空野雑報

ソマリア中心のアフリカニュース翻訳・紹介がメイン(だった)。南アジア関係ニュースも時折。なお青字は引用。

生産性とその数字と仕事人の心意気と

2016-08-18 23:16:11 | Weblog
 出張中なので反応がにぶい私。




 例えば江戸時代。

 藩主お抱えの刀研ぎ師が,”浮いた錆をひとつ消すごとに昇給X石”って契約で雇われていて,で昇給なしで幕末を迎えた―という逸話。そりゃ錆が浮くことはあったが,それはそれでその人の先の仕事ぶりが悪いということでもあり,これは恥である,というわけだ。研いでしまって,錆なんか浮いてませんでしたよー,という体にしていたという。

 高度な職人技を安売りしたとも言えそうだが,とはいえ繰返し錆をうかせてそのたびに昇給を受けた場合,どの段階かで”君,わざと錆を浮かせていないかな?”とにこやかに疑われてクビになる可能性もある(しかも大いに)。



 次に雇われる人は,まあそれなりの高給で雇われるだろう。研ぎ師の単価があがって,それにつれて諸種の物価も上がるのかもしれない。いや,研ぎ師の社会的ステータスが高くなるだけで済むかもしれないが。


 おそらく我々は,”職人の心意気”みたいなものに相当依存していて。
 個々の労働の現場で発揮されるそれが,労働の質を全体として高めていたのだろう。
 納得できる賃金と引き換えでなら,それは相当に安定的に依存できたのだろう。例えば,江戸時代の例のように。

 ただ,それは容易に破綻する(戦時徴用の例なんぞ考えてみればいい―熟練工が引き抜かれたり,生産すべき数量が爆上がりすると,未熟練工を”職人”にする時間がない)。
 …負荷は,一定程度以上であってはならないことがわかる。
 さらには,その”心意気”を発揮するよう強要するがごときことが起これば,まあ発揮する気も起きなくなるわけである。つまりまあ,サービス業で,お客様の満足のために全てを捧げつくせ,というようなブラック企業のような場合を思えば(心意気を発揮してもいいが,単に潰れる時間が早く来るだけでもある)。

 この”心意気”の諸部分に適切な値段をつけて,GDPなりの統計に出るようにすれば,まあ結構な経済成長が見られることではあろう。だがそれは幸せな労働だろうか? 幸せの享受になるだろうか? 

 うちの先生のパートナー様は細かなひとで,ある時,家具屋さんで”どうでぇ奥さん,このベッド,一式くるめて値引きで10万円!”と言われて,そんな商売は間違っている,ベッド枠の値段はこう,値引き率はどう,マットレスの正規の値段はこうで値引きはこう,と書かねばならない!と主張し―
 ―細かに書かせた結果,10万円以上になったが,まあその書類に満足してお買い上げになったということである。

 さてこの寓話の結末の場合,売り上げはあがったので統計には+の効果があるだろう。しかし―?
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