tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

日米「賃上げ要求」を比較してみました

2023年09月18日 14時26分02秒 | 労働問題
UAW(全米自動車労組)の協約改定交渉は賃上げ率で応酬が続いているようです。

前回も触れましたが、UAWと「ビッグ3」の労働協約は4年ごとで、9月14日に協定期間が切れ、話し合いは折り合わずにストに入ったという事です。

主要課題の賃上げ要求は、今年20%、来年以降5%で協定期間は4年で累計39%です。
日本では複数年協定は基幹労連の2年以外にはないようですから、単純に比較はできませんが、経済情勢や物価に応じた賃上げという狙いは共通でしょう。

先ずアメリカ(UAW)ですが、正常な経済状態であれば5%賃上げというのがUAWの基本的な考え方でしょう。
我々が驚くのは初年度の20%ですが、これは昨年からの10%近いインフレによる生活費上昇をカバーする2年分の要求という事でしょう。

報道の中ではUAWの中にも初年度18%という妥協案もあったようで、この場合は4年間で36%と言っているようです。(アメリカのインフレはピークで8%台でした)

「ビッグ3」の側ではクライスラーの親会社のステランティスの提示した21%(おそらく初年度8%、あと3年は4%)についてUAWは問題にしていないようです。

UAWの要求の目玉は、初年度の大幅(2年分)部分ですが、今年にないってFRBの努力でインフレ率は日本並みですから些か無理筋でしょうか。

ところで日本の場合ですが、連合の今春闘の要求は「5%程度」でした。物価上昇傾向はありましたが、何とも控えめです。

恐らく来春闘ではかなり高くなると思いますが、実は問題があります。
日本の賃上げ要求はかつての労働4団体のころから「定昇+ベア」です。アメリカの賃上げは「賃金表の書き換え」ですからもともとベアそのものです。

定昇(2%程度)というのは賃金協定で決まっているのですから上がって当たり前で、本当の賃上げはベア部分だけなのです。

特に定年再雇用の場合などは、賃金は7割とか5割に下がります。高齢化でそういう方も増えていますが、これは春闘賃上げの計算には入らないようです。
しかし、賃金統計(毎月勤労統計)などで見れば、賃金水準の低下要因で、国民所得統計の雇用者報酬、個人消費支出にはマイナス要因です。

日本経済はこのところずっと個人消費の低迷で成長しないというのが実態ですが、連合が「春闘と、日本経済の活性化、成長経済への進展」との関係を考えるならば、春闘の賃上げについても、要求の幅は勿論、賃上げ率の提示の仕方も再検討の要があるのかもしれません。

所で経済実態と賃金の関係を考えれば、アメリカの「ビッグ3」が利益を稼いでいるのは、中国を始め途上国の工場でしょう。アメリカの賃金水準で、車を作って、どこまで競争力があるかです。しかもドルは今金利上昇で当分「ドル高」でしょう。

翻って日本を見れば、国内の工場生産が重要で、車だけでなく多くの製品で、生産設備の国内回帰が言われるだけの競争力を維持し、さらにこの所、大幅な円安で、コストも物価も極めて安い国になっています。

端的に言えば、アメリカの賃上げは、アメリカの赤字を増やす効果を持ち、日本の賃上げは、日本の黒字を減らす効果を持つという事でしょう。日本では大幅賃上げが国(日本経済)の為なのです。

この儘ではいずれまた円高要請を呼び、プラザ合意の二の舞になるかもしれません。
ならば、このチャンスに、国内の賃金コストと物価を『計画的に』引き上げて、円高要請に対する防波堤とすることが、日本の賃金政策の中にあってしかるべきでしょう。

日本は、真面目な努力を円高で苦しみに変えてきました。今後はその努力分を賃上げし、国民が日本経済の豊かさとして活用することを考えるのが大事ではないでしょうか。

アメリカではUAWが対「ビッグ3」で一斉ストライキ

2023年09月16日 21時46分40秒 | 労働問題
昨年の4月、原油価格の上昇をきっかけにして、アメリカの消費者物価が急上昇、FRBが金融引き締めに走る中で、アメリカのアマゾンの倉庫や物流拠点で労働組合結成の騒ぎが報道されました。

それから1年余り、今度はUAW(全米自動車労組)がスト突入のニュースです。

アメリカの労働組合運動と言えば、UAW(全米自動車労組)はいわば代表格で、相手はいわゆる「ビッグ3」、GM、フォード、クライスラーで、このうちの1社を相手に勝ち取った賃上げが、自動車産業全体の賃金を決め、全米労働者の労働条件に影響すると言われたところです。

しかし、1970年代からのスタグフレーションの中で、自動車産業の都、デトロイトは、ラストベルトの代表的存在となり、AFL-CIOの中でも、製造業中心の伝統的巨大産業の労働組合の動きがマスコミのることも少なくなっていました。

ところが、新しい産業の組合結成問題から1年以上遅れましたが、UAWが、GM、フォード、ステランティス(クライスラーの親会社)のビッグ3の3社を相手に一斉ストに入るという史上初の労使紛争に突入しました。

直接の原因は、なんといっても全米労働者の代表という意識のあるUAWでしょう。近年は4年協定で9月14日に協定の期限が来るという事で今後4年間の交渉に入っていました。

GMの経営者は、電気自動車増える中でも「GMは雇用拡大を目指す」と雇用面で組合を牽制したようですが、組合の賃金要求は今後4年間の賃上げは初年度(9月15日から)20%、24年度からは年5%というもので4年間では39%になります。

労使双方理屈はあるでしょうが、初年度20%で、4年で40%近いというのは 経営サイドにとっては受け入れ難かったのでしょう。
交渉は決裂、3社一斉にスト入りという事になったようです。

3者一斉という今までなかったことで、アメリカのマスコミでもキャスターの説明も力が入っているようです。

勿論マスコミの論調には政治の視点も入っていて、もともとUAWは民主党支持、大統領選ではバイデン支持という事ですから、事は微妙です。

マスコミによれば、バイデン大統領はUAWの要求について「労働者がが不満足なことは理解できる」と発言したとのことです。
かといって、FRBがインフレ抑制に眦を決しているのに、今年20%の賃上げではインフレ容認です。

