田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『太陽の帝国』(87)

2016-02-20 09:00:13 | All About おすすめ映画

少年の目を通して戦争の実体を描く



 舞台は第二次大戦下の上海。スティーブン・スピルバーグ監督が、両親とはぐれ、日本軍の捕虜収容所でたくましく生きていく英国人少年ジム(クリスチャン・ベール)の目を通して戦時下の実体を描きました。

 原作はJ・G・バラードの半自伝的な長編小説。『太陽の帝国』とはイギリスに代わって上海を占領した日本のことを表しています。

 この当時のスピルバーグは、評論家と観客の双方からSFやファンタジー専門の監督と見なされていましたが、『カラーパープル』(85)とこの映画で面目を一新しました。

 この映画には、UFOも宇宙人もインディ・ジョーンズのようなヒーローも、あるいは奇跡も一切登場しません。ここで描かれるのは戦時下という極限状態だけなのです。

 ゼロ戦のパイロットに憧れ、初めは冒険をしているような感覚を抱いていたジムが、徐々に精神的に追い詰められていく姿が胸に迫ります。

 ラストでジムは流浪の果てに両親と再会しますが、彼の目つきはもはや普通ではありません。それは、例えば戦争で精神を病んでしまった兵士たちの目とそっくりでした。

 戦争が人間をどれだけ大きく変え、歪めてしまうものなのかということを感じさせられて、思わずゾッとするシーンです。そのせいでしょうか、最近のベールを見ると「ちゃんと大きくなって良かったなあ」などと思ってしまうのです。

 ジムが透き通るような声で歌うイギリスのウェールズ地方に伝わる子守歌「SUO GAN」が耳に残ります。ファーストシーン、終盤の重要なシーン、そしてラストシーンでも流れますが、それぞれが全く違う意味を持った曲として見る者の心に響きます。この映画のテーマ曲ともいえる曲です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『フィールド・オブ・ドリームス』(89)

2016-02-19 10:23:03 | All About おすすめ映画

野球が生む奇跡とは



 アイオワで農場を営むレイ(ケビン・コスナー)は、ある日「それを造れば彼はやって来る」という声を聞き、畑を壊して野球場を造ります。すると、往年の名選手“シューレス”・ジョー・ジャクソンが現れて…。

 W・P・キンセラの『シューレス・ジョー』をフィル・アルデン・ロビンソンが監督・脚色。映画化するのは難しいと思われた抽象的な原作を、鮮やかなファンタジー映画にまとめ上げました。

 野球、トウモロコシ畑、家族の絆は古き良き時代のアメリカの象徴。そしてファンタジーや奇跡、夢の実現はかつてのアメリカ映画が十八番とした題材です。この映画は、そうしたアメリカの善や美徳を素直に描き、80年代末によみがえらせたことでも記憶に残ります。

 ジャクソンも、ラストに姿を見せるレイの父も、同じことをレイに尋ねます「ここは天国かい」と。レイは「ここはアイオワさ」と答えますが、「天国とは夢がかなう場所のことだ」と気付くのです。

 この映画では、野球の持つスピリチュアルな部分が、家族の絆と奇跡とを媒介する役割を果たしています。夜の霧やアイオワの風景を見事にとらえたジョン・リンドレーの撮影、ジェームス・ホーナーの心に残る音楽、球場内に響く心地良い“野球の音”…などが印象に残ります。

 コスナーのほか、妻役のエイミー・マディガン、シューレス・ジョー役のレイ・リオッタ、隠棲した作家役のジェームズ・アール・ジョーンズ、これが遺作となった老医師役のバート・ランカスターらがそろって妙演を見せてくれるのも大きなポイントです。

 なお、八百長事件で球界を追われたジャクソンたちについては、『エイトメン・アウト』(88)が詳しく描いていますので、興味がある方はこちらもぜひどうぞ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『メジャーリーグ』

2016-02-18 08:53:22 | All About おすすめ映画

『メジャーリーグ』 (89)

実際のインディアンスも強豪チームに!



