可夢偉の走りにガッカリして、ちょっと作業をサボっておりました。笹原ペンさんから、またジャンクを多数送って頂きました。その中にあった腕時計ですが、おっと、私がブルーの文字盤が好きなのを知ってか1981年製のセイコーシルバーウェーブというクォーツ時計が入っておりました。電池を換えても不動でケースと風防ガラスは傷だらけという状態です。しかし、文字盤などはきれいですので何とかレストアしようと取り掛かったのでした。機械は、ステップモーターまでは動く状態で輪列の油切れと判断しました。ステップモーターのトルクは非常に弱いので、少しでも負荷が大きくなると動きません。で、めでたく機械は復活してただ今テスト中。傷の多いケースは荒研磨で傷取りをしたところ。純正の金属バンドは超音波洗浄をしてヘアラインの再生をしてあります。風防ガラスは本当のガラス製のため破壊して取り去りました。新しいガラスが入手出来次第組立をする予定です。
次も時計ネタ。私が高校に入る時に購入したセイコー5を入手したかったのですが、稀少な機種のようで、中々出会えません。そこで、基本のキャリパーとケース形状が同じ機種をやっと見つけましたよ。1967製セイコー5 DX(デラックス)6106-7000という諏訪精工舎の61系モデルです。私の時計はブルー(濃紺)の文字盤でしたが、当時のデザインの中ではケースのラグの部分の張り出し(エラ)が大きくラウンドして、リューズ位置は4時(当時は殆ど3時)でハック機能付きがお気に入りでした。私のものは21石でしたが、このモデルは25石です。当時流行っていたメッシュのバンドが付いていましたが、ちょっとヤレています。曜日が切り替わらないのと、すぐに止まってしまう状態。止まっても少しは動くわけだから、致命的な問題は無いと思います。文字盤の透明ニスが剥離気味ですから、いっその事、ブルーにリダンしようから?
さてと、本題です。ご常連さんのINOBOOさんから三光PENと只のPENが来ましたよ。三光PENの方は、裏蓋の状態が良くないので、EEのものに替えてシボ革を貼り替えて欲しいとのご要望ですが・・・そうは行かないのですねぇ。確かに、取り付くか付かないかと言えば付くんですよ。しかし、よ~く画像を見てくださいね。忙しかったので→入れてないですが、上が三光PEN(普通のPENも一緒)で下がEEの裏蓋です。巻き戻しボタンの位置を見てください。微妙に違うでしょ。PENの方は基本設計なので、丸いプレスの中心にボタンがありますが、EEの方は1mmほど外側に寄っているのです。これはEEの設計上の寸法の制約のためで、微妙に位置をずらして帳尻合わせをしてあるのです。よって、EEからの流用は出来ないのです。(機能は問題ないですよ)また、三光PENの頃の底部リベットはそれ以降と形状が異なり丸ナベの形をしています。
一先ず、三光PENの方は置いておいて、只のPENを先にオーバーホールしておきます。手垢にまみれていたので程度はあまり良くないかと思っていましたが、本体も洗浄してみると、あら、意外にきれいじゃん。シボ革のグレーは三光PENよりも少し明るい色ですが、ご覧のように明るくなりましたよ。
特に問題の無い個体で、シャッターユニットも問題ありません。本体に組み込んで行きます。
ほら、きれいですね。駒数窓は少しクラック入りで曇りがありましたが、研磨で再使用としました。樹脂のファインダーブロックは研磨してあるので光っています。レンズの状態も良好ですが、何故かシボリリングが固着気味で動きが重いです。全て分解して洗浄をして組立てます。
只PENは問題なく完成しています。こちらは三光PEN。初期の生産#1122XXですので、巻き上げダイヤルカバーは熱カシメタイプ。駒数カニ目ネジは正ネジです。と、ここまで分解して行くと・・このウェーブワッシャー?はあまり見たことが無いですね。このタイプのギヤには、ウェーブワッシャーは入らないと思いますが・・何度かの分解修理を受けているようですので、スプール軸辺りがオリジナルではなくて、駒数板高さの帳尻あわせをしてある可能性もありますね。完全なオリジナルではないと思います。
トップカバーを分離して観察します。遮光カバーはビニールテープで留められているのはご愛嬌です。対物レンズは樹脂製が使われていますので元々のオリジナル部品でしょう。しかし、駒数ガラスは後期のモールド品に貼り替えられています。接着の厚みが合わず、駒数ツマミと干渉して傷ついています。曇りも激しいので交換することにして剥離します。
トップカバーの〇は打痕の修正ご希望で、すでに修正したところ。シューの取り付けビス孔の1つが孔位置を修正されていますね。観察すると右側のD部分は削られてメッキが剥離していますので、ファインダーとの孔位置を合わせるため加工されたものでしょう。このような修正は過去にも確認していますので、これは後天的に加工されたものではなくて、工場での手直しと思われます。ファインダーブロックを他の個体から移植された形跡もありませんので・・
いろいろ観察の結果、完全にオリジナルの個体ではないとの判断で、底蓋部分にもへこみがあるため、底蓋の交換とグレーのリペイントをすることにしました。画像は、裏蓋から底部を分離したところ。光線漏れ防止に毛糸状の繊維を接着してあります。PEN-Sの初期頃までは、この繊維の他に、遮光紙も間に挟んで遮光対策としていましたが、中期以降は繊維が省略されて遮光紙のみとなります。さて、交換用の底蓋を見つけなければなりませんね。
ここで一つ突っ込みです。過去にO/Hをした同じくPENですが、使用して行くうちにチャージミスの症状が発生して来たとのことで帰っています。この場合、巻き上げカム付近の調整が外れたケースが殆どですが、その部分を再調整をしてシャッターテストをして行くと不安定さが残ります。シャッターを点検すると、レリーズボタンと連動する画像の部品。この↓部分が磨耗ぎみのため、チャージをロック出来ない時(カムのリフト量の関係で2回に1回)があることが判明。良品と交換して完治となっています。
では、戻ります。作業の進捗が遅いと思われるでしょうね。画像のように、シボ革を剥離しただけですが、これ、さらっとやっているように見えるでしょうが、シボ革を無傷で再使用しようとすると非常に困難な作業となります。三光の頃のシボ革はそれ以降の糸入りで補強された材質と異なり、ただの塩化ビニールのような材質で、すでに風化をしており、剥離しようとすると、わずかなストレスで切れてしまいます。ちょうど高松塚古墳の壁画を剥がすような感じね。慣れた私が作業をしても、慎重な作業を強いられますので時間が掛かるのです。皆さんは真似をされない方が無難です。
裏蓋ですが、リペイントの前に、交換する底蓋の調達をしておかなければなりません。で、下のものを使います。これはPEN-Sの初期のものです。形状やリベットの位置などは三光PENと同一ですので組立は可能ですが、じつは、板厚が異なります。三光PENの方は0.55mmでPEN-Sの方は0.65mmあります。三光PENの方はちょっと薄くて強度が頼りない感じですね。これでは軽い衝突でもへこんでしまいます。そこで、0.1mm板厚を上げた訳ですね。たった、0.1mmの差ですが、強度的には大違いでしっかりとしています。因みに両方とも、リベット孔は皿のリベット用に面取りをされたタイプで、リベットの強度は高いです。この後の生産では、ただの孔(リベットも形状変更)として加工の簡略化を計っています。強度は中央の三脚ネジ部で持っていますので、確かにそれほどの強度は必要はないのですが、初期設計の過剰品質というところでしょうか。
なぜかチャッチャと進みませんね。ボディ本体をリペイントしますので、付属の部品を完全に取り去って洗浄しますが、ここで、前面カバーのビスが固着しています。↑の上側は何とか緩めて外しましたが、観察するとビス孔のセンターが合っていませんね。しかも、カバーの端面をヤスリ掛けをした形跡があります。削っても合わないぐらい精度の出ていない部品ということ。下側は無理にビスをねじ込んでスリ割りを壊しています。それでも出っ張っていたため、ヤスリ掛けをしたためにビスのスリ割りが浅くなって緩めることが出来ません。
そうは言っても抜かないわけには行きませんので抜きましたが、こんなにスリ割りを削られては分解は困難です。私は、組立経験者ですので、この部品精度で組立てる作業者に同情します。「こんな部品で組めるか」と喧嘩したいところだったでしょう。これでは、いくら営業から催促されても量産が軌道に乗るはずがありません。