UAWも、対3社一斉ストと言っても、スト入りの工場は各企業の一部で、「最終組み立て部門は殆ど動いている」といった報道もあり、全面対決ではないようです。

アメリカやイギリスの労使関係も、かつての「敵対的であることが正しいあり方」といった意識は薄らいでいるようです。

しかし、インフレと賃上げに関してバイデン政権とFRBの目指す方向が食い違う可能性も出て来るわけで、この収拾に、自動車産業労使、それに政権と中央銀行が、如何なる貢献をするのか注目してみたいと思っています。

国際競争力が維持できる範囲のインフレは健全

2023年09月15日 15時20分06秒 | 労働問題
先日、「賃上げか物価抑制か:当面する経済対策」というテーマで、日本の今の情勢では、物価上昇を何とかしようと努力するよりも、ある程度のインフレを許容する覚悟で思い切った賃上げを行い、インフレの中で、いろいろな矛盾を調整する方が推奨される政策ですという趣旨のことを書きました。

日本の政府・日銀も「2%インフレターゲット」という政策を共に掲げているのですから、経済運営の環境としては、多少のインフレがあった方が望ましいと考えているのでしょう。

2%インフレターゲットは、当時アメリカの2%に追随したものと感じて、アメリカが2%なら日本は1%ターゲットでもと書きましたが、経済状態というのはデフレよりインフレの方が良い事は明らかです。(「デフレ3悪」参照)

しかし多くの国の指導者がインフレを恐れるのは、過去の世界経済の歴史を見れば、インフレというのは進み始めると、とめどなく進む危険性が高く、結果は国際競争力を喪失し、経済破綻という例が数多いからでしょう。

今の世の中ですと、変動相場制ですから、輸入インフレが賃金インフレを呼び、結果は通貨価値の下落となって、インフレを昂進させ、更なる賃上げを呼ぶという、賃金上昇、通貨価値下落、インフレ昂進の三つ巴のスパイラルになるのです。

これを避けるためにFRBもECBも、金利を引き合上げ、インフレを止めることに腐心しているのです。

ところで日本ですが、輸入インフレを賃金インフレに繋げないという良識を労使が持っている稀有な国です。その国が、アメリカの金利引き上げのトバッチリで賃金上昇をしないのに大幅な通貨価値下落(円安)に直面しているのです。

当然一部に「円安による輸入インフレを国内インフレに転嫁」しようという動きが出て来ています。しかし最大のコスト、賃金は上がっていません。
ですから円安で、国際競争力は大幅強化。輸出企業は大幅増益、一方、輸入エネルギー価格上昇分は政府のバラマキ補助金で潤い、結果は日経平均の大幅上昇です。

ではその皺は何処に寄っているかと言えば、「実質賃金の低下・消費需要の低迷」と「財政赤字、国債増発=将来の国民負担」で、この2つは、国民の「今日の消費生活と将来負担」という事でしょう。

こうした日本経済の構造的歪みを正すとすれば、国民の暮らし「家計」への配分を円安による目減りに応じて増やす(賃上げか減税)しかないのです。

政府は「国民に寄り添う」と言いながら、本当は「国民に寄りかかって」政権維持に狂奔、国民経済の衰退は放置しているという事になります。

日銀は、FRBに対抗し、経済理論と金融政策を駆使して、こうならない様に早めの手を打つべきでしょうが、答えは生成AI の様に早く出て来ないのが現実です。

嘗ての若い日本だったら、労働組合が大幅賃上げの旗を掲げ、野党は結集、こぞってバックアップという構図が見られたのかもしれません。

頑張って10%ぐらいの賃上げを勝ち取っても、日本の国際競争力はびくともしないでしょうし、経済の活況で生産性も上がってお釣りがくるでしょう。

日本人が皆大人しくなって、世の中も安定しているように見えますが、何処かで「芯」が確りしていないと、行く先が心配です。

賃金は上がっているのか

2023年09月12日 15時14分47秒 | 労働問題
賃金は上がっているのか
このブログで多用する統計は4半期別GDP統計から消費者物価指数、毎月勤労統計、それに家計調査など、問題・テーマに応じていろいろですが、特に賃金と物価については気になることが多いので、頻繁で、前回も取り上げました。

消費に関しては家計調査が中心です。その中で、2人以上勤労者世帯の「平均消費性向」は最も貴重な数字です。

これは、収入と支出の増減関係が解る数字です。収入が増えて支出が増えるという素直な関係が望ましいのですが収入が増えても支出が伸びないと消費不況、収入より支出が伸びた昨年は消費回復が言われました。

今年は賃上げも少し高かったので、支出も順調に増えるといいなと思っていましたが、物価が上がって邪魔をしています。

それに収入があまり伸びていないのです。日本の家庭は勤労者家庭が太宗ですから、収入は賃金が主体、で毎月収入(賃金)の動きが解るのは、毎月勤労統計と家計調査の勤労者世帯の部分です。

この2つから、今年の4月以降の賃金の動きを見たのが下の図です。

    賃金と勤労者世帯主収入の対前年上昇率(%)

    資料:厚労省「毎月勤労統計」、総務省統計局「家計調査」

毎月勤労統計は事業所調査ですから賃金を払う側の調査、家計調査は勤労者世帯ですから賃金を受け取る側の調査です。前者は「現金給与総額」、後者は、「世帯主の(勤め先)収入」です。

春闘賃上げは3%台でしたが、上記の賃金の「対前年同月上昇率」はそんなに高くありません。
勿論物価が上がっていますから実質賃金はずっとマイナスですが、上の図は名目賃金ですから物価は関係ありません。

現実の統計数字を見ますと、毎月勤労統計では5月が2.9%で最高、6月はボーナスが去年ほど出なかたせいか2.3%です。

一方家計調査の世帯主収入はもっとひどい状態です。名目の収入そのものが3月以来前年より少ないのです。ボーナスの出た6月はマイナス4.1%、これで賃上げがあったのかしらといった感じです。

統計が違い、調査対象も企業の家庭の違いはありますが、物価上昇による実質賃金目減りの前に、名目賃金がこの程度の上昇なのですか(家計調査では下降)?! といった感じです。

直接そのせいかどうかは別として、家計調査では昨年来の平均消費性向の上昇基調に反転下降の感じもあります。

円安でインバウンドは盛況のようですが、日本人自体の消費意欲が出ない事には消費不況はとても脱却できないように思われます。

円安と経済政策:忘れられた賃金 3、賃金と消費需要

2023年08月27日 15時17分46秒 | 労働問題
前回は、円安になった時の問題として、輸入部門は差損が出、輸出部門は差益が出るという、いわば自動的な所得分配の不公平が起きるという問題を先ず指摘しました。

その上で、サプライチェーン全体で輸入部門の差損を均等に負担する事の必要性に政府も気づき、輸入品価格の上昇を国内価格に適切に価格転嫁すべきという事になったようです。

この価格転嫁はまだスムーズに行われているとは言えませんが、この所、食料、飲料、日用品などの価格がかなり上がっていますからある程度進んでいるのでしょう。

ここで新しい問題が起きます。輸入品の価格上昇を国内価格に転嫁すれば、国内物価が上がります。それを買う消費者に、その皺寄せが来ます。そうならないためには、賃金についても円安に応じた上昇(所得配分の是正)が起きなければならないのです。

今迄の議論の中では、はっきり言って、差損・差益という企業収益の面の議論だけで、国民所得の7割を占める賃金への転嫁(配分)の議論が「忘れられてきていた」というのが現実です。

その結果起きたことが、円高になると国際競争力がなくなって日本は大変だが、円安になると国際競争力が強化されて、日本経済に有利、という常識だったのです。

賃金(雇用者報酬)は国民所得の7割を占めています。10%の円安が起きますとドル換算の日本の賃金は10%下がります。輸入部門でも、輸出部門でも賃金は下がります。

輸入物価の国内価格転嫁が100%完全に行われれば、為替差益と為替差損は相殺されます。そして国内物価は10%上がります。

その場合、賃金水準も10%上がれば、円安で、国際競争力が強化されることはありません。
賃金が5%しか上がらなければ、残りの5%分は日本の賃金コストが安くなって、国際競争力が強くなるのです。

逆に円高の場合を考え見れば、解り易いと思いますが、「プラザ合意」で2倍の円高になりました。賃金を半分にしなければ国際競争力は回復しません。そんなことは出来ませんから20年かけて(失われた20年)漸く下げたのですが、その方法が、正規従業員を非正規で置き換えるという事で、未だにいろいろな後遺症に苦しんでいます。

円安、円高は、多く外国の都合で起きますが、日本の賃金改定は年に一回の春闘です。円安の時には、物価が上がって、賃金が上がらないという現象が起きます。

アベノミクスの初期段階では円レートは80円から120円に50%分の円安になりました。賃金が5割上がって元々ですが、日本は賃金を殆ど上げませんでした。(このブログでは、賃上げよりも非正規の正規化に円安の余裕をつぎ込めと指摘しました)

上記の50%の円安で生じた円建ての余裕を、例えば、半分を人件費(雇用者報酬)増額に、半分を国際競争力の強化に使ってもよかったのではないでしょうか。

全てを国際競争力の強化(ドル建て人件費の抑制)に使ったため、国内経済は不況期と同じ消費不振によるゼロ成長を続けたという事でしょう。

今の円安についても同じことが言えるようです。この程度の賃上げで済まそうとすれば、現状の実質賃金マイナスが続き、消費不振からアベノミクスの二の舞になる恐れが大きいように思います。

前述のように、外国の都合で円高になったり円安になったりする日本経済ですが、円レートが大きく長期に変化した場合、如何なる賃金政策を取るか、この際、政労使に日銀も加え、衆知を集めて「日本ならこんな事も出来る」というような素晴らしい知恵を出して欲しいと思っているところです。

雇用構造と賃金構造のこれから 2

2023年08月15日 13時49分32秒 | 労働問題
生成AI の登場で、雇用が減るという心配はないでしょうが、問題は求人難と失業が併存するような雇用のアンバランスが心配というのが前回の視点でした。

社会の安定を維持するために必要なことは、誰もが自分に合った仕事に就けること、そしてその仕事から、安定した所得を得て自分や家族の生活が安定する事でしょう。

職業に貴賤はないと言いますが貴賤は無くても所得格差があるのが現実です、そして、前回も触れましたが、対個人サービスが中心となるエッセンシャル・ワーカーの仕事の中には、一見誰もが行う家事労働に類似し、マンツーマンであるところから生産性が上がらな
い仕事が多いので賃金が上がりにくいという問題があるようです。

特に高齢化社会では介護や家事労働を始め、体力と根気のいる仕事が多くなります。こうした生産性の上がらない仕事の賃金を、如何に上げていくかという問題が、社会の安定を維持するために大変重要になっているのです。

こう考えてみますと、エレクトロニクス、メカトロニクス、生成AI といった技術革新の利用で、大幅に生産性の上がる仕事と、人間の体力や根気をベースに、生産性は上がらないけれども、人間がやるしかない仕事との賃金をどう決めるかという問題は、今後ますます大きくなっていくのではないかと思われます。

このブログでも賃金の上昇は生産性の上昇に準拠しなければならないと書いて来ています。
しかしこれを産業別や職種別に考えてしまいますと、製造業の賃金はどんどん上がるけれども、マンツーマンの対個人サービス業の賃金はなかなか上がらないことになります。

結果的に起きるのは 、宅配や介護などの労働力が足りないという一方で、生成AI の利用による事務職の余剰の発生をどうするかといった問題の併存といったことになるのでしょう。

こうした問題はを、マーケットメカニズム(不足する職種の賃金は上がる)による解決に任せるとうのが自由経済の原則かもしれませんが、世の中そう簡単にはいきません。

ネット販売がますます盛んになる小売業の現状を見れば、販売競争の中で「送料無料」というのが目玉のようになっています。
消費者もそれを善しとしているようですが、送料がタダのはずはないので、やっぱり価格の中に入っているのです。

