ある惑星で食べる餃子はどんな味?
南京町にある餃子宛という店に、ヒロク二さんとよく行った。よく行った頃は、今のように並んでいなくて、いつも機嫌の悪い店主が餃子と格闘していた。餃子の皮を作る機械が1台(パスタマシーンに似ている)、やや広めのキッチンの台の上に置かれて餃子の皮の帯がその機械から垂れ下がっている。その垂れ下がった薄い皮を丸く型で切り抜き、それが餃子の皮となる。餃子を焼く四角い鉄板も重々しくそこから、ジュージューと音がしている。餃子を作るのも、焼くのも1人でこなしていたようで、いつも真剣。そして、時に怒る。これも1人で。ヒロク二さんが、その忙しい合間をぬって話しかけるとたまに(確立としては低い)、満面の笑顔が見れるのです。
時間は経って、息子夫婦が登場する。息子に仕事を叩き込もうとしているのか、教える姿がとても厳しくこれまた凄いものがあった。怒る父親に当惑しつつ、涙を呑んで仕事をものにしていく息子の姿と見守る妻の姿があった。ほんとうに、客がいて食べている時にも、その様子が繰り広げられるので、時々餃子が喉に詰まったこともある。まさしく餃子宛版、巨人の星。
ある日、店主が亡くなり、息子夫婦が店を継いだ。お悔やみを言いつつ餃子を頼むと、亡くなった親父さんそっくりになり、機嫌が悪く、怒りっぽくなった彼の姿に驚いた。餃子宛の味もそのまま、餃子を作る姿もそのまま、すべてを彼は継いだのです。たまにする満面の笑顔まで。
現在の餃子宛は、ニコニコ愛想がよくなったけど、登場人物がすっかり変わってしまい味気ないお店になってしまいました。観光化の波と共に、彼らは何処かへ行ってしまいました。機嫌が悪いと書きましたけど、1人でなにもかもされていたので愛想が悪いのではなく、餃子作りに必死で真剣だっただけ。満面の笑顔は、めったに見れないので、それだけに印象に残っている。ジャージャー麺も良かった。350円だったと思う。