守田です。(20160531 22:00)
米軍基地の沖縄からの完全撤去を求める考察の2回目です。
前回の分析で導き出したのは在日米軍の約4割ぐらいを海兵隊が占めており、その海兵隊の9割近くが沖縄におかれているということでした。
しんぶん赤旗掲載のデータから言えば、2013年末時点では、在沖米軍の63.9%が海兵隊だったということになります。
今回島袋さんを殺害した元米兵が海兵隊員であったことからも、沖縄に駐屯する米軍の約3分の2が海兵隊であることからも、この部隊の性格をここできちんと押さえておきたいと思います。
まずアメリカ軍とはどのように構成されているのか、その中で海兵隊はどのように位置づけられているのかを見ていきましょう。
ここではウキペディアでの論述を参考にしていきたいと思います。アメリカ軍の概要は以下のように論じられています。
「アメリカ軍とはアメリカ合衆国が保有する軍隊の総称である。陸海空軍の常備軍の他、国境警備を主任務とするアメリカ沿岸警備隊、対外戦争を主とするアメリカ海兵隊が存在する。
普段から連邦政府の指揮下にある連邦軍と、州の指揮下にあり戦時に編入される州軍、やはり戦時に編入される沿岸警備隊他、各省管轄の準軍事組織に大別できる。」
「陸海空軍及び海兵隊は6個の地域別、3個の機能別、計9個の統合軍 (Unified Combatant Commands, UCC, 旧略称COCOM)に編制されている。」(ウキペディア―アメリカ軍)
アメリカ軍は5つの軍によって構成されています。戦闘力の中心は空軍(US Air Force)、海軍(Navy)、陸軍(Army)、海兵隊(Marine Corps)の4軍。これに沿岸警備隊(Coast Guard)が加わります。
この4軍が6個の地域別、3個の機能別統合軍に組織されています。地域では北方軍(北米担当)、中央軍(中東担当)、アフリカ軍(アフリカ担当)、欧州軍(欧州担当)、太平洋軍(アジア、太平洋担当)、南方軍(中南米担当)。
機能では特殊作戦軍(特殊作戦担当)、戦略軍(核兵器と宇宙軍とサイバー軍を統括)、輸送軍(戦略輸送を担当)となっています。在日米軍は太平洋軍に属します。
ここまで見てすぐに分かることは、常備軍である空海陸の部隊が、本土防衛も外征も担当する部隊であることに対して、海兵隊は「対外戦争を主とする」ものと位置づけられていることです。
続いて海兵隊そのものをより詳しく調べてみたいと思います。概要は以下のように論じられています。
「アメリカ合衆国の法律に基づき、海外での武力行使を前提とし、アメリカ合衆国の国益を維持・確保するための緊急展開部隊として行動する。
また、必要に応じて水陸両用作戦(上陸戦)を始めとする軍事作戦を遂行することを目的とする。本土の防衛が任務に含まれない外征専門部隊であることから「殴り込み部隊」とも渾名(あだな)される。」(ウキペディア―アメリカ海兵隊)
歴史を紐解いてみると実は海兵隊は日本との戦闘の中でこそ大きな組織に膨れ上がったことが見えてきます。
というのは第二次世界大戦時、陸軍は戦略上、ヨーロッパ戦線に主眼をおいていて太平洋方面の戦いに消極的で、この方面の戦闘は海軍が主力となりました。その際、島嶼の制圧のための上陸陸戦部隊が必要であり、海兵隊が増強されたのでした。
以下、ウキペディアの記述です。
「第二次世界大戦時の海兵隊は太平洋を主な戦場として戦い、水陸両用軍団として参加したガダルカナル島、タラワ環礁、サイパン島、ペリリューの戦いを始めとするマリアナ諸島、硫黄島、沖縄などにおける日本軍との激戦の経験は、現在のアメリカ海兵隊の基礎となり、敵前強行上陸などでの活躍は海兵隊の存続に貢献した。」(ウキペディア―アメリカ海兵隊)
なんのことはない。沖縄戦にいたる日本軍との戦いで膨れ上がり、そのまま沖縄占領を続けているのが海兵隊だと言うわけです。
「殴り込み部隊」と言われる敵前上陸部隊ですから、もっとも多く肉弾戦で人と殺し殺される戦闘を行う部隊だということになります。
ただし最も人を大量に殺すのは空襲を行う空軍ですが、海兵隊は最も多く直接に人を殺すのです。銃だけではなく、ナイフや素手などでもです。そのため全軍の中でも最も一人一人の隊員が人殺しのすべを叩きこまれている部隊だと言えます。
実際、ウキぺディアの記述を読んでみても、この点の徹底ぶりが「兵卒」という項目に書きこまれています。人殺しになるための練兵についてです。ご紹介します。
「4軍の中でも最も訓練期間が長く、苛烈な練兵を行う。練兵では入営者の個性を徹底的に否定し、団体の一員として活動させ、命令に対する即座の服従を叩き込まれる。
ついて来られない者は容赦なく民間社会に投げ戻される。練兵訓練を修了した者のみが「海兵」と名乗ることを許される。
海兵隊除隊後に他の軍に入隊しても再度練兵訓練を受ける必要は無いが、他軍を除隊して海兵隊に入隊した者は、それまでの功績を問わず海兵隊の練兵訓練を受けなければならない。」(ウキペディア―アメリカ海兵隊)
新兵訓練が苛烈だということですが、その苛烈さの中心におかれているのが「個性を徹底的に否定」することです。
これがどんなものかを映像で教えてくれる映画があります。スタンリー・キューブリック監督による『フルメタルジャケット』です。ぜひ観ていただきたい映画です。ただし覚悟が必要です。
