『インナースペース』(87)(1987.12.12.渋谷パンテオン)
人間を縮小する極秘の実験のため、探査艇に乗り込んだタック(デニス・クエイド)。実験は成功するが、ミクロ化した探査艇を吸い込んだ注射器をスパイが奪取する。だが逃走中に、通りすがりのジャック(マーティン・ショート)に注射針が刺さり、タックは探査艇ごと彼の体内に入り込んでしまう。
人体の中にミクロ化された人間が入り込む映画といえば、どうしたって20数年前に作られた『ミクロの決死圏』(66)を思い出す。ただ、あちらが人体の美しさや神秘を描いていたのに比べると、こちらは、いかにも製作スピルバーグ+監督ジョー・ダンテらしく、半ばコミカルな娯楽作として仕上げている点が異なる。百面相的な芝居を披露するショートが傑作だ。
とは言え、過去に2人が組んだ『トワイライトゾーン/超次元の体験』(83)や『グレムリン』(84)の時の、相反する個性がぶつかり合う中から生まれる面白さは影を潜め、スピルバーグ色が一段と強くなった気がしたのが少々残念だった。
これは、いよいよスピルバーグが、尊敬するというウォルト・ディズニー化してきたと言っても過言ではないだろう。事実、ウォルトが製作した映画は全てが“ディズニー印”であって、監督の名前なぞ浮かんではこない。その点、スピルバーグが主宰するアンブリンは、現代のディズニープロのようなものではないか。これを、スピルバーグの独裁と見るか人徳として見るかで、今後のアンブリンの映画に対する思いは変わってくると思われる。
『20世紀の映画監督名鑑』『文化の泉 世界の名監督』から
【今の一言】スピルバーグは、この後、94年にドリームワークスを設立し、製作者としてさらに活躍の場を広げた。ミクロ化された人間が異世界に入り込むという映像表現は、最近の『アントマン&ワスプ』(18)にも見られた。