 もし、自分が肩入れする弱小チームが強豪チームと優勝を懸けた一戦に臨んだら…。そんなファンの夢をかなえてくれる野球映画がこれ。この映画で描かれるチームは、実際に34年間も優勝から遠ざかっていたクリーブランド・インディアンスです。

 (ここからはフィクションです)。夫の跡を継いだ新オーナーは、年間の観客動員数が規定を下回れば本拠地の移転が認められることを知り、わざとチームを弱体化させようとします。

 そのため、マイナーリーグの監督ブラウン(ジェームズ・ギャモン)、ロートル・キャッチャーのテイラー(トム・ベレンジャー)、お気楽なベテラン選手ドーン(コービン・バーンセン)、変化球が打てないセラノ(デニス・ヘイスバート)、俊足だけが取り柄のヘイズ(ウェズリー・スナイプス)、ノーコン投手のボーン(チャーリー・シーン)ら、とても戦力にはならないような選手を集めます。

 ところが、オーナーの思惑を知り、反発、発奮したチームは快進撃を続け、ついには強豪ニューヨーク・ヤンキースとのプレーオフに臨むことになります。ダメな選手たちが変身していく姿が痛快です。中でも、抑えの切り札となったボーンが入場する際に流れた「Wild thing」は大流行しました。そして映画の効用もあってか実際のインディアンスもこの後、強豪チームへと変貌を遂げました。

 この映画では、個性的な選手を演じる俳優たちが見事なプレーを見せ、エキストラ=観客も心の底から野球を楽しんでいる様子がうかがえます。これぞまさにメジャーリーグ・ベースボールの神髄と言いたいところですが、その一方、強い女性にやりこめられて立場が弱くなった男たちの復讐劇という、80年代の風潮を反映させた側面もあります。

 好評につき、続編の『メジャーリーグ2』(94)と、番外編の『メジャーリーグ3』(98)が製作されています。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『ナチュラル』

2016-02-17 09:17:36 | All About おすすめ映画

『ナチュラル』(84)

野球は伝説に包まれたスポーツだ

 中年を過ぎてニューヨーク・ナイツに入団した“遅れてきたルーキー”ロイ・ハブス(ロバート・レッドフォード)。彼が手製のバット“ワンダーボーイ”で快打を連発します。一躍チームは優勝戦線に加わりますが、ハブスの過去にはある秘密が隠されていました。

 「ナチュラル」とは天性の才能のこと。ハブスのモデルは八百長事件に巻き込まれて球界を追われた実在の名選手“シューレス”・ジョー・ジャクソンです。彼は『フィールド・オブ・ドリームス』(89)にも登場しますが、「ナチュラル」というタイトルには、天賦の才を持ちながらキャリアの途中で選手生命を絶たれたジャクソンを惜しむ気持ちが込められています。

 バーナード・マラマッドの原作は、ハブスが破滅する悲劇で終わりますが、この映画の監督のバリー・レビンソンは「野球は伝説に包まれたスポーツだ」と考え、脚本のロジャー・タウンと共にハッピーエンドに変更しました。それ故この映画は、アメリカンドリームの達成を描く、壮大なほら話や伝説のヒーロー譚を復活させる先駆けとなりました。

 ランディ・ニューマンのジャズエイジ風の音楽、クラシカルな雰囲気を醸し出したキャレブ・デ・シャネルの撮影で1920年代の雰囲気を再現。学生時代は野球選手だったというレッドフォードの打撃フォームの美しさ、ゲームシーンのリアルさも相まって、ベースボール・ムービーの最高傑作となりました。

 ファーストシーンとラストシーンで、田園風景の中で行われる父と子のキャッチボールがこの映画のテーマを象徴します。アメリカ人にとって野球は単なるスポーツではなく、父から子へと継承すべき大切なものなのです。

 余談ですが、長嶋一茂はこの映画を見て、プロ入りを決意したそうです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『ラストエンペラー』(87)