では、リペイントのための調色です。ペンのグレーは簡単そうに見えますが、製造時期や機種によってもかなり差があるのです。特に三光PENの頃の色が一番濃い目ですが、光線の加減で微妙に見え方の変化する単純な色ではありません。そこに、退色劣化が入って黄ばんでいますので非常に厄介です。と言うことで、現在、調色中。コンピューターによる色分解など出来ませんから、私の感ピューターです。三光PENの中でも、ロットや保管状態で色に差はありますので、程々で妥協します。
少し間が空きました。三光PENの色に苦労しました。PENのグレーと言っても、三光などの初期の色と少し後の普通のPENでは色味が違いますし、EE系のグレーはもっと明るいグレーになります。グレーという無彩色の色は、一見調色は簡単のように思えますが、そこに青味や黄味などの隠し味が混ざっていることと、塗装されてからの時間の経過が長く、顔料の退色や変色も混じった現状の色を再現することは非常に困難です。また、使用する塗料の顔料の性質もあって、計算どおりには発色してくれません。特に三光の初期のものは、グレーというよりは紺に茶が入っているような色で、ファインダーブロックや巻き上げダイヤルカバーのモールド色から見ても、それ以後のものとは明らかに色調は変化しているのです。大まかには、製造時期が新しいほど、明度の高い単純なグレーとしているようです。画像は青味が強く再現されていますが、実際の色は、もう少し黄色味を上げて、塗料の黄ばみを表現してあります。EEのグレーとは全く異なる色です。
作業が大幅に遅れ気味ですので少し急ぎましょう。搭載するシャッターをO/Hしておきますが、シャッター羽根を何か尖ったもので突いた形跡がありますね。擦動する部分ですが、まぁ、修正で大丈夫と思います。すべて分解洗浄のうえ組立して行きます。
スプール軸、スプロケット軸関係を組み込んでシャッターユニットを搭載しました。打痕のシャッター羽根は再使用と思い修正をしましたが、ここまでやって可哀想なので良品と交換してあります。例の前面カバーが合わないこと。苦労の末シボ革を貼り終えています。シボ革は洗浄してありますが、只のPENと比較するとグレーがずっと暗いことが分かります。経時劣化もあると思いますが、可愛いPENではなくて、本物のサブカメラとしてのコンセプトを感じるのです。
レンズを清掃して組み込んであります。後玉はコーティングは殆ど剥離されていましたが、レンズはきれいなので、後期のものに交換されている可能性もあります。ピントリングを留める剣先のイモネジのリング側のねじ山がバカになっています。この頃やPEN-Sの初期まではM1.4でしたので、何度かの分解でイモネジのスリ割りも破損することが大く、その後はM1.7に変更されましたので、今回もタップ加工のうえM1.7イモネジを使用しておきます。ピンセット先がM1.4イモネジ。比較すると大きさが結構違いますね。
底蓋を交換した裏蓋の内側。三脚ナットなど小物部品はオリジナルを使用してあります。しかし、底部を交換したことによって、開閉キーの掛かりが変化しますので調整が必要です。圧板も研磨をしてピカピカです。リベットの頭は三光PENの初期はカシメたままの頃もありますが、艶消し黒で化粧塗装をしておきました。
やっと完成です。トップカバーの駒数ガラスは新品としてありますが、その関連の部品は帳尻合わせ感があってちょっと怪しいですけど、今回はまぁ良いでしょう。再使用しました。(三光商事での加工も幼稚なため後年の改造か判定できない)この個体は、過去に何度かの分解修理を受けており、スプール軸などもオリジナルではなく寄せ集めの個体かも知れません。しかし、この個体が生き残るため、プロによる善意の修理と解釈したいと思います。グレー色の調色については、ファインダーのモールド色との差も考慮する必要がありましたが、果たしてこのモールド色が変化していないのか、或いは、本体との色の差は元々あった可能性も高いため、今回はファインダーとの一致はある程度無視しています。三光PENと言うことで、オリジナルを重視したい気持ちもありますが、この個体のように、その時代の修復を受けて生き残っていく個体があっても良いのかなとも思います。