『アラバマ物語』(62)(1982.6.28.)
1930年代、人種的偏見が根強く残るアメリカ南部で、白人女性への暴行容疑で逮捕された黒人青年の事件を担当した弁護士アティカス・フィンチの物語。当時の出来事を、成長した娘のスカウトが回想するという形式で描く。
グレゴリー・ペックは、この映画でアカデミー主演男優賞を獲得しているが、いい意味で、他の映画の彼のイメージとそれほど大きく違うとは思えなかった。
例えば、ジョン・ウェインが昔気質の西部男を演じ続けたように、ペックやジェームズ・スチュワートは善良で紳士的なアメリカ人を演じ続けたからだ。そこには、今の俳優のような、奇をてらった演技も、エキセントリックな演技も必要なかった。
それ故、ごく平凡な演技に見えてしまいがちだが、実はこの平凡な典型を演じることこそが最も難しいのではないかと思う。その意味で、この映画のペックは『子鹿物語』(46)の父親像とも通じる温かさを感じさせてくれた。脇役のブロック・ピータースやロバート・デュバルも好演を見せる。
とは言え、この映画はどこか突っ込みが足りないような気がする。例えば、最初のエピソードにおける黒人差別の問題にしても、裁判のシーンで問題の根に触れておきながら、無実なのに有罪となる黒人青年(ピータース)を殺してしまうことで、解決をつけないままで終わらせてしまった。
続いての正当防衛編?でも、原題の「モノマネ鳥を殺す」の反語の「無害のものをむやみに殺してはいけない」という言葉を引用して片づけてしまった感がある。そして意外にさらりと描いているので、問題提起を感じるほどの衝撃もなかった。
ただ、この映画が作られたのは今から約20年前。あの頃はこの程度の描写やセリフが観客にショックを与え、問題提起を促したのだとすれば、俺が感じたことは時の流れによって生じたものなのかもしれない。
【今の一言】などと、生意気にも30数年前の自分は書いているが、この映画は見るたびに好きな映画へと変化していった。それは、この映画が一種の寓話であることに気づき、その中で、本当の正義とは何かを考え、全ての問題が解決するとは限らないことを知ったからである。今では法廷を去る時のペックの姿に素直に感動する。
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