田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『インナースペース』

2019-07-30 12:25:50 | 映画いろいろ
『インナースペース』(87)(1987.12.12.渋谷パンテオン)
 
 
 
 人間を縮小する極秘の実験のため、探査艇に乗り込んだタック(デニス・クエイド)。実験は成功するが、ミクロ化した探査艇を吸い込んだ注射器をスパイが奪取する。だが逃走中に、通りすがりのジャック(マーティン・ショート)に注射針が刺さり、タックは探査艇ごと彼の体内に入り込んでしまう。
 
 人体の中にミクロ化された人間が入り込む映画といえば、どうしたって20数年前に作られた『ミクロの決死圏』(66)を思い出す。ただ、あちらが人体の美しさや神秘を描いていたのに比べると、こちらは、いかにも製作スピルバーグ+監督ジョー・ダンテらしく、半ばコミカルな娯楽作として仕上げている点が異なる。百面相的な芝居を披露するショートが傑作だ。
 
 とは言え、過去に2人が組んだ『トワイライトゾーン/超次元の体験』(83)『グレムリン』(84)の時の、相反する個性がぶつかり合う中から生まれる面白さは影を潜め、スピルバーグ色が一段と強くなった気がしたのが少々残念だった。
 
 これは、いよいよスピルバーグが、尊敬するというウォルト・ディズニー化してきたと言っても過言ではないだろう。事実、ウォルトが製作した映画は全てが“ディズニー印”であって、監督の名前なぞ浮かんではこない。その点、スピルバーグが主宰するアンブリンは、現代のディズニープロのようなものではないか。これを、スピルバーグの独裁と見るか人徳として見るかで、今後のアンブリンの映画に対する思いは変わってくると思われる。
 
 
『20世紀の映画監督名鑑』『文化の泉 世界の名監督』から
 
【今の一言】スピルバーグは、この後、94年にドリームワークスを設立し、製作者としてさらに活躍の場を広げた。ミクロ化された人間が異世界に入り込むという映像表現は、最近の『アントマン&ワスプ』(18)にも見られた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『ミクロの決死圏』

2019-07-30 11:32:45 | 映画いろいろ

『ミクロの決死圏』(66)(2010.8.15.TOHOシネマズ六本木ヒルズ「午前十時の映画祭」)

 

 脳に障害を負った科学者を治療するべく、科学者グループがミクロに縮小されて科学者の体に入る。1974年「水曜ロードショー」での初見以来、何度かテレビでは見ているが、この映画は一度映画館で見たかった。今から40年も前の映画だが、ミクロ化して人体に入ることはいまだにSFの世界だ。今なら全編がCG、へたをすれば3Dで作られるのだろうが、今となっては、この映画のチープな特撮が、かえって手作りの良さを感じさせてくれる。
 
 監督はリチャード・フライシャー。父親が有名なアニメーターのマックス・フライシャーだからか、この映画は、どこかアニメっぽいところもある。シュールな体内のデザインはサルバトーレ・ダリが関係しているらしいが、実は手塚治虫の漫画からアイデアを頂いたという説もある。
 
 俳優も、スティーブン・ボイド、アーサー・ケネディ、ドナルド・プリーゼンス、エドモンド・オブライエンなどクセ者揃いで楽しい。こういうタイプの俳優たちも今はいないなあ。紅一点は当時のグラマー女優ラクエル・ウエルチ。ぴちぴちのボディースーツ、着替え、藻を取るために彼女に触りまくる男たちなどのシーンは、男性向けのサービスだったとも思われる。
 
 後に、この映画をコメディー化したような『インナースペース』(87)が作られたが、この映画の中に「インナースペース(抜け出せない泥沼)」がというセリフあったことに今回初めて気づいた。そうか、両作はそこでつながるのか。
 
 ところで、『トラ・トラ・トラ』(70)で監督を解任された黒澤明は、アメリカ側の監督のフライシャーのことを「ミクロ野郎」と呼んでいたという。これはちょっと悲しい話だ。
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする