人の記憶というものは美化されやすいもので、特に自分はその傾向が強いので、全日本が「思い出」にならない内に思うところを書かせていただきます。
初めての遠征。初めての全日本。一言で言えば「力不足」を痛感した3日間でした。まずレース中。何かトラブルが発生した時に、説明してもらうまで何が起きたか分からない。分かってもその対処ができない。すぐに対処法を考え実践する先輩たちの姿を見て、ヨットの上では究極の自主性と問題解決能力が試されているのだと強く感じました。
ただ自分が力不足をより強く感じたのは、レース中よりもレース前の準備でした。端的に言うと、艤装が完璧ではない。レース中のトラブル対処ができないのもこれが主な理由です。出艇前にゆっくり確認しながらできるだけでは意味がない。レース中の時間が限られた状況で船を完全な状態に戻せるようにするには、艤装を身に染み込ませなければならないと思いました。
それ以外にも、前日練習中に不注意から危うくメインハリを抜きそうになったり、朝の準備で無駄な動きが増えた結果出艇が遅れ、他艇との走り合わせができないままスタートを迎えるなど、色々な点で足を引っ張ってしまったと思います。
ここまで書いて気づいたのは、いずれも他艇とのレースの前に、自分に負けているということ。艤装や準備に対する普段の意識の甘さが、慣れない場所、慣れない船でのレースで表れてしまいました。
チーム全体としても課題はあったんじゃないかな、と思います。艤装もままならないのに生意気なことを言うな、と思われるかもしれませんが、敢えて書かせてください。それは、全レースを通しての明確な目標がレース前に共有できていなかったのではないか、ということです。例えば神戸大に絶対勝つとか、何位以内を目指すとか。先輩方の中には何か共通認識があったのかもしれませんが、少なくとも最初のレースがスタートする時点で、自分は何を目指すのかはっきりとは分かっていませんでした。
知らない海でのセーリングはとても楽しかったのですが、結果的には神戸にも4点差で負けてしまい、色々な面で悔しさが残ったまま終わった、初めての全日本の舞台でした。
時は変わって1週間後、Pre Anioru’s cup。工藤さんが引退され、磯野さんの下5人で迎えた新体制初のレース。第2レースのスタート前に本船に衝突し、解消しないままフィニッシュして文字を付けたり、第5レース中にフォアステイが切れかけて最終レースに出れなかったりと、全体を通して完璧と言える内容では決してありませんでしたが、それ以外のレースで着実に結果を残し、何とか優勝することができました。表彰式後、「本当に優勝したのか…?」とどこか疑心暗鬼になりながらも、全員が勝った充足感を覚えていたのは間違いありません。ヨット部に入って初めて「勝つ喜び」を自分のこととして感じることができました。
そして僕は今、こう思います。この喜びを、この先何回も感じたい。3ヶ月後のAnioru’s cupで神戸にリベンジを果たし、学生日本一になりたい。その先のSYWoC(世界学生ヨット選手権)で、学生世界一になりたい。あわよくば社会人を含めた全日本で勝ちたい。
振り返ってみれば、ヨット部に入って7ヶ月、小網代に来てまだ2ヶ月。まだ分からないことだらけでチームの足を引っ張ってしまう場面も多々ありますが、成長した部分もあると自負しています。そもそも、1年生のこの時期からレースに出させてもらっていること自体本当にありがたいことです。
そして自分にはあと3年残されています。この3年で勝つ喜びを一回でも多く感じられるように、前進し続けます。
東京大学運動会ヨット部1年
クルーザー班 中野陽
P.S.
最近、「飛行機のパイロットの訓練みたいに、ヨットのシミュレーターがあったら平日陸でも練習できるのになぁ」なんてぼんやり思います。ただ、自分には何から始めたらいいか皆目見当もつきません…笑 このブログをどれぐらいの方がご覧になっているのか分かりませんが、良いアイデアがある方いらっしゃいませんか…?