江戸時代が長く続いた理由 養老孟司
思えば、江戸時代は長かった。幕府を開いた1603年から大政奉還まで、実に265年もあった。なぜそこまで長続きしたのか。理由の一つは、エネルギーが一定していたことにあるはずだと私は思っている。
一定のエネルギーというのは、植物が生産するものだけがエネルギーだったということだ。江戸時代、エネルギーの基本はまきや炭である。エネルギーを欲張ると、木も森も山もなくなってしまう。それはまた、乏しいエネルギーということでもある。
それでも生活できていたのは、人間の持てる財産、すなわち人間の能力を最大限に生かしたからにほかならない。
江戸時代は人材が一番よく発掘された時代でもある。新井白石に柳沢吉保、田沼意次といった優れた人材を考えてみればわかる。身分からいったら幕府でトップクラスに重用されるような人ではないが、なぜトップになったのか。エネルギーが乏しい限り、人間の能力に頼るしかないからだ。
となると、当然ながら、能力の高い人間を見つけ出す必要がある。「人を見る目」だ。
いまの時代、「人を見る目」はさほど必要とされない。たとえば、田んぼは昔、人が耕していた。今は耕運機がやってくれる。耕運機を発明したのは人間で、人間の能力が上がったから田んぼを速く耕せるようになったと錯覚しがちだが、実はそうではない。耕運機を動かすのは石油である。
20世紀、アメリカが強国になったのは、大量に石油を持っていたからである。持っていただけでなく、石油を使うシステムを考え出した。中近東の石油産出国をどうコントロールするかを含めて、アメリカは、いち早く石油の威力に気づいていた国である。
その結果、アメリカはどうなったか。一口に言えば、カネだけの社会になった。カネというのは、実体経済で言い換えればエネルギーである。エネルギーを上手に使ったやつが出世する。そのものさしで人間を測ったとき、人間の価値はゼロに近い。
あの国の物づくり能力が落ちて産業が空洞化したのも、そのせいであろう。
これが本当のエネルギー問題なのである。
*芥川は何度読み返しても大笑いだった。そこで皆さま方にも大笑いの中で眠りについて頂こうと芥川からのご紹介(笑)
思えば、江戸時代は長かった。幕府を開いた1603年から大政奉還まで、実に265年もあった。なぜそこまで長続きしたのか。理由の一つは、エネルギーが一定していたことにあるはずだと私は思っている。
一定のエネルギーというのは、植物が生産するものだけがエネルギーだったということだ。江戸時代、エネルギーの基本はまきや炭である。エネルギーを欲張ると、木も森も山もなくなってしまう。それはまた、乏しいエネルギーということでもある。
それでも生活できていたのは、人間の持てる財産、すなわち人間の能力を最大限に生かしたからにほかならない。
江戸時代は人材が一番よく発掘された時代でもある。新井白石に柳沢吉保、田沼意次といった優れた人材を考えてみればわかる。身分からいったら幕府でトップクラスに重用されるような人ではないが、なぜトップになったのか。エネルギーが乏しい限り、人間の能力に頼るしかないからだ。
となると、当然ながら、能力の高い人間を見つけ出す必要がある。「人を見る目」だ。
いまの時代、「人を見る目」はさほど必要とされない。たとえば、田んぼは昔、人が耕していた。今は耕運機がやってくれる。耕運機を発明したのは人間で、人間の能力が上がったから田んぼを速く耕せるようになったと錯覚しがちだが、実はそうではない。耕運機を動かすのは石油である。
20世紀、アメリカが強国になったのは、大量に石油を持っていたからである。持っていただけでなく、石油を使うシステムを考え出した。中近東の石油産出国をどうコントロールするかを含めて、アメリカは、いち早く石油の威力に気づいていた国である。
その結果、アメリカはどうなったか。一口に言えば、カネだけの社会になった。カネというのは、実体経済で言い換えればエネルギーである。エネルギーを上手に使ったやつが出世する。そのものさしで人間を測ったとき、人間の価値はゼロに近い。
あの国の物づくり能力が落ちて産業が空洞化したのも、そのせいであろう。
これが本当のエネルギー問題なのである。
*芥川は何度読み返しても大笑いだった。そこで皆さま方にも大笑いの中で眠りについて頂こうと芥川からのご紹介(笑)