ちなみに「フルメタルジャケット」とは「完全被甲弾」のこと。弾芯が金属(メタル)の覆い(ジャケット)で覆われている貫通性の高い弾丸で、軍のライフルで使われているもののことです。
映画は二部構成になっています。前半は海兵隊員の訓練風景、後半はベトナムでの実際の戦闘風景です。この前半部分で徹底して個性を否定する教練が行われます。
その一部がネットにアップされていたのでご紹介します。
教官であるハートマン軍曹が訓練兵たちに演説をしているところです。
ハートマン軍曹
https://www.youtube.com/watch?v=dxLUtipeke4
字幕がついているものをご紹介したくて探したのですが、意訳のものしかでてきませんでした。
実はここには曰くがあります。この数分間の軍曹の演説がものすごいのです。何が凄いのかと言うと差別用語の連発で徹底して訓練兵たちをいたぶるのです。いたぶり続けながら「イエス・サー」と連呼させるのです。
この部分をはじめ戸田奈津子さんが訳されたそうですが、あまりに差別的なので意訳をしたのだそうです。しかし監督のキューブリックがそれをもう一度英語に直させ、ダメ出しをしたそうです。
かくして映画版やDVDなどではもとのセリフがそのまま反映しているのですが、とにかく人間の尊厳を冒す言葉ばかりです。
しかも特徴的なことは性的差別、性的罵倒、性的スラングがふんだんに出てくることです。性が人間の尊厳に深く関わっているからです。それを踏みにじるようにして「個性を徹底的に否定する」のです。
実は先週土曜日の「安保関連法に反対するママの会@京都」でこの部分を含む5分ぐらいを観ていただいたのですが、参加者一同、凍りついてしまいました。
そして多くの参加者が「どうして軍人になると人を殺せるようになるのか分からなかったけれど、今日、初めてそれが分かった」などと言ってくださいました。そのためにあえて観ていただきました。
(ちなみに会場に子どももいましたが血が出るような残虐なシーンはありません。字幕に踊るひどい言葉を読める大人だけが凍ります。ただし軍曹の剣幕がすごいので見ていてもちょっと怖いですが)
海兵隊の訓練の象徴としてミリタリーケイダンスというものがあります。走りながら全体で復唱する歌です。
これも字幕のない画像がありましたのでご覧下さい。
同じくハートマン軍曹が歌い、兵たちが復唱します。
Military Cadences USMC 1 2 3 4 I Love The Marine Corps.wmv
https://www.youtube.com/watch?v=oRKhGRfM8R4
これは実際に海兵隊で歌われていたもの。
歌詞を解説したサイトがありました。
■アメリカ最新流行歌(海兵隊の訓練歌)
http://www25.big.or.jp/~seiten/conviction/library/fmj/fmj_conversation2.html
冒頭はこうです。
Mama and Papa were laying in bed.
ママとパパはベッドでゴロゴロ
Mama rolled over and this is what she said;
ママが転がり、こう言った
oh,give me some...
お願い、欲しいの・・・
...P.T.!
しごいて!
P.T.とはフィジカル・トレーニングの略で、文字通り軍隊でしごくという意味とかけあわされています。
より調べてみたらこれでもまだ穏健な方で、こんなミリタリーケイデンスも歌われていました。
ナパームをガキどもに
村を爆撃 皆殺し
広場にナパームを落とせ
日曜の朝、敵が祈りに出かける途中に殺せ
学校のチャイムを鳴らせ
ガキどもが集まるのを見ろよ
M240機関銃は撃つ用意
クソガキどもをなぎ払え
訓練兵たちは毎日、毎日、こうした性的スラングもふんだんに盛り込まれた人格の罵倒を浴び、そのために「イエス・サー」と叫ばされる。
あるいはこんなざれ歌の復唱を繰り返させられ、それらを通じて、個性を、尊厳を、押しつぶされていくのです。そしてどんなひどい命令にも「イエス・サー」と応じることが強制される。
こうして平均的にはとても人殺しなんかできないアメリカの青年たちが、残忍な人殺しに変えられていくのですが、その際、性的な罵倒や差別的な言辞が使われるのはそこを傷つけることが最も人の尊厳を傷つけることになるからです。
そしてこうしたことが性犯罪に親和的な軍という組織を生むことにもつながっているのですが、それをしなければ人はとても残虐な殺人者などになれないのだという点に私たちは注目する必要があります。
こんな残虐な訓練を経て、実際にもっとも苛烈な戦場に投入され、直接的な人殺しを繰り返してきているのが海兵隊です。
そんなものが生活圏のそばにうようよしていることが沖縄のかかえる抜本的危険性なのです。
続く
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守田敏也 MORITA Toshiya
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[著書]『原発からの命の守り方』(海象社)
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[共著]『内部被曝』(岩波ブックレット)
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