人間が体力を使ってやるしかのような仕事というのは高級な仕事ではないという意識が、業界にも消費者のもあるのでしょうか。

若しそうした意識があるのなら、人間の体力や根気・忍耐力でやるような仕事に対する、社会としての認識をこれから、ますます大きく変えて行かなければならないのではないかといった気がしています。

高齢化社会では人間の体力は平均的にはどんどん低下します。そうした中では、体力、根気・忍耐力といった生身の人間の力の価値、肉体労働の価値がますます上るという事になるのではないでしょうか。

頭脳労働は価値が高く、肉体労働は価値が低いといったこれまでの労働についての価値観、それによって組み立てられていた賃金構造は、これから、大幅に変わらなければならないのではないでしょうか。

雇用構造と賃金構造のこれから 1

2023年08月14日 13時45分56秒 | 労働問題
生成AI が急速な発展を見せている中、ホワイトカラーの雇用問題が心配されています。

端的に言って、論文の要約、議事録の作成、資料の収集その他、人間よりも生成AI の方がずっと効率的だということが解って来て、そうした仕事の雇用は大幅に減る可能性が指摘されています。

私もそんな仕事を随分やってきましたが、実はあまり心配していません。
今迄も、いろいろな分野でそうした問題が指摘されてきました。

古くは機械化でラダイト運動が起きました。電話システムの進化で交換手が要らなくなりました。ワープロでタイピストや清書係りが消えました。ME化、ロボット導入でも工場労働者の雇用問題は随分心配されましたが、日本でもアメリカでも、今も求人難です。

これは人間の社会が、そうした新しい発明を活用して、新しい活動分野を広げて、新しいタイプの雇用がどんどん拡大するからです。

生成AI の発展もそうした形で、新しい雇用を作り出すでしょうし(生成AI を利用した新しい活動分野でビジネスを起こす人が沢山出るでしょう)、今人手が足りない分野で仕事を探す人も多くなれば、雇用のバランスも良くなるでしょう。

今迄も新しい画期的な技術進歩があるたびにこうした雇用構造の変化が起きて雇用が増えているのですが、ここで重要なのが雇用構造の変化に対応した賃金構造の変化でしょう。
これが上手くできれば、何も心配しなくていいのですが、どうでしょうか。

先ず雇用構造でどんな変化が起きるのかという事を考えますと、多分こんな傾向のことが起きるだろうし、起きた方が社会は巧く回っていくだろうという視点で考えてみたいと思います。

産業革命以降の歴史の中で見ますと、技術革新で無くなる仕事と、いくら技術が発達してもなくならない仕事に大きく分けられそうな気がします。その間にいろいろ消長する仕事があるのでしょう。「仕事」と書きましたが、広く言えば「社会が必要とする人間の活動」という意味です。

人間の欲望はキリがありませんから、多分、新しい技術開発のような仕事はなくならないでしょう。今の若い人は、会社勤めより、スタートアップの仕事を始めたい思う人、新しい仕事を創りだそうと考えるいう人が増えているようですし、企業内でもそうした新分野開発の重視傾向が顕著です。これは人間でなければできない先端分野です。

他方、人に対する直接のサービス、エッセンシャル・ワーカーなどと言われる「対個人サービス」はますます重要になるでしょう。
これは人間が、直接人間の面倒を見る仕事です、介護・医療から、配達、各種相談、教育まで。

人間がいる限り人間の面倒を見る分野の仕事はなくなりません。エッセンシャル、つまり必須なのです。

実はこの分野は、基本的には昔から同じことをやっているのです。そうした古い仕事ですから、絶対必要で体力を使う大変面倒な仕事なのに、高級ではない仕事のように意識されている分野が結構あります。配達や身体介護などは典型的でしょう。

そして、そうした分野で、仕事の負担と賃金水準のアンバランスが生まれ、雇用構造が社会の要請に合わないといった社会的な問題が起きるという現実があります。
古くからある、一見単純に見える対個人サービスは、賃銀は安いものといった不合理な発想が社会の中での必要な雇用の配分を歪めているのです。

雇用の消失、失業の増加については、トータルでは心配をしていませんが、雇用構造の変化と賃金構造の変化のギャップが、社会全体としてバランスのとれた雇用の配分を歪めるという事態については、今後もいろいろと問題が起きるのではないかという点で心配がある事は否めません。

此の点を確り見て行かないと、トータルではバランスが取れても、社会としては問題含み、失業と求人難が併存するようなことが起きるのではないでしょうか。
次回は、この点について考えてみたいと思います。

進化するインターンシップ:学生から社会人への架橋

2023年08月03日 13時31分07秒 | 労働問題
昨年、経団連と大学サイドの協議会で、インターンシップと採用の関係が柔軟化し、今迄のインターンシップを採用に結び付けてはいけないという考え方が見直され、2025年卒業生からつまり今年のインターンシップ(3年生)からは、採用直結のインターンシップも一般的になるようです。

ご承知のように日本では学生から社会人になる人生の大変化の時期をできるだけスムーズに通過できるような方式「新卒一括採用」という方式が上手く成立しています。

それは、若年層の失業率が欧米諸国に比べても圧倒的に低い事に示されています。
何故そうなのかという理由は、欧米流の「ジョブ型」採用でない、人物本位の採用で、即戦力でなくても、良い素材を採用して給料を払いながら企業が育てるという考え方が一般的だからです。

その意味では、将来この企業に馴染んでくれる人間を選ぶことは大変大事で「就活」に学生も企業も真剣に取り組む熱心さは日本ならではのものでしょう。

就活での学生と企業の接触が、短時間の面接だけではなく、より長い時間を掛けて出来れば、それは双方にとって良い事でしょう。
インターンシップがその機会を提供することになれば、それぞれの企業の現場で、実際の仕事や人間関係の雰囲気を感じながら学生と企業の摺り合せが出来るわけで、大変結構なことだと思うわけです。

今迄は、学業がおろそかになるなどの理由で、採用選考に繋がるようなインターンシップの在り方は認められなかったのですが、それは何かのこじつけのようなもので、企業が、わが社への就職が希望ならば、こういう専門領域でここまで勉強して来てくれと言えば、学生は安心して卒業まで一生懸命勉強するでしょう。