2016-02-16 08:56:42 | All About おすすめ映画

清朝最後の皇帝、溥儀の“ローズバッド”とは



 清朝最後の皇帝であり、後に満州国皇帝となった溥儀(ジョン・ローン)の数奇な生涯を描いた超大作です。歴史に弄ばれ、皇帝から戦犯となり、最後は一市民となった溥儀の生涯とは一体何だったのか。彼の少年期、皇帝時代、戦犯(収容所)時代、晩年(文化大革命)を錯綜させながら描いていきます。

 溥儀の自伝を基にベルナルド・ベルトルッチが監督し、共同脚本のマーク・ペプロー、“光り”を見事に捉えた撮影のビットリオ・ストラーロ、音楽の坂本龍一らと共にアカデミー賞を大量受賞しました。初めて紫禁城でロケをした外国映画としても記憶されます。

 また、この映画をプロデュースしたジェレミー・トーマスは、『戦場のメリークリスマス』(83)もそうですが、異文化(東洋と西洋)の出会いと衝突を好んで取り上げる製作者です。この映画も西洋による近代アジア史研究の一端と言えるのかもしれません。また、坂本は曲を作る前に、トーマスからオーソン・ウェルズの『市民ケーン』(41)を参考にするようにとアドバイスされたそうです。

 何故『市民ケーン』なのか。それがラストシーンで明らかになります。

 一介の庭師となった溥儀が紫禁城を訪れ、管理人の息子に、自分が子供の頃に玉座に隠したコオロギの箱を見せます。夢とも現実ともつかない不思議なシーンですが、このコオロギの箱こそが、一時は栄華を極めながら、子供の頃の小さな宝物すら自由にならなかった男の孤独な人生を象徴するもの。つまり『市民ケーン』における“ローズバッド”と同じ意味を持っていたのです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『ライトスタッフ』

2016-02-15 08:57:57 | All About おすすめ映画

『ライトスタッフ』 (84)(1984.11.7.銀座文化

アメリカの宇宙航空史の序章



 この映画は、米ソの“宇宙開拓戦争”を背景に、アメリカの宇宙航空史の序章を描きます。原作はトム・ウルフの同名記録小説。タイトルの「ライトスタッフ」とは「正しい資質」を表わします。

 この映画は、表向きは7人の宇宙飛行士候補生が体験する過酷な訓練、葛藤、友情、挫折と栄光、そして彼らの家族の姿を描いた群像劇です。ところが真の主役は、彼らの活躍を横目で見ながらテストパイロットとして“最速”に挑戦し続けた孤高の男チャック・イェーガー(サム・シェパード)なのです。監督のフィリップ・カウフマンは、イェーガーと7人の夢や生き方の違いを対照的に描きながら、道は違えど己の信じる道を貫き通した男たちの物語として昇華させました。

 イェーガー役のシェパードを筆頭に、後にスターとなったスコット・グレン、フレッド・ウォード、エド・ハリス、デニス・クエイド、ランス・ヘンリクセン、ジェフ・ゴールドブラムらが出演しているのも見どころです。

 また、製作アーウィン・ウィンクラー&ロバート・チャートフ、音楽ビル・コンティという布陣は『ロッキー』(77)と同じ。題材は違いますが、どちらもアメリカンドリーム讃歌を描いたという点で共通します。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『ワーロック』

2016-02-14 23:45:44 | 映画いろいろ



善悪の境目とは…

 無法者がはびこるワーロックの町の人々は、自衛のために腕の立つクレイ・ブレイスデル(ヘンリー・フォンダ)を保安官として雇うことに。札付きの賭博師モーガン(アンソニー・クイン)と共に町に現れたクレイは、銃を手に、力で町を粛清していく。だが、町の人々は、無法者の一味から改心し、保安官補となったギャノン(リチャード・ウィドマーク)に信頼を寄せるようになり、クレイの立場は微妙なものになっていく。

