田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『ポセイドン・アドベンチャー2』

2019-07-25 11:08:58 | 映画いろいろ
『ポセイドン・アドベンチャー2』(79)(1983.3.24.水曜ロードショー)

  

 サルベージ業を営むマイク(マイケル・ケイン)は、転覆したポセイドン号を発見し、セレステ(サリー・フィールド)とウィルバー(カール・マルデン)と共に船内へ向かう。『ポセイドン・アドベンチャー』(72)の続編で、監督はアーウィン・アレン。
 
 この映画の原題は「BEYOND THE POSEIDON ADVENTURE」。解説の水野晴郎氏によると「『ポセイドン・アドベンチャー』の彼方にこんな人間ドラマがまだあったんです…」ということになるが、自分が見た限りでは「『ポセイドン・アドベンチャー』は遥か彼方に去ってしまった…」という感じがした。
 
 パート2が作られるというのは、それだけ前作が面白く、興行的にも成功したからで、製作側が夢よもう一度とばかりに、柳の下の二匹目のドジョウを狙って作るわけだが、あまり成功した例はなく、下手をすると前作のイメージをぶち壊してしまうものも少なくはない。
 
 この映画も、その慣例にもれずに失敗している。前作にあった見る者を引き込むような緊迫感がまるでなく、最初から最後まであまりにも軽過ぎるのだ。例えば、この映画は、前作の脱出口から船内に入っていくという逆の形を取っているわけだが、こうも簡単に船内を歩き回られると、前作のスコット牧師(ジーン・ハックマン)たちが脱出までに重ねてきたすさまじいまでの苦労がかすんで見えてしまう。
 
 また、今回はスコット牧師的な役割のマイクをケインが、彼と対立するロゴ刑事(アーネスト・ボーグナイン)的な陸軍出身のフランクをピーター・ボイルが演じているのだが、そのフランクが早々に死んでしまう。これでは人間同士のぶつかり合いから生まれる連帯感や共感を描いた前作を超えられるはずもない。唯一、マイクの相棒役のマルデンがいい味を出してはいたが…。
 
 そして、あの地獄図のようだった船内にまだたくさんの人々が生き残っていたり、船内に積載された秘密物資にまつわる銃撃戦があったりと、もうひっちゃかめっちゃか。人物描写にも重みがないから、ドラマの展開も早い段階で読めてしまう。よくもまあこんな凡作を作ったものだ、という気がした。
 
 最後にもう一言。前作のラストでスコット牧師が死んでしまうのは、アメリカ映画としては異端だったらしい。つまりアメリカ人は死ぬことよりも生きることを重視するから、自己犠牲の精神から主人公が死ぬような例は少ないようなのだ。前作はその通例を破った上で感動を呼んだのだが、この映画のケイン扮する主人公は…。
 
All About おすすめ映画『ポセイドン・アドベンチャー』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/0c2bb3546d412da1fbc1b0f1b4c8d4c9
 
 
 
 
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『八月の鯨』

2019-07-25 09:03:42 | 映画いろいろ
『八月の鯨』(87)(2013.1.14.岩波ホール)


 米メイン州の小さな島で暮らす老姉妹のひと夏の日々を淡々と描く。監督はイギリス人のリンゼー・アンダーソン。
 
 この映画、まずは何の予備知識も持たずに見る方がいい。まるで一級の舞台劇を思わせるような、5人の老優たちによる“演技を超えた演技”と、泰西名画のような、光と影、空と海、そして花や草木の美しさを映したカメラワークに、素直に酔いしれればいい。
 
 そして、見終わった後で、リリアン・ギッシュ(撮影当時93歳)とは、ベティ・デイビス(79歳)とは、アン・サザーン(78歳)とは、ビンセント・プライス(76歳)とは、ハリー・ケリー・ジュニア(66歳)とは、一体どんな俳優であったのかを調べてみるのもいい。
 
 すると、実際の年齢差を逆転させて妹を演じたギッシュはサイレント時代からの大女優であり、姉役のデイビスもまた、演技派、個性派として鳴らし、アカデミー主演賞を2度受賞した大女優であったことが分かる。
 
 また、サザーンは可憐な娘役としてミュージカルを中心に活躍し、プライスはインテリながらホラー映画に出演し続け、マイケル・ジャクソンの「スリラー」などの大仰なナレーターとしても有名で、名優の息子のケリーはジョン・フォード作品を中心に活躍した名脇役だったことが分かる。
 
 彼らの歴史を知った上で、監督のアンダーソンが、それぞれの役になぜ彼らを配したのかを推理し、彼らの人生と役柄を重ね合わせてみると、この映画に対する思いはさらに深みを増すはずだ。特にデイビスについては、『何がジェーンに起こったか?』(62)でのジョーン・クロフォードとの醜悪な姉妹役と、この映画の姉妹役との違いを思うと感慨深いものがある。
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『何がジェーンに起こったか?』

2019-07-25 07:12:57 | 1950年代小型パンフレット
『何がジェーンに起こったか?』(62)(1968.7.28.日曜洋画劇場)

 
 子役スターの“ベビー・ジェーン”として一世を風靡したジェーン(ベティ・デイビス)と、実力派の女優として成功した姉のブランチ(ジョーン・クロフォード)。だが、姉が事故で下半身不随になって以来、姉妹は人目を避けながら2人きりで暮らしていた。やがて、精神に異常をきたしたジェーンは、ブランチを監禁して精神的に追い詰めていく。
 
 監督は男性映画の名匠ロバート・アルドリッチだが、意外や彼はこの映画や『ふるえて眠れ』(64)『甘い抱擁』(68)のような“女の怖さ”を描いた映画も撮っている。特にこの映画は、ビリー・ワイルダー監督の『サンセット大通り』(50)におけるグロリア・スワンソン同様、過去の大女優への冷徹で皮肉なまなざしが目立つ。
 
 この映画を初めて見たのは、小学校低学年の夏休み。淀川長治先生の『日曜洋画劇場』でだった。続いて同じ枠でオリバー・リード主演の『吸血狼男』(61)も見た記憶があるから、「夏の恐怖映画特集」というくくりだったのかもしれない。
 
 モノクロ画面の中で展開する2人の老婆同士の陰惨な闘いの理由は当然小学生には理解不能だったが、食事のシーンで、ブランチが皿のふたを取ると、小鳥やネズミの死骸が現れるシーンがショッキングだったことと、砂浜でアイスクリームを待ったジェーンが、警官と野次馬に囲まれながら踊るラストシーンだけはよく覚えている。そしてそれらのシーンの異様さがトラウマになって、いまだにきちんとは見直せずにいる。
 
 後に、2人がかつての大女優だったことを知った時は、よくこんな役を引き受けたなあと思ったものだが、今、自分が当時の2人とそう変わらない年齢になってみると、彼女たちがこの映画に出た時の気持ちが何となく分かる気もするのだ。そこには老いに対する葛藤や戸惑い、抗い、開き直り、女優としての意地など、さまざまな思いが交錯していたのではないかと。
 
 この後、クロフォードは女優としては振るわなくなるが、デイビスは映画に出続け、最後に、まるでご褒美のような、『八月の鯨』(87)という素晴らしい映画を手にするのだ。
 
ベティ・デイビス『月光の女』
 
ジョーン・クロフォード『大砂塵』
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