共同通信エンタメOVOに連載中の
『ほぼ週刊映画コラム』
今週は
他者への偏見、受容や差異についても考えさせられる『ザ・ホエール』
ナイキのスタッフたちが起こした奇跡とは『AIR/エア』
詳細はこちら↓
https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1380418
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『迷子の大人たち』(92)(1993.4.7.日比谷映画)
『愛と追憶の日々』(83)『月の輝く夜に』(87)『マグノリアの花たち』(89)などを思わせるような、ウエルメイドのヒューマンコメディでありながら、ただの二番煎じでは終わらない個性が出ていたのが見事だった。
まず、時代設定がいい。1969年はベトナム戦争であえぐアメリカが、束の間の奇跡を得た年。アポロ11号の月着陸があり、万年下位のニューヨーク・メッツがワールドシリーズで優勝したのだ。だからこそ、この映画が描いた夢や奇跡にも説得力が生まれるのである。
そこに、人種のるつぼであるアメリカならではの、ユダヤ系とイタリア系の絡みが加わり、複雑な家族関係とも相まって面白さが増幅される。
しかも、それを演じるのが、シャーリー・マクレーンであり、マルチェロ・マストロヤンニであり、ジェシカ・タンディであり、シルビア・シドニーであり、おまけにキャシー・ベイツとくるのだから、いささかこってりし過ぎるが、これだけの役者がそろえばそれだけでも圧倒される。
聞けば、このイギリス出身の女性監督ビーバン・キドロンも、巧みなシナリオライターのトッド・グラフも自分と同年代だという。そうした若い才能とベテランたちが、がっぷり四つに組んで仕上げたのだから大したものである。
思えば、今の邦画に欠けているのは、こうした粋な大人のラブストーリーなのではないかという気がする。こうした題材の生き場所は、例えば「東芝日曜劇場」か橋田壽賀子作の嫌らしいドラマ止まり。唯一山田太一作の家族物が目を引くが、シリアス過ぎてこの映画のような余裕がないのが難点だ。
かつては、小津安二郎、成瀬巳喜男、木下惠介、初期から中期の山田洋次、あるいは森崎東、前田陽一ら、日本にもこの種の映画を撮れる名匠がたくさんいて、次々に名作が生まれていたのがうそのようというのが悲しいかな現実だ。
その意味でも、何も今にこだわらなくても、この映画のようにちょっと時代をずらしたり、少し視点を変えるだけでも、十分に面白いヒューマンコメディ作りは可能なのだという手本を示してくれた気がする。
シャーリー・マクレーン。かつてのビリー・ワイルダーの映画などにおける“かわいい女”が、見事に気の強い中年役(それも決して嫌らしくはないし、まだ恋ができる。ここが重要)を、ものにした感がある。さすがである。
『名画投球術』「かわいい女を観てみたい」シャーリー・マクレーン
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/761dd43fae724252b8d00b08cd7af6b8