録画していたNHK Eテレ「らららクラシック」の「映画監督・木村大作が語る“日本映画とクラシック”」を見る。木村と作曲家の池辺晋一郎が、木村の師匠・黒澤明監督とクラシック、日本映画作曲家列伝(伊福部昭、武満徹、芥川比佐志)、全編バロック音楽の映画『剱岳 点の記』の製作秘話などを語る、という興味深い内容だった。
『劔岳 点の記』(09)(2009.7.22.MOVIX亀有)
明治末期、陸軍参謀本部陸地測量部(現在の国土地理院)によって、立山連峰で行われた山岳測量隊の動静を描く。日本地図を完成させるために困難な山岳測量に取り組んだ男たちの姿が描かれる。
この映画で監督デビューした木村大作は、かつて『八甲田山』(77)『聖職の碑』(78)『復活の日』(80)『海峡』(82)などで撮影監督を務めた。だから名前から“大作の大作”とか“鬼の大作”とも呼ばれていたが、その彼にしても「監督につべこべ言われずに自分の思った通りに映画が撮ってみたい」とずっと思っていたに違いない。また『八甲田山』『聖職の碑』はこの映画と同じ新田次郎原作だったので、彼への思いというのもあったのだろう。
新田原作作品に共通するのは、実話を基に、極地や山岳を舞台にして、世間からは黙殺されながらも何事かを成し遂げた、あるいは黙殺された無名の男たちを描くというテーマである。だが、これを映画にすると、人間ドラマよりも視覚に訴えやすい極地の景観が“主役”になる。この場合、演じる俳優は、あまり演技力は必要とされない代わりに景観に負けない存在感が要求される。この点でかつての高倉健は見事な“極地俳優”だった。その代わりを、この映画の浅野忠信たちに求めるのはいささか酷な気がした。
今回も劔岳周辺の景観は圧巻。時折、『八甲田山』や『復活の日』をほうふつとさせるショットもある。演じる役者たちもCGを使わない登山に挑んで大いに頑張っていた。「サラバンド」はじめ、池辺晋一郎によるクラシック音楽の使い方もなかなか良かった。