当然、インターンシップも、今迄の会社見学のようなものだけではなく、仕事の現場に入って、仕事の経験もするような長期に亘るものも必要になるでしょう。
当然それは夏休みなどの期間の利用という事になるとすれば、現3年生、2025年3月卒業生からは、早速今年という事になるのでしょうか。

インターンシップの在り方の柔軟化で、今後の就活事情は、学生側、企業側の経験が蓄積されれば、双方にとってより良いものに進化していくと思われます。
こうした問題は、規制をするより出来るだけ自由にして、不合理な行き過ぎについては、良識を信頼し、世論に耳を傾けることで学生も企業も対処すべきでしょう。

最後に望まれるのは、現実を知らない政府の「働き方改革」の中で、欧米流の「ジョブ型」がベストであるとか、採用も「ジョブ型」にすべきで、新卒一括採用はやめるべきだなどという、誰も従わない方針などは、熟慮の上、早期に「改める」ようにすべきだという点でしょうか。

最低賃金引き上げか、非正規雇用の正規化か

2023年07月31日 12時14分54秒 | 労働問題
今年の最低賃金の引き上げ目安額は41円で決まり。全国加重平均は1002円と、目標の1000円越えが実現しました。

賃金を上げるには生産性の上昇がないと不可能ですので、政府上もげすぎだと思っているのでしょうか、生産性向上のために設備投資をしたら助成金を出したりしています。

今の政府はそうしたパッチワーク(つぎはぎ政策)で辻褄を合わせることが本来の仕事と思っているのかも知りませんが、本当は、もう少し、より良い産業社会のための賃金、雇用、生産性といった本質問題を深く考えた政策展開が欲しいものです。

何十年も賃金がほとんど上がらない状態の中で、最低賃金だけでも上げればいいというのではなくて、この賃金の上がらない状態の構造要因に気づき、そこに手を打つことが先ず必要なのです。

長期の円高不況の中で、企業は平均賃金を下げてコストダウンを図り、一方生産性向上にも努力し、国際競争力の回復に専念しました。

ここで問題はどうやって平均賃金水準を下げたかです。企業にとっては賃下げは至難です。そこで選んだ道は、正規雇用を減らし非正規雇用を増やすことだったのです。
ご承知のように10~15%だった非正規の比率は40%に増えました。
日本人は器用ですから即席の技術指導で何とか当面を凌いだのが実情でしょう。

2013・14年の黒田バズーカで円高は解消、日本経済の国際競争力は戻りました。このブログでは、円高で増えた非正規は円安になった時点で減少すると思っていました。

ところが企業は、賃金の安い非正規でも企業が回ると思ったのでしょう、非正規雇用は大幅増加で40%に達し今も殆ど減少していません。その咎めは今随所に出て来ています。

企業の中で資格を持つ人が不足して偽装に走るとか、安全教育の不徹底とか、いろいろな問題が起き、社会的には、不安定雇用者が増加し、収入の不安定から、非正規=低賃金で、貧困家庭の子供が急増するとか、一部には80・50問題が社会問題になる現状です。

安倍内閣以来、官製春闘という言葉も出来ましたが、本当に必要なのは、一般的な賃上げでは無く、非正規労働の正規化による低賃金層の救済、非正規は家計補助や学生アルバイトが中心という、かつての安定した雇用の在り方に日本社会を復元する事だったのです。

それを怠ったのは、直接関連する「政労使」3者の共同責任、日本社会の共同責任という事ではなかったでしょうか。

賃金の引き上げも重要です。しかし賃金発生の源は雇用であり、人間生活に最も重要なのは「安定雇用」なのです。
嘗ての日本は、経営者の主導による正社員化によって経済成長の黄金時代を生み出したように思います。企業は、正社員には教育訓練を徹底したのです

勿論時代は変わりましたが、雇用の安定が人々の生活の安定を支え、社会の安定を可能にするという関係は、何ら変わっていないというのが人間の社会ではないでしょうか。

最低賃金上昇に力を入れるのも結構ですが、ここ当分、非正規雇用の比率が現状の40%から出来るだけ早く15%程度になるまで、政労使の最大の努力目標は、非正規労働者の削減というところに置き、あらゆる可能性を検討、追求するべきではないでしょうか。

最低賃金は「上げればよい」のか

2023年07月20日 13時56分56秒 | 労働問題
7月は最低賃金の季節です。
日本の最低賃金は、公労使の3者からなる最低賃金審議会で決めるのですが、毎年6月から7月にかけて全国的な最低賃金引上げの「目安」を決める中央最低賃金審議会で引き揚げの「目安」を決め、8月以降、各県の地方最低賃金審議会が各県の引き上げ幅を決め、10月実施というのがスケジュールとなっているようです。

という訳で、今年も7月中に「目安」を決めるべく中央の審議会(いわゆる中賃)で審議が行われています。

公労使で審議して決めるというのは大変民主的のようですが、マスコミの報道によりますと、ここ数年来政府の最低賃金引き上げの意向が強く、今年は岸田総理が最低賃金は1000に引き上げ、更にその後の議論をと言っているとのことです。

最低賃金審議会では公益代表は政府の任命ですから政府の方針に従うでしょう。労働サイドは賃金引き上げに「ノー」は言わないでしょう。3者のうち、二者が政府の意向を受け入れれば、2対1で、政府の方針は通ることになっているようです。

昨年の最低賃金の全国加重平均(時給)は961円だそうで、1000円にはあと39円ですが、今迄の目安の上げ幅の最高は昨年の31円ですからどうなるでしょうか。

最低賃金の引き上げは、、この所、政府の意向が強く反映され平成28年以来コロナの令和2年を除いて毎年3%を超えています。平均賃金はここ数年ほとんど上昇していませんから最低賃金の上昇は、理論上は賃金格差の是正に役立っていると政府は考えているようです。

しかし、賃金というものは生き物で、最低賃金だけ無理に上げればひずみも出ます。
最も問題なのは、その影響を受ける中小企業でしょう。
最近でこそコスト上昇の価格転嫁を認めようという雰囲気もいくらか出て来ましたが、最低賃金によるコストアップは、昨年来の食料品や日用品の一斉値上げによる消費者物価の上昇の一因という指摘も出ています。

確かに最低賃金の引き上げは、格差社会化の進行を抑えるための効果的な手段のひとつでしょう。しかし、それを、ごく単純に、最低賃金の引き上げだけを毎年進めるという形で、中小企業に負担を押し付け、後は中小企業の自助努力やマーケット・メカニズムがなんとかするだろうという事で済ませるのでは安易に過ぎるでしょう。

大企業の収益はこの所かなりの好調を記録しています。下請け代金の改善の問題については、政府も政策は打っていますが、実効がどこまでかについては、問題は多いようです。

さらに問題なのは非正規雇用という長期不況の結果の雇用構造の復元、改善がほとんど進んでいない事です、正規雇用者にとっては、最低賃金は殆ど無関係という場合が殆どでしょう。最低賃金は殆ど非正規の問題なのです

政府が望む格差是正や中間層拡大の問題は、最低賃金の引き上げを、政府の旗振りで強制すれば進むものではないでしょう。政府が音頭を取り、政労使3者が十分な理解と意思疎通を図りながら、3方納得づくのコンセンサス方式で解決するよりないのです。

スローガンを掲げたり、法律で強制しやすいところだけ進めたりという安易な政策態度では、格差社会化のような複雑な問題は解決出来るものではないでしょう。

最低賃金引き上げと同時に、税制、社会保障、公正取引、政労使のコンセンサス作りなど、格差是正、最低賃金引き上げにに関わる問題全てに、同じような熱心さが必要なようです。

困った「働き方改革思想」の独り歩き

2023年06月17日 14時34分46秒 | 労働問題
「働き方改革」という政府の方針が出て、日本と文化社会の在り方が全く違う欧米流の「働き方」が一方的にいいものだという浅薄な理解が、日本の職場で働く日本人に適用されるようになり大迷惑の企業が多いようです。

はっきり言って日本の文化・社会の基本には、常に「人間中心」の思想があり、人間の作る社会、人間の作る文化ですから、常に人間を主体にし、人間を大切にすることが基本と考える事が基本になっています。

これに対して、欧米の文化は、人間を場合によっては(主要人物以外は)主体ではなく目的のために使う手段として考える思想が残っているようです。

恐らくこれは奴隷制が一般的だった歴史的な文化の残滓なのでしょうから、縄文時代から奴隷制の無かった日本の文化の中では発想されない思想なのでしょう。

例えば、企業は日本では人間集団で、中の人間が協力して役割を担うという形が一般的です。具体的には、仕事を決めずに人物本位の新卒一括採用という考え方です。
仲間が集まった、みんなで一緒に仕事をしようというのが企業です。

欧米では、企業というのは多様な職務を組み合わせた組織であり、それぞれの職務に適した人間を採用するという形で、職務の必要に応じた随時の採用が普通です。
船の漕ぎ手が何人必要、荷物の運搬に何人必要、その分奴隷を集めよ。昔の話ですが。

生産活動の要素は「人間と資本」と経済学は言います。日本では、なるべく「生産活動は人間が資本を使って行う」というべきでしょう。

属人給中心の日本に「ジョブ型賃金」(昔の職務給)を導入せよというのが安倍政権以来の「働き方改革」の基本ですが、誰か欧米流こそが合理的と思い込んでしまって、日本流の、常に人間が主体という理解を欠いたアドバイザーがいるのでしょうか。

その問題が、今度は退職金制度に飛び火してきたようです。
退職金制度というのは、わが社に加わった人間は、わが社で教育し、出来るだけ長くその成果でわが社に貢献してほしい、それが本人にとってもわが社にとっても最も効率的な人間能力の生かし方ではないか、という考え方に由来するものです。

従って、勤続が長くなるほど有利になるのが退職金制度設計の原則です。
ところが昨16日に岸田政権が閣議決定した「新しい資本主義」の実行計画では、企業が定める退職事由による退職金格差、自己都合では低くなるという決め方は見直しが必要とするようですし、税制で長期勤続を支援する20年勤続以降の税控除の優遇の見直しが盛り込まれているとのことです。

理由はともに、労働移動の円滑化を阻害するという、日本の文化社会の在り方とは異なる欧米流の職務中心の考え方から来ることのようです。

矢張り基本的のおかしいのは「労働移動がしやすいのがいい働き方」という欧米流の企業中心、人間は企業繁栄の手段という日本文化と真反対は思想に従ったものです。

政府は転職してより良い仕事について高い賃金を得ることが良いという固定観念のようですが、現実は転職して賃金が上るというのは一部の能力の高い人の話で、大多数の人は、慣れた企業で慣れた仕事で腕を上げベテラン社員になって、人事異動はあっても安定した雇用、それなりの賃金、優遇された退職金を得て、その後は慣れた仕事で再雇用というのが最も望ましい職業人生でしょう。所謂豊かな中間層というのはこういう人達でしょう

それなのに、多くの企業が困るようなことを政府が考えるのも、どうも「異次元少子化対策」の財源探しの一環という事もあるようです。「働き方改革」という見当違いの政策がそこまで影響するというのも困った事ですね。
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多くの従業員の声を聴けば、「辞めようと思えばいつでも辞められるよ。転職して給料が2割ぐらい上がるチャンスがあれば、考えるかもね。でも、俺の場合、そんなチャンスは、滅多になさそうだね」とのことです。

改めて非正規雇用問題の深刻さとは

2023年05月25日 20時39分01秒 | 労働問題
今春闘の賃上げ率は、従来の水準より1ポイント前後高くなるようなペースで進んでいるようで、これは多分日本経済にプラスの影響を持つと見られます。

また、賃上げ率でみると正規従業員より非正規従業員の賃上げ率の方が高いというケースもかなり多いようです。

勿論金額でいえば、正規従業員の方ベースが高いですから高くなるにしても、率が高ければ何時かは追いつくのが理屈ですから、先ずは評価出来る動きで、今後も企業としては確り考えるべきだと思います。

しかし、より本質的な問題を考えますと、長期不況の中で企業が正規を減らし非正規を増やしたという問題は、賃金引き上げだけでは解決しない大きな問題を孕んでいます。

それは、非正規の増加が、仕事の熟達した従業員を大幅に減らした結果だという事です。
非正規従業員が15%ぐらいだった頃は、束縛の多い正規従業員にはなりたくないが、ある程度の収入が欲しいといった学生や主婦などが多いという時代でした。

それはそれなりにハッピーな時代でした。
しかし、長期不況は、日本経済、日本企業にとって極めて苛酷で、非正規で正規従業員を代替するという窮余の策を企業に強いたようです。

勿論、正規従業員の賃金水準を下げて、不況を乗り切ろうとした企業もあったようです。しかし1ドルが240円から120円と2倍の円高では、理論的には賃金を半分にしなければ生りません。
や育成
賃金はそんなに減らせませんから、福利厚生費や教育訓練費を企業は徹底して削ったようです。
特に、非正規従業員については、教育訓練や育成は殆ど手抜きだったようです。その結果、正規の日常業務をきっちりこなすベテラン従業員の仕事にまで非正規でやりくりといった状況にならざるを得ません。

完成車メーカーで、最終検査担当に資格を持たない従業員を当て、ハンコは有資格者から借りて来るといった問題が起きた記憶をお持ちの方も多いでしょう。

そして、最近は、検査の不正、データの改竄、性能偽装、設計不正といった問題が大企業を含む多くの企業で、性能検査、顧客のクレーム、内部告発などで明らかになっています。

非正規従業員は技能を持たないから転職しても長続きせず年齢は上がっても給与は上がらず不安定雇用という苛酷な状況からなかなか抜け出せない現実、企業にとっては熟練工、ベテラン不足から、ついつい偽装、改竄、不正に走るといった情けない現状が日本企業に見られるように思います。

円高不況によって引き起こされた30年に及ぶ不況の傷跡は深いようです。
これは基本的には政府の経済外交の失敗に起因するものでしょうが、その中で、非正規従業員を中心に従業員の育成、教育訓練の手抜きを、つい先ごろまでやってきた日本企業の現実は、人間だけが資源の日本産業にとっての致命傷になっているのではないでしょうか。

特に非正規従業員多用の問題は、日本の社会的な劣化にも大きく関わる問題になっている面も見逃すことは出来ません。

勿論賃上げは必要です。しかし本当に必要なのは企業が人を育てることを最大の責務と考えるような、かつての日本企業に立ち帰ることではないでしょうか。
日本産業、日本経済の再生は、その結果として実現するのではないでしょうか。

2%インフレターゲットと春闘賃上げ

2023年05月20日 16時15分02秒 | 労働問題
5月10日に連合が今春闘の結果についての中間集計を発表しています。

それによりますと、この段階での平均賃金方式による賃上げ率は3.67%で、昨年のこの段階の2.10%に比べて大幅な改善という事です。
このブログでは平均賃金で5%ぐらいがいいなどと書いてきましたが、昨年より大幅改善ですが、一方で4月の消費者物価が前年比3.4上昇で、さらに上昇の気配です。

今春闘では物価上昇をカバーする賃上げという声が強いのですが、物価上昇の方が予断を許さないという情勢です。

連合も、ここまで物価が上昇するとは予想しなかったという面もありましょうし、多くの生活用品関連産業では、コロナもあり、需要の落ち込みに加えて、原材料コストの値上がりの価格転嫁が出来なかったという事情もあり、一斉値上げでやっと一息でしょう。

然しこれでは一部の高賃上げ企業は別として、折角春闘で頑張ったのにまだ足りなかったという事で来年以降が心配という事から、今後も高賃上げを続けられるかといった心配もあるようです。

一方政府・日銀の方は10年来の「2%インフレターゲット」のままで、インフレは「そのうち2%になるだろう」という姿勢のようです。

こんな状態で、さてこれで「どうなるか」、「どうするか」という事になるのですが、政府のやることは、原油価格が下がっているのに6月から電気料金の大幅値上げでまた消費者物価の上昇に拍車をかけるようです。

もともと「インフレターゲット」というのは「インフレをこれ以下に抑える」というためのものですから、政府によるインフレ加速はルール違反ではないでしょうか。

政府が頼りにならないのなら、民間がやるしかないわけで、状況は1973年の第1次石油危機に似てきたようです。

ならば民間は何をすべきかという事になります。
企業は、製品・サービスの価格を決定するときに、なるべく上昇を小幅なものにするように努力する事と、労働側は、賃金引き上げを求める時に、なるべく企業経営を圧迫しないように努力をすることに、共に産業人の「倫理」として十分な配慮をするという事を実践するのです。

これは資本主義にとって最も基本的なことで、渋沢栄一は「論語と算盤」で論語の重要性を説き、アダム・スミスは「国富論」と同時に「道徳感情論」の著者であることが示しているように、資本主義は「倫理」を伴って「より良い」ものになるのです。

「2%インフレターゲット」という目標は、1国経済において「賃金コストの上昇率が労働生産性向上+2%」の範囲に収まる時に成立するのです。(ただし為替レート一定)

海外価格上昇による輸入インフレは、世界共通ですから、その分価格転嫁しても、国際経済の中で国際競争力上は中立です。

という事で、いま日本にとって必要なことは、企業は累積した輸入インフレ分は、この1年の一斉値上げでほぼ価格転嫁は終えつつあるようですから、後は需要増と技術革新などよる生産性向上で収益を高めることへの努力でしょう。

労働サイドは比較的モデストで、過剰な賃上げ要求はしていないようですから、後は生産性向上努力に注力する事でしょう。

多分その結果は、政府が余計な世話を焼かなくても、2023年度の物価上昇は2%前後にまで沈静化し、日銀も改めて正常な金融政策への出口に動けるようになるでしょう。

今年は、その方向へ日本経済が舵を切る年でしょうし、それが日本経済の安定成長への入り口になるのではないでしょうか。

もう1つの「働き方改革」

2023年04月25日 14時11分25秒 | 労働問題
「働き方改革」については、随分書いてきたような気がしましたが、考えてみると、結局国民はこう働け、経営者はこうした人事制度、賃金制度を導入せよ、という事で、「実体は働かせ方改革」ではないかと思って来ました。

