守田です。(20160213 23:30)
北朝鮮によるロケット発射や核実験をいかに捉えるのかの最後に、こうした北朝鮮の行動を「脅威」だと過大に評価し、危機意識を煽ることで軍拡を進めてきた自民党歴代政権や、安倍政権とこそ対決すべきことを訴えたいと思います。
日本政府は北朝鮮のノドンなどのミサイルを含めたロケット開発や核実験をリアルな脅威だと思ってきたでしょうか。全く否です!
これには誰にも分かる重大な証拠があります。他ならぬ福井の原発銀座の存在です。日本政府は実は心底北朝鮮を信頼してきたからこそ、北朝鮮の鼻づらとも言えるような地域に原発を建て、ぶんぶん稼動させてきたのです。
そればかりかもっとも危険であり、技術的な困難にまみれている高速増殖炉もんじゅまで最も北朝鮮に近いところに作ってしまったのでした。
前回の記事で示したように北朝鮮が初めての核実験を行ったのは2006年です。そのときどれか一つでも原発を止めたでしょうか。あるいは原発に対する防衛態勢をとったでしょうか。全く否。理由は北朝鮮が原発を攻めてこないと確信していたからです。
私たちはこの日本の国の人々に、もう本当にこの点で、政府のペテンに騙されるのは止めようと大声で訴えなくてはなりません。今だってわざわざ北朝鮮の目の前の高浜原発を再稼働させているのですから。
実は日本政府は、北朝鮮が核カードを切る理由が、アメリカを米朝平和条約締結交渉に引き出そうとすることにあることを知っているのです。だから自国の滅亡を意味する軍事攻撃など実際にはしてくるはずがないとタカをくくっているのです。
そうでないならばPAC3ミサイルなんか配備する前に、大急ぎで使用済み核燃料を福井原発銀座から運び出しているはずです。いや事故があったら通常の原発の何十倍もの危機が発生するもんじゅをいち早く解体しているはずです。
北朝鮮の脅威など大嘘なのです。むしろ恐ろしいのは米軍です。実際にイラクに侵攻したのですから、同じように北朝鮮に侵攻することがあるかもしれない。そのとき東アジアが戦乱にまみれるかもしれない。いや実際にその危機は1990年代にもありました。
だからこそ日本を守るためにも、米朝平和条約の締結を可能にしていくことこそが最も重要なのです。そうすれば火種が無くなっていく。偶発的にせよ、戦争にいたりうる要因を除去することがこの国を守る本当の道です。
しかしそれでは軍隊と武器メーカーは困るのです。常に「適度な」軍事的緊張関係があった方がいい。時には戦争があって武器・弾薬の在庫が一掃された方がいい。平和の樹立だけは絶対に避けなくてはいけない。それが死の商人=武器メーカーの本音です。
だからこそ「北朝鮮の脅威」は格好な材料にされ続けているのです。
私たちは何とかしてこのことを北朝鮮にも知らしめなければなりません。北朝鮮は核兵器を抑止力とするとともに、アメリカに交渉を迫るカードにもしています。
「核兵器があるが故の優位」を歌い続けてきたアメリカは、核カードを切られると応じざるを得ないロジックを持っている。なぜって応じないと実はその分、核の政治的パワーを落してしまうことにもなるからです。
しかし同時に応じることで、喜ぶのは、平和条約締結をもっとも嫌ってる軍部であり武器メーカーなのです。その意味で北朝鮮は、核兵器でアメリカを交渉のテーブルに引き出そうとしつつ、一方で平和条約を阻む勢力を利しているわけです。
日本の現状を見るとそれが良く分かります。北朝鮮が核カードをちらつかせることを常に安倍政権は自らの軍拡に利用している。それは北朝鮮にとって脅威である在日米軍の基地を固定化することにもつながっています。
今回も、その象徴としてPAC3ミサイルの先島配備が行われました。もちろん辺野古の新たな米軍基地建設の策動と連動した動きですが、この点について琉球新報が説得力ある記事を掲載しています。少し引用したいと思います。
<社説>PAC3先島配備 優先すべきは外交努力だ
琉球新報 2016年2月5日 06:02
http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-216233.html
「ミサイル発射に乗じた自衛隊配備の地ならしなら許されない。必要なのは冷静な外交努力だ。脅威をあおることではない。」
