今なにしてる         (トミーのリペイント別館)

カメラ修理などについてご紹介します。
富塚孝一
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自分と同じ歳の腕時計

2012年01月08日 21時59分05秒 | インポート

Dscf087295 正月の三が日もカメラ修理のお仕事をしていましたので、今日はお休みを頂きました。遅くなった初詣に行って来ましたよ。毎年と同じことをお願いしてお札を頂き、社殿修復寄付の芳名石に自分の名前を見つけるのが毎年の習い。あと何回見つけられるかなぁ。。帰ってからは自分の生まれた年に製造されたセイコー・スーパーのレストアに取り掛かりました。随分前に入手していた個体ですが、当時としては珍しいステンレスケースのため、外観はしっかりとしていますが、プラ風防には多数のクラックと黄ばみがあって、文字盤も状態は良くありません。最近気がついたのですが、秒針の尻尾が折れて無くなっているようです。現状は下地のメッキが露出していますが、裏側を観察すると、茶色の塗料が残っていますので塗り針だったのです。茶色というかマルーン色は当時、よく使われていた色調で、旧型国電のチョコレート色(ぶどう2号)などが代表例です。この針は修復したいと思います。

Dscf087354 機械だけにして見ます。セイコー・スーパーは1950年に発売されていますが、ケースから、この個体は1953年製と思われます。スーパー以前の機械は、秒針が小窓に表示されるスモールセコンドの新10Bなどでしたが、この機械は秒針も中心にある本中三針として設計された最初の機械です。時計のサイズは、時代と共に大型化する傾向にありましたが、この頃は10型(約23mm)として設計されていますので、非常に小さな機械です。資料によると、一番石数が少ない機械は10石となっていますが、この機械は、もっと少ないように思います。戦後の設計は、歯車を受ける受け(ブリッジ)の数を少なく設計してあるのが特徴ですが、三角形の受けが目に付きます。しかし、加工精度が伴わないため、歯車のホゾをセットして地板に留めようとすると、簡単には収まってくれません。56系など後年の機械であれば、受けを乗せれば簡単に収まってくれるのとは大違いです。ピンセット先のテンワにはチラネジが付いていますね。

Dscf087446 すべて分解したところ。この頃の時計は、デート機構や自動巻きなどの機能が無いため、部品点数としては意外に少ないのです。ただし、少ないから簡単ということではありません。精度のよろしくない部品を、如何にフリクションを少なく組んで行くかが腕の見せ所というところでしょう。

Dscf087544 超音波洗浄をしてから組み立てて行きます。香箱や輪列を組んでいます。この個体は、意外に極端な磨耗はないようで、この状態であれば、そこそこの精度は出せるかも知れません。自分と同じ時間を生きて来た時計と思うと、「お互いによくもまぁ生き伸びてきたね」という心境。戦友というか、なんだかいとおしい気持ちになります。これが、ガタガタのジャンクでしたら、自分もガックリです。

Dscf087673 すんなり組んでくれませんでしたが、何とか組み上がりました。テンプの振り角も大きく、姿勢差も少ないようで、フリクションは少なく組めているようです。秒針ですが、画像のように修復しました。ジャンクの針から尻尾の部分を切り出して、半田付けしたものですが、付き合わせですから強度は出ていません。触らなければ大丈夫という程度。それに焦げ茶色を調色して塗装をしましたが、ちょっと分かりづらいですね。もう少し、艶が有った方が良かったかも知れませんが、面倒なのでこれで行きます。文字盤は、真ん中がこの個体のオリジナルですが、この時代は、機械は同じもので、ケースのサイズを大型化して時代の流行に合わせていたのです。右端は真ん中より小さいことから、スーパーの初期の、ケースが薄いニッケルケースの時代のものでしょう。左端は後期の製品に使われた文字盤で、12型ぐらいのサイズがあります。

Dscf087879 受けの彫刻文字の色入れも茶色ですね。この受けが中々収まってくれず時間が掛かりました。無理をすれば歯車のホゾが折れてしまいます。テンプも元気に回転していますね。この分なら、確実に私よりは長生きして行くことでしょうね。後は、ケースの仕上げと風防を当時のデッドストック新品と交換します。