 この映画をテレビで初めて見たのは中学生の頃。当然、クレイとモーガンの同性愛的な関係や、保安官を選んだ町民が、逆に彼を裏切るという皮肉なテーマの奥に込められた監督エドワード・ドミトリク自身の心象風景(赤狩りの密告者となった)などは分からなかったから、何か妙に暗い、変な西部劇だなあと思いながら見ていた。

 ところが、今あらためて見直すと、確かに癖はあるが思いのほか面白く見られた。クレイとモーガンの関係は『荒野の決闘』(46)のワイアット・アープとドク・ホリディのようだし、保安官の孤独、町民の裏切りという点では『真昼の決闘』(52)のパロディ的な要素もある。フォンダがドロレス・マイケルズに向かって「マアム」と呼び掛けるたびに、アープがクレメンタインに言ったそれと重なって何だかおかしな気持ちにもなる。

 ところで、この映画ではかろうじて残っている善悪の境目が、この後の西部劇ではもっと曖昧で分かりにくいものになっていく。西部劇衰退の一因はこうした変化にもある気がする。

現代の『ワーロック』『バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/6d10d4da25119ec36da6891f34c08b0b

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『刑事ジョン・ブック/目撃者』 (85)

2016-02-14 09:00:37 | All About おすすめ映画

切ないダンスシーンのおかげで優れた恋愛映画に



 偶然、殺人事件を目撃してしまった少年とその母親を守るため、文明から隔絶したアーミッシュの村に潜入する刑事ジョン・ブック(ハリソン・フォード)の活躍を描きます。

 この映画のポイントは、それまでアクション派の印象が強かったフォードが感情を抑えた演技を見せる点。加えて、アーミッシュという特異な宗教集団の存在を描いたところが、母子とヒーローというありふれたストーリーに厚みを持たせています。

 監督のピーター・ウィアーは、都会人のジョンとアーミッシュの生活との対比を丁寧に描き、心が通じ合いながらも決して結ばれない関係のやるせなさや切なさを強調しました。

 中でも、カーラジオから流れるサム・クックの「ワンダフル・ワールド」に合わせて、思わず踊り出してしまうジョンと少年の母(ケリー・マクギリス)とのコミカルかつ切ないダンスシーン(くっつきそうになっては離れ、また…の繰り返し)が、二人の置かれた状況や心の内を象徴しているかのようで印象に残ります。このシーンがあるために、この映画は優れた恋愛映画としての側面を持つことができたのです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【ほぼ週刊映画コラム】『スティーブ・ジョブズ』

2016-02-13 16:44:28 | ほぼ週刊映画コラム
TV fan Webに連載中の
『ほぼ週刊映画コラム』

今週は

上質な舞台劇を見ているような気分になる
『スティーブ・ジョブズ』




詳細はこちら↓

http://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1036719
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『カイロの紫のバラ』 (85)

2016-02-13 09:12:32 | All About おすすめ映画

映画狂のためのラブファンタジー



 舞台は不況下の1930年代。失業中の夫(ダニー・アイエロ)を抱え、ウエートレスとして働くセシリア(ミア・ファロー)。そんな彼女の唯一の楽しみは映画を見ることでした。

 そのセシリアが、映画の中から飛び出してきた探検家(ジェフ・ダニエルズ)と恋に落ちて……という、夢と現実の間を描いたウディ・アレン監督、脚本のラブファンタジーです。

 映画を見るという行為は、つらい現実を忘れられる至福の時。せめて映画を見ている間ぐらいは幸せな気分に浸りたいという願望を具体化した作品とも言えます。

 セシリアはスクリーンの中に夢を見ているのですが、その中で毎回同じ演技をしている探検家たちから見れば、現実世界の方が生き生きとしているという矛盾が笑いを誘います。

 アレンは、夢と現実、スクリーンの内と外を対比させて描きながら、現実における映画の存在価値を浮かび上がらせていきます。

 映画に憧れ、映画によって恋に破れ、映画によって再び生きる希望を見つけていくヒロインをファローが好演しました。まさに映画狂に捧げられたような一編です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする