田中雄二の「映画の王様」

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『文学界』8月号『ヤクルト・スワローズ詩集』(村上春樹)

2019-07-22 19:47:21 | ブックレビュー

 『文学界』8月号に、村上春樹氏の連作短編『ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles』と『ヤクルト・スワローズ詩集』が載っていた。

 

 自分は、氏の本の熱心な読者ではないが、ビートルズと野球となれば無視はできない。どちらも自伝的な要素を感じさせるものだったが、特に後者は、弱いチームを好きになってしまった自分自身への自虐とも誇りともとれる屈折した表現が面白かったし、自分も一番多く訪れているであろう球場は神宮なので、うなずけるところも多かった。ここで長嶋茂雄が通算2000本目の安打を浅野啓司から打った瞬間も見たのだ。

 さて、氏とデーブ・ヒルトンのかかわりは知っていたが、名外野手だったジョン・スコットが出てきたのは懐かしかった。読みながら、豊田泰光の打撃練習は凄味があったなあ、1970年代初頭のアトムズには確か赤坂と溜池という選手がいたなあ、外野席はまだ芝生だったよなあ、中学校の近くにピッチャーの井原慎一郎が住んでいてサインをもらったなあ、弟がスワローズのファンクラブに入っていたなあ、応援団長はペンキ屋の岡田さんだった、高校時代の悪友のSがスワローズの熱狂的なファンだった、などとヤクルト球団を巡る脈略のないことを思い出したりもした。皆、遠い昔のことだ。

デーブ・ヒルトンについて
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/66020ed9ad4ead1bbd13b3b9887754de

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『駅馬車<西部小説ベスト8>』(ハヤカワ文庫)

2019-07-22 11:44:51 | ブックレビュー
 
 昨日「ザ・シネマ」で『駅馬車』(39)をやっていた。実はこの映画には原作となったアーネスト・ヘイコックスの短編小説(訳・井上一夫)がある。ハヤカワ文庫の『駅馬車<西部小説ベスト8>』に、他の7編とともに所収されているが、以前読んだ時に、ジョン・フォード、あるいは脚色のダドリー・ニコルズは、この短編をよくぞあそこまで広げたものだと驚いた覚えがある。
 
他の7編は
「埃まみれの伝説(レジェンド)」:ハル・G・ロバーツ(訳・三田村裕)
町を去る決意をした保安官。最後の仕事は、殺人を犯した、彼が思いを寄せる未亡人の息子の始末だった。ちょっと『真昼の決闘』を思い出させる展開を見せる。
 
「あの世から来た男」:マッキンレー・カンター(訳・田中小実昌)
襲われて死んだと思われていた元保安官が町に戻ると、恋人は去り、街は荒れ果てていた。田中小実昌の翻訳にいま一つ乗れないものがあった。
 
「硝煙の街」:フランク・グルーバー(訳・三田村裕)
南北戦争を引きずる男たち。三角関係、友情、やるせない暴力の連鎖が描かれる。
 
「ビリイ・ザ・キッドの幽霊」:エドウィン・コール(訳・三田村裕)
ほら話(トール・テール)、英雄伝説として面白い。
 
「死人街道」:アーネスト・ヘイコックス(訳・三田村裕)
一人のガンマンの誕生。砂金を巡る追跡劇。
 
「無法者志願」:ER・バクリー(訳・三田村裕)
O・ヘンリー的な善意と皮肉に満ちたどんでん返し。
 
「ユマへの駅馬車」:マーヴィン・デヴリーズ(訳・田中小実昌)
ヘイコックスの「駅馬車」に勝るとも劣らない映像的な描写が秀逸。こちらは田中小実昌の翻訳がいい。
 
いずれも、映画では表現しきれない心理描写がなかなか良かったが、「駅馬車」の他は映画化されていないのではないか。
 
 ちなみに、原題の「Stagecoach」を「駅馬車」という邦題にしたのは、かの淀川長治先生とのこと。 『淀川長治の証言 20世紀映画のすべて』(97)という本でご一緒した際に、そのいきさつを熱く語ってくださった。「日曜洋画劇場」で淀川先生の解説付きでこの映画を見たのは1975年の12月28日のことだった。
 
ジョン・フォード生誕120年『駅馬車』
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