「PAC3配備が本当に住民の安全確保を目的としたものか疑問である。なぜなら今回のミサイル発射にPAC3は役立たないからだ。
北朝鮮の計画通りならば、先島上空を通過する時点ではミサイルは大気圏外を飛行しており、PAC3は届かない。
仮に打ち上げに失敗し、空中で爆発し破片が落下したとしても対処はできない。PAC3はミサイルの発射地点や高度、方向から落下位置を予測して迎撃するシステムだ。破片の落下位置は予測できず、迎撃は不可能である。
軍事評論家の前田哲男氏は「打ち上げに成功する場合も失敗する場合もPAC3は機能しない」と指摘し、部隊展開の意図は北朝鮮の脅威の誇張と県民のために心を砕いている姿勢を示すパフォーマンスだと述べる。」
どうでしょうか。
ちなみにこの記事を僕は沖縄在住の物理学者、矢ヶ崎克馬さんに教えていただいたのですが、一読して当事者性をもった優れた分析だと思いました。
とくに「必要なのは冷静な外交努力だ。脅威をあおることではない」と端的に主張している点に沖縄のマスコミの先進性を感じました。
ただし「ミサイル」という断定を行っていることや、文章の末尾が「国際社会の連携で北朝鮮に自制を促すべきだ」と結ばれている点は残念なのですが・・・。
ともあれ私たちはこのように架空の「北朝鮮の脅威論」とこそ対決しなければなりません。「脅威と言うならなぜ原発を再稼働させるのだ」と即座に言い返さなくてはなりません。脅威論の真っ赤な嘘を暴きださなくてはいけません。
さらに進んで米軍の存在こそがアジアの脅威であり、一刻も早く米朝平和条約を締結するように日本政府は努力せよ、米軍はアジアから撤退せよという声を上げていく必要があります。
アジアにとって、そして私たちにとっての真の脅威である米軍基地の拡充や、安倍政権の軍拡とこそ対決し、私たち民衆の手で、アジアの平和を作り出していきましょう。辺野古の運動、沖縄の先進性に学びながらさらに歩んでいきましょう。
連載終わり
最後に琉球新報の記事の全文を貼り付けておきます。
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ミサイル発射に乗じた自衛隊配備の地ならしなら許されない。必要なのは冷静な外交努力だ。脅威をあおることではない。
北朝鮮による事実上の長距離弾道ミサイル発射通告に対し、中谷元・防衛相が破壊措置命令を出した。防衛省は地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を宮古島、石垣島に展開する。与那国島にも陸上自衛隊の連絡員を派遣する。
ミサイル発射通告に対し、安倍晋三首相は「国民の安全確保に万全を期すようにしてほしい」と指示した。しかし、PAC3配備が本当に住民の安全確保を目的としたものか疑問である。なぜなら今回のミサイル発射にPAC3は役立たないからだ。
北朝鮮の計画通りならば、先島上空を通過する時点ではミサイルは大気圏外を飛行しており、PAC3は届かない。
仮に打ち上げに失敗し、空中で爆発し破片が落下したとしても対処はできない。PAC3はミサイルの発射地点や高度、方向から落下位置を予測して迎撃するシステムだ。破片の落下位置は予測できず、迎撃は不可能である。
軍事評論家の前田哲男氏は「打ち上げに成功する場合も失敗する場合もPAC3は機能しない」と指摘し、部隊展開の意図は北朝鮮の脅威の誇張と県民のために心を砕いている姿勢を示すパフォーマンスだと述べる。
そのことは2012年に北朝鮮が「人工衛星」と称して弾道ミサイルを発射した時の対応でもはっきりしている。その時はPAC3と共に石垣島に450人、宮古島に200人の自衛隊員を配備した。
ところが、ミサイルが上空を通過する多良間島には数人の連絡員を配置しただけだった。
このことからも、ミサイル迎撃が目的ではなく、住民向けに「頼りになる自衛隊」の演出を狙ったPAC3配備だったと言えよう。
宮古島市、石垣市は現在、自衛隊配備の是非をめぐって市民の間でさまざまな議論が起きている。自衛隊に対する厳しい住民感情の払拭(ふっしょく)を意図したPAC3配備ならばやめるべきだ。
北朝鮮のミサイル発射通告は重大な国際社会への挑発であり、厳しく批判されている。しかし、挑発に乗って脅威をあおり、PAC3を配備しても問題の解決にはならない。外交努力を最優先し、国際社会の連携で北朝鮮に自制を促すべきだ。