田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

「特集 ひとりの12月」 「年の暮れに見たい映画」

2015-12-15 17:54:36 | BIG ISSUE ビッグイシュー

『THE BIG ISSUE JAPAN ビッグイシュー日本版 277号』で、
「特集 ひとりの12月」で「年の暮れに見たい映画」を執筆。

ラインアップは
『トゥルーマン・ショー』
『LIFE!』
『父と暮せば』
『最高の人生の選び方』
『ショーシャンクの空に』
『ゼロ・グラビティ』


販売員の方を見かけられましたら、ぜひお買い上げください。



表紙はリチャード・ギアです↓
http://www.bigissue.jp/latest/index.html

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『なつかしい風来坊』(66)

2015-12-15 10:57:12 | All About おすすめ映画

ラストシーンで涙と笑いが同時に込み上げる



 無気力な日々を送る市役所衛生局の課長・早乙女(有島一郎)と自由気ままに生きる労務者の源さん(ハナ肇)。対照的な二人の特異な友情を描いた山田洋次監督の風刺の利いた人情喜劇です。風来坊の源さんは『男はつらいよ』シリーズの車寅次郎の原点ともいえるキャラクター。『馬鹿』シリーズ同様、見た目は豪快だが実は純情で繊細というハナ肇の個性が生かされています。

 この映画は、一見、平穏に見える郊外の中流家庭とその周辺に、ひょんなことから紛れ込んだ乱入者が巻き起こす騒動を面白おかしく描いています。ところが源さんがある事件を起こしたばっかりに…。

 最初は好奇心から源さんを珍重するものの、何かまずいことが起きると一転して、すべてを彼のせいにしてスケープゴートとして葬ってしまう。中流意識故の差別や嫌らしさが浮き彫りになります。そこがこの映画が他の喜劇とは一線を画する点で、これはティム・バートン監督の『シザーハンズ』(90)などにもつながるテーマです。

 ただ、この映画は、それだけでは終わらず、涙と笑いが同時に込み上げてくるような素晴らしいラストシーンが用意されています。これは、最後は必ず明るく終わる「男はつらいよ」シリーズに通じるものですし、後年の『遥かなる山の呼び声』(80)では一味違った形で再現されました。

 早乙女と源さんは「燦めく星座」をよく一緒に歌いますが、「男純情の~」という歌詞が二人の心情を見事に代弁しています。流行歌を巧みに映画に取り入れるという山田監督の特技が生かされています。

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『ディーン、君がいた瞬間(とき)』

2015-12-15 10:39:44 | 新作映画を見てみた

ジェームス・ディーンを演じることとは



 『エデンの東』(55)『理由なき反抗』(55)『ジャイアンツ』(56)。たった3本の映画で伝説となったジェームス・ディーンが、24歳の若さで事故死する直前に、写真家のデニス・ストックと行った2週間の旅を通して、「ディーン伝説」誕生以前の秘話を哀感を込めて描く。

 雨中のタイムズスクエアを、タバコをくわえながら背中を丸めて歩くディーン、故郷ニュージャージーでの素顔のディーンを写した数々のスナップ、今や有名になったこれらの写真が、どんなシチュエーションで撮られたのかが分かって興味深い。ディーンが青春のシンボルとして伝説化するには、ストックが撮ったこれらの写真が大きな役割を果たしたのだ。

 写真家出身のアントン・コービン監督は、一瞬を切り取って記録するという写真の本質を見事に表現し、そこに、夭折したディーン、生き残ったストック双方の青春の哀切を描き込んだ。『欲望のバージニア』(12)『クロニクル』(12)のデイン・デハーンが、ディーンの動作やしぐさ、口調をまねて再現している。

 かつて淀川長治先生が、売り出し中だった頃のレオナルド・ディカプリオを評して、「彼はジェームス・ディーンになりたがっているのね」と語っておられたが、恐らくデハーンも同じ思いを抱いていたのだろう。

 ただ、青春のイコンとなったディーンを演じるには、憧れだけではままならない。憧れが強ければ強いほど、演じるプレッシャーもまた大きくなることは想像に難くない。そう考えると、デハーンの演技は少々鼻に付くところもあるが、この場合、ディーン役を引き受けた勇気の方を買ってあげたい気がする。

 片や、ストックを演じた「トワイライト」シリーズのロバート・パティンソンも、何者かになりたいと思いながらそれが叶わないという、ストックの屈折や焦燥を巧みに表現している。つまり、この映画は、ディーンとストックの青春像を通して、二人の若手俳優の成長を見る映画でもあるのだ。

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『マイ・ファニー・レディ』

2015-12-14 10:05:53 | 新作映画を見てみた

ボグダノビッチ、75歳での復活に拍手



 『ラスト・ショー』(71)『ペーパー・ムーン』(73)などを撮ったピーター・ボグダノビッチ13年ぶりの監督作。ボグダノビッチは、私生活も含めて波瀾万丈の監督人生を送ってきた人だけに、長いブランクを経た晩年に、息子のような年のウェス・アンダーソンとノア・バームバックのプロデュースで映画が撮れて、さぞやうれしかったのではあるまいか。

