきた。90年代半ばからは製造小売業のSPAが台頭したが、中小事業者は自身のビジネスで手一杯だからリサイクルまで考えてものづくりや販売を行ってきたわけではない。ここにきて世界的なSDGsの流れから「うちもやらないといけないかな」という気持ちに変わってきたのが実情ではないか。

 ただ、繊維は撚った糸を織って作られる。その糸が綿やウールだけでなく、ポリエステルやナイロンなどが含まれると、リサイクルの過程で元の原料に分別するのに手間とコストがかかる。スピーディーかつ低コストでリサイクルする技術開発も進んではいるようだが、実用化にはまだまだ時間がかかりそうだ。

 単純に考えると、使用する素材を〇〇100%にした方がリサイクルもしやすい。しかし、企画デザインする側が素材を採用する条件には、生地の色艶や組織、風合いなどの表現面と、伸縮やケア、堅牢度といった機能面がある。柔らかくて軽くてこしがあるとか。光沢はあるけど、ケアが楽とか。破れにくく、虫にも食われないとか。そうした目的によって、素材メーカーはどうしても異素材の混紡を行うのだ。

 リサイクルの詳細な処理工程はここでは省略するが、綿50%とポリエステル50%、綿95%とエラスタン5%、ポリエステル、アクリル、ナイロンといった合繊3種の場合、どれが一番リサイクルに手間とコストがかからないのか。現状では完全に2種類の混紡で、パーセンテージもほぼ半々くらいが処理には理想的だろうか。

 つまり、ビジネスを効率化したいSPAが、SDGsに取り組むには素材調達の段階から、リサイクルしやすい100%素材か、天然由来のプラスチックを原料にしたものを多用するのではないか。ディテールの堅牢度を増すために、数%ポリエステルを混紡した綿主体のアイテムもある。これは中古を含めて廃棄後の行き先は「ウエス」なるケースがほとんどだろうから、油を拭いた後は焼却され分別されることはないとの判断もあるだろう。

 さらにグローバル企業で株式を上場していると、競合他社がそうすればSDGsの流れには背けない。建前では堂々と「SDGsに取り組みます」と言っても、収益をあげる上では非効率なことはできるだけ避けたいというのが本音ではないのだろうか。そうしたところがSDGsにどう影響しているのかも考えないといけない。


SDGsは販促のためのスローガンか

 先日、ユニクロが「環境負荷の低い素材や製法を用いた子供服を8月末から発売する」と、発表した。「ペットボトル由来の生地で作った子供向けフリースを初めて用意する」という。環境負荷の低い素材やペットボトル由来の生地を使用する点では、「当社では子供服でもSDGsに貢献する素材やアイテムを採用します」と受け取れる。

 もともとユニクロの知名度を上げるきっかけになったのは、フリースだった。最初に発売された時は量産を目的としたため、フリース専用のポリエステル素材を調達していた。パタゴニアが完全にペットボトルをリサイクルした素材を利用していたのとは、対照的だ。低価格を売り物にし、大量販売を目指したために仕方ない面はある。

 ただ、柳井正社長のことだから、当時は「専用素材だろうとペットボトルの再生利用だろうと、元は同じポリエステル。ブランドはいろいろと講釈をつけて価値を付け、価格を吊り上げただけに過ぎない」と、嘲笑っていたと思う。ところが、グローバル企業に成長すると、同社でも世界中が注目するSDGsを無視できなくなった。そこで、子供服の選択権をもつ母親が一番SDGsに関心があると踏み、子供服を投入したのではないか。

 ちょうどこのリリースを目にした時、子供服のリサイクルショップを運営する代表が語った言葉が頭をよぎった。「子供は肌が敏感なので、使用する素材は綿やウールで、合繊は使いません」「肌に直接触れる下着はもちろん、Tシャツやパンツも綿100%。入学式のスーツやドレスはウールになります」と。その後、アパレルが低価格になる中で、子供服も直接肌に触れないニットやアウターは合繊混紡が増えている。




 アクリル混のニットは半年も着れば毛玉がつく。着方によっては静電気も発生する。子供たちがそれらを嫌がり着るのを躊躇うか。母親が丁寧にケアしてあげて着続けさせるのか。成長が早く着用期間が短いことを考えると、ケアの手間よりも安さの方が優先されると思う。一方、フリースは前あきで着やすくケアも楽だから、たぶん購入の選択肢には上がるだろう。そうした環境の変化から、ユニクロが「ペットボトル由来の子供向けフリースもいける」と考えたとしてもおかしくない。SDGsは後付けの理由のような気がする。

 小学校でもSDGsまでは言わないまでも、環境に関する授業は行われていると思う。子供たちがそれをどこまで深く考えているかはわからない。結果として、親側が子供たちに対してSDGsの啓蒙のために「ペットボトル由来の生地」などの冠がつく商品を着せるのか。それとも、そこまで意識する必要はないと、購入までには至らないのか。価格も絡んでくるだけに何とも言えないのだが、秋冬の商戦で判断されることになる。


子供たちがSDGsを理解する環境づくり



 もっとも、子供服のSDGsは何も素材開発だけではない。かつて日本には「お下がり」という習慣があった。最近では、中学や高校の制服を後輩に譲るという新たなトレンドが生まれている。生徒たちは物を大事さが少しはわかってきたかもしれない。前出のリサイクルショップ代表が店舗を出したのも、親として抱いた率直な気持ちがきっかけだった。

 「出産には20万円ほどの費用がかかる。一方で、育児用品もいろいろ必要。当時は肌着やベビーカーも値段が高かったので、お下がりでリサイクルできるような商品があればいいなと」。お下がりという習慣は、相手に気を使うのが嫌で次第に薄れていったが、昨今はネット販売のようなルートが生まれて堂々と行われてるようになった。

 だが、実店舗でユーズド商品を買ったり、売ったりするのはネットとは違う楽しさがある。お客にとっても、PCで検索するより掘り出し物が見つかるワクワク感があるし、店主として不必要ものを必要な人へ譲り渡すサポートもできる。これも立派なSDGsではないか。

 このリサイクルショップでは顧客を組織化し、メルマガの発信を通じて情報のやり取りを行っている。レアなブランドや1点ものの用具などをタイムリーに紹介すれば、お客の購買意欲を喚起できる。まさにビジネスとSDGsの両立である。さらにイベントも開催している。子供服のファッションショーだ。あくまで提案だが、ユーズドオンリーの舞台を設ければ、「中古品でもコーディネート次第でおしゃれに着こなせるよ」と、子供たちには楽しさを、親にSDGsを浸透できる。

 代表は「デザイン活動で定評がある障害者施設の入所者とコラボし、破れや染みのある商品をリメイクしてもらう試みも企画している」とも語っていた。何も環境負荷の低い素材や製法、自然素材への回帰ばかりがSDGsではない。商品を少しでも大事に着ていくこと。まだまだ着られるものは、お下がりとして譲ること。それが子供たちの和を育み、親の絆を深める。やや情緒的かもしれないが、商品どうの前に子供たちがSDGsを理解する環境づくりも重要だと感じる。

コメント
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