という事で、今日のテーマは「もう1つの働き方改革」ですが、こちらが本当の働き方改革だろうと思っています。

理由は、「働き方を改革する」というのは「働く人自身が考える」ことで、政府や企業が法律や制度で決めることは、「こういう様に働かなければいけない」という事ですから、つまりは働かせる側が、働き方を決めているという事であることは明らかです。

聖書の「働くことは原罪の償い」という考え方はさておくとして、日本人は働くことが好きです。貧しい時代には「働かざる者食うべからず」などと言う諺があって、多くの人はそれでいいのだとさえ思っていたようです。

今は豊かな社会になって、そんなことには誰も賛成しませんが、大抵の日本人は、何かいい仕事があれば働きたいと思っています。
これは、端的に収入が得られるという面もありますが、それよりも、働いている事は「他人の役に立っている」という意識があって、それを大事にしいているからでしょう。

「働き方改革」の根底には、この「働くことはいいこと」という意識があることが一番大事です。
出来れば遊んで暮らした方いいと思っている人に対しては、「働かせ方改革」はあっても「働き方改革」はあり得ないでしょう。

「世のため人のためになるのだから働きたい」と考える人が、如何なる「働き方改革」をすれば、より楽しく、効率的に働けるかと考えるところに、本当の「働き方改革」という考え方が生れて来るのでしょう。

そう考えていきますと、昨今の技術革新の中で、最も大事なのは、働く意欲を持っている人すべてが、それぞれに、これからの社会でどんな準備をし、どんな働き方をすれば、より社会のためになれるかを考える事こそが「本当の働き方改革」でしょう。

そして、政府や企業の仕事は、進展する技術革新の中で、個人個人の意思の発露である働き方が実現し易いような社会環境、職場環境の「整備」という事になるのでしょう。

特に、今の時点でこんな事を書いたのも、これまでの政府の「働き方改革」が、日本人の働き方の文化、「職務中心ではなく人間中心の働き方」という伝統文化に合わない現実、政府の政策と日本の伝統文化のミスマッチが見えて来ているからです。

そして、これからの「生成AI」「生成ロボット」の積極導入という技術革新による職務の大きな変化の中で、そのミスマッチが、日本経済の効率、生産性の向上の阻害要因になることを恐れるからです。

現状既に、欧米では「生成AI」、「チャットGPT」の使用反対とか、研究禁止はどの問題が起きたりしています。

逆に日本は、面白いから使ってみようといった態度が先ず前面に出ています。この辺りにも、働くことについては職務が中心ではなく人間が中心だという日本の文化が見えているのではないでしょうか。

政府も、従来の「職務の形を中心」にした「働き方改革」を「働くことは人間が中心」という形に全面的に見直して「誤って改めるに憚ること勿れ」を実践し、この機会に日本経済、日本産業の発展の加速に貢献する方向に向かってほしいと思います。

新卒一括採用、入社式、新入社員講習・・・

2023年04月06日 15時03分42秒 | 労働問題
満開の桜の下を通って入学式というのは風物詩ですが、同じように季節を感じさせるのが4月に入るとテレビで放映される新入社員の入社式です。

新調の背広にネクタイ、女性はきっちりしたスーツ姿、大企業の場合には広い会場にびっしりと椅子を並べ、新入社員は皆緊張の面持ちで着席して社長の挨拶を神妙に聞くという画面が何度も見られます。

時には、晴れやかな顔で抱負を語る新入社員の顔も映し出され、そうだ自分にもこんな時があったのだ、などと思い出したり、こんなに新入社員を採るのは先行き好況を見込んでいるなと予想したり。これもサラリーマンにとっては風物詩でしょうか。

こうしてみんな揃って入社式をし、翌日からは、1週か2週の新入社員講習、そして配属、勤務場所が決まり、講習の終了とともに、それぞれの職場に着任、早速先輩の指導を受け、これが自分の社会人の出発点、働いて給与を受け取る立場になったと自覚をするのです。

この新卒一括採用方式という形での、学生から社会人への切り替えのシステムは日本特有のもので、欧米主要国では、企業は、それぞれの職場で、特定の仕事の人間が必要になった時、その都度、適任者を募集し、採用するのが一般的です。

これは「ジョブ型採用」という形で、採用は1人1人で、仕事に就く前から仕事も賃金も決まっています。

上記の日本の場合は、エントリーから筆記試験、面接試験があって、採用が決まりますが配属や仕事が決まるのは、企業に入ってからです。
自分の好きな仕事に就けるかどうかは、入社してからで、配属が決まって、その職場に行って初めて解るのです。

こんな形で社会人として出発し、多くは企業の中でいろいろな仕事を経験し、一専多能のベテラン、高度専門職、管理者、経営者などと自己実現の機会を伸ばし、何時かは職業生活を了え、それぞれの定年を迎えるのです。

ところで、今政府が推進している「働き方改革」では、仕事も決まらないで、採用するのはおかしい、学校を卒業して、何をしたいか何が出来るかもわからない人間を、纏めて採るなどというのは不合理だからやめて「ジョブ型」の必要に応じた採用にすべきだとしています。

「働きかた改革」についての企業の反応を見ますと、部分的には「ジョブ型」を取り入れ活用する動きもあります。
それは特定の職務(ジョブ)などで、また本人の都合や希望による場合や、定年再雇用者、定年以前の人でも、専門の業務が決まって来ている高度専門職、高度熟練者などの場合が多いようです。

小規模企業や、非正規従業員は別として、採用は「ジョブ型」ではなく、人物本位、必要に応じていろいろな仕事をしてもらうという形の採用方式が好んで選択されています。

政府が思いつきで欧米の合理性を見習えと言っても、日本社会の文化的背景に合わないものは普及しません。新卒一括採用が日本では合理的なのです。

例えて言えば、政府が、お辞儀ではなくて、握手かハグがいいと言っても、やはり日本人にとっての主流はお辞儀でしょう。お辞儀を辞めろと言っても通ることはないでしょう。

「働き方改革」も、こうした視点に立って、何でも欧米流がいいというのは見直す方がいいと思うのですが如何でしょうか。