 かつてコールガールをしていたハリウッドスターのイジー(イモージェン・プーツ)が、インタビューで“人生が一変した日”を振り返る。過去と現在を交錯させた、ニューヨーク、ブロードウェーを舞台にした群像劇。ウディ・アレンやロバート・アルトマンの諸作を思わせるところもある。

 プーツの他に、オーウェン・ウィルソン、イリーナ・ダグラス、ジェニファー・アニストン、リス・エバンス、ウィル・フォーテらくせ者が揃い、懐かしのオースティン・ペンドルトン、かつてのボグダノビッチの恋人シビル・シェパードも登場する。とぼけた感じのウィルソンがなかなかいい。

 最初はボグダノビッチに対する“敬老“気分で見始めたのだが、イジーを中心にした数珠つなぎの複雑な人間模様をてきぱきと処理し、往年のスクリューボールコメディーをほうふつとさせる出来栄えに、「ボグダノビッチって、こんなにコメディ撮るのうまかったっけ…」と感心させられた。これはうれしい驚きだった。

 オープニングとエンディングに流れるフレッド・アステアの歌声、イジーが語るハリウッドの裏話、エルンスト・ルビッチ監督の『小間使』(46)からの引用、ラストにはあっと驚く役で某監督も登場と、元祖映画マニア監督ボグダノビッチの面目躍如たる小ネタも満載。ボグダノビッチ、75歳での復活に拍手を送りたい。

第27回東京国際映画祭『マイ・ファニー・レディ』オーウェン・ウィルソンとピーター・ボグダノビッチのティーチインを取材。(2014.11.3.)

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『馬鹿まるだし』(64)

2015-12-14 09:23:07 | All About おすすめ映画

山田洋次喜劇の原点



 山田洋次監督の初の喜劇映画で「馬鹿シリーズ」の第一弾。この後『いいかげん馬鹿』(64)『馬鹿が戦車(タンク)でやって来る』(64)が作られました。まあシリーズとは名ばかりで、それぞれは全く別の話なのですが、ハナ肇との名コンビは『男はつらいよ』(69)の前まで続きます。

 終戦後、シベリア帰りの安五郎(ハナ肇)は、瀬戸内の小さな町の寺に転がり込み、住職の長男の妻・夏子(桑野みゆき)に一目惚れします。やがて町のボスとなった安五郎は、旅芝居の「無法松の一生」を見て、一文字違いの主人公・松五郎の姿に感動。以後、無法松を気取り、夏子に純愛を捧げます。

 安五郎がかっこをつければつけるほど滑稽に見えてしまうおかしさと悲しさは「男はつらいよ」の車寅次郎にも通じます。寅さんのルーツは無法松だといわれていますが、その間にこの安五郎がいるのです。桑野が演じるご新造さんも寅さんのマドンナの原点でしょう。

 ナレーションを植木等が担当し、最後は現代の寺の住職役で顔を出します。彼の実家は寺なので、この配役も一種のギャグでしょうか。最後まで安五郎に従う子分を犬塚弘が好演し、ハナ肇と渥美清や藤山寛美がからむシーンも見られます。ユーモアとペーソスが同居する山田喜劇の原点を楽しんでください。

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【ほぼ週刊映画コラム】『母と暮せば』

2015-12-12 19:19:23 | ほぼ週刊映画コラム
TV fan Webに連載中の
『ほぼ週刊映画コラム』

今週は

甘さと厳しさ、悲劇と喜劇の要素を併せ持った
『母と暮せば』



詳細はこちら↓

http://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1028258
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『HELP! 四人はアイドル』(65)

2015-12-12 09:00:47 | ビートルズ

英国流のシュールでブラックな笑いが随所に


 ザ・ビートルズの主演映画第二弾。今回はカラーになったので、当時流行していたサイケデリックな色遣いも見られます。監督は前回同様リチャード・レスターが務め、リンゴの持っていた指輪を巡ってメンバーたちがトラブルに巻き込まれるというストーリーが展開していきます。

 同じく英国製作の「007」シリーズに代表される、当時流行のスパイ映画をパロディーにしたような冒険活劇的な要素もあり、前作よりも劇映画に近づき、彼らと映画とのかかわりがさらに広がる可能性を感じさせました。

 意味もなく何度も現れるドーバー海峡横断者など、後の「モンティ・パイソン」にも通じるような英国流のシュールでブラックな笑いが随所に散りばめられているのも見どころです。

 タイトル曲の「ヘルプ」、彼らが自宅で歌うという設定の「悲しみはぶっとばせ」、オーストリアのアルプスのスキー場で撮影された「涙の乗車券」、バハマの海岸で撮影された「アナザー・ガール」「恋のアドバイス」のスタジオ録音風景、そして戦車が登場する「アイ・ニード・ユー」など…。今回もビートルズの名曲を、凝った映像をバックに聴くことができます。

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『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』 (63)

2015-12-11 08:59:34 | ビートルズ

若き日の4人の躍動感とスピード感に酔う



 ザ・ビートルズ(ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スター)の映画デビュー作です。昔は歌がヒットしたら映画にも出るというのが定番コースでした。そうした時代を象徴する映画ではありますが、当時としては一風変わった映画でもありました。

 特にストーリーはなく、どこへ行ってもファンに追いかけられる彼らの目まぐるしい一日半を、当時新人だったリチャード・レスター監督が白黒映像でドキュメンタリー風に撮り、スピーディーかつコミカルに描いているからです。

 タイトル曲の「ア・ハード・デイズ・ナイト」は、リンゴがふともらした「きつい一日だったぜ」という言葉から生まれました。リンゴは後に俳優としても活躍しましたが、この映画に出演したことで俳優をやってみたいと思ったそうです。「こいつ=ジス・ボーイ」がリンゴのテーマとしてインストルメンタルで流れるのも聴きどころです。

 オープニングとエンディングで、走る彼らのバックに流れる「ハード・デイズ・ナイト」、列車の中で歌う「恋する二人」、ジョンがリンゴを慰めるために歌い始める「恋におちたら」、ポールの名バラード「アンド・アイ・ラブ・ハー」のスタジオ録音風景など、曲の見せ方は後のミュージックビデオの元祖とされています。曲の良さはもとより、とにかく走りまくる若き日の4人の躍動感とスピード感にも酔ってください。

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『アラバマ物語』

2015-12-10 09:20:19 | All About おすすめ映画

『アラバマ物語』(62)

最も偉大な映画のヒーロー



 この映画の舞台となるのは、1930年代のアメリカ南部のアラバマです。婦女暴行の罪に問われた黒人青年(ブロック・ピータース)を弁護するアティカス・フィンチ(グレゴリー・ペック)の姿を、彼の幼い娘のスカウト(メアリー・バダム)と息子のジェムの目を通して真摯に描いていきます。監督は“佳作の人”ロバート・マリガンです。

 当時この辺りは、黒人に対する人種差別がとても激しい地域でした。アティカスは黒人を弁護することで土地の人々から白い目で見られますが、そんなことはお構いなしに誠実に職務を全うしていきます。ところが無実の黒人青年は差別の嵐の中で結局有罪になってしまうのです。

 さて、ここでこの映画のクライマックスが訪れます。裁判に負け、アティカスが法廷を去る瞬間、2階席で黒人たちに囲まれながら裁判を傍聴していた彼の子供たちに、黒人の神父が「さあお立ちなさい。君のお父さんが退廷なさる」と起立を促します。すると2階席に隔離された黒人たちが一斉に立ち上がり、無言のまま敬意を込めてアティカスを見送るのです。ここで子供たちは本当の正義とは何かを知り、それを貫いた父のことを誇りに思うのですね。

 『ローマの休日』(53)のラストシーンもそうですが、グレゴリー・ペックは何かをこらえながら去っていく姿が実にいいんですよ。この映画でアメリカの理想的な父親を演じたペックはアカデミー賞の主演男優賞に輝きました。

 またアメリカ映画協会は、2003年に「最も偉大な映画のヒーロー」にアティカス・フィンチを選出しています。アメリカ人が何故今でもこの映画が大好きなのか、本当の正義とは何なのかを、ぜひ確かめてみてください。若き日のロバート・デュバルがあっと驚く役で登場しますから、こちらもお見逃しなく。

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『フラバー』

2015-12-09 09:00:26 | All About おすすめ映画

『フラバー』(61)

ディズニーの専売特許の特撮映画

 マッド・サイエンティストが、とんでもないものを発明して…という話は『フランケンシュタイン』(33)などをはじめとして、昔からよくあるパターンのものです。

 この映画の主人公で大学教授のネッド(フレッド・マクマレー)は「フライング・ラバー=空飛ぶゴム」を発明してしまいます。名付けてフラバーです。このフラバーを巡る珍騒動が特撮を駆使して楽しく描かれます。

 今のSFX映画のルーツともいうべき特撮映画は、家族そろって安心して楽しめるという点も含めて、60年代はディズニー映画の専売特許でした。

 話の中心は、ネッドと恋人(ナンシー・オルスン)による熟年カップルの結婚話なのですが、その脇に、白人だけのバスケットボールの試合、郊外生活、フラバーに対する軍部の過剰反応など、60年代前半を象徴するような描写が何気なく散りばめられていて興味を引きます。

 監督のロバート・スティーブンソンは、この映画のほかにも『メリー・ポピンズ』(64)『シャム猫FBI/ニャンタッチャブル』(65)『黒ひげ大旋風』(68)『ラブ・バック』(69)『ベッドかざりとほうき』(71)など、ディズニーの実写特撮映画の傑作を撮っています。もっと評価されてもいい監督の一人だと思います。

 ところで、この映画は97年にはロビン・ウィリアムズ主演で『フラバー』(97)としてリメイクされました。見比べてみるのも楽しいですよ。

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