セイコー・スーパーはエージング中ですので、作業が進行しましたらUPしますね。その前に、キングセイコーの組立が控えているのです。で、カメラです。使い込まれて良い面構えのPEN-FT(B) #3177XXが来ています。これが中古カメラ屋さんの店内のように、カビ臭がプンプンしています。トップカバーに打痕もあって、こういうのは乱暴というのではなくて、性能一杯に使い込まれて来た個体というべきなんでしょうね。一応、作動はしますが、巻上げなどはかなり荒い印象です。おまけにシボ革が白っちゃけるぐらい手汚れがゴッテリ。使い込まれるのは結構ですが、愛機を汚くしておくのはきらいです。付属のパンケーキもヘリコイドグリスが抜けてスカスカですね。これはヘリコンドネジが短いため、このレンズの持病ですね。すべてやり直しになります。
過去に露出計ユニットを分離していますね。ハーフミラーは交換された形跡はありません。その他は、大掛かりな分解は受けていないようです。
古いグリスと外部から浸入したホコリにより、汚れは激しいですね。(画像ではホコリは写らないのです)特にギヤ類の磨耗は進んでいないようです。
古いグリスの付着したギヤ類はすべて洗浄します。古いグリスがついたままで再組立をすると、磨耗によって出た金属粉がギヤ類の磨耗を進めてしまうからです。
ダイカスト本体を洗浄後、モルトの貼り付けからスプロケット軸とスプール軸を組んで行きます。巻上げのカムが付いたギヤ軸です。洗浄、注油をしてあります。
と、ここまでは問題は無かったのですけどね。問題のシャッターユニットです。使い込まれた個体はこの部分に疲労が出ていますが、テンションシャフトをピンセットで振ってみると・・ガタガタですね。これは、中心のテンションシャフトにも磨耗はありますが、その外側のチャージギヤの軸受け部分が磨耗をしているのです。というか、チャージギヤがはまっている地板の孔も拡大していますね。この個体付近からはチャージギヤはナットによる組立式となっていますので分解交換は可能なのですが、地板も磨耗していますからね。画像をよ~く見てくださいよ。外周のブレーキリングまでガタにより振れているのが分かりますでしょうか? この軸の振れは、作動精度的には非常に困るのです。原因は、潤滑が切れた状態で長期に使い続けたため。ですかね。圧板を見てもフィルムのすり傷が多いですから、相当なショット数を撮ったものでしょう。メーカーとしては、ここまで使い込まれることは想定していない設計なんですね。今回はこのまま再使用とします。
オーナーさんからは「程度が悪くてすみません」とのことで「簡単な個体では面白くないですよ」と申し上げた手前ですが、ここまで使い込まれていると、ちょっと難儀ですわな。治せとの仰せであれば、どんな個体でも治しますけど、コストとの兼ね合いですね。①が問題のチャージギヤ。30万代に入ると真鍮のナットで組立式(それ以前はカシメ)となって、分解は可能になりますが・・②は困ったね。#1ギヤ軸の磨耗が激しいです。と言うことで、本来は寿命を迎えているユニットということです。その他、テンションスプリングも張力が低下気味ですね。オーナーさんからは、1/30以下が不調とのお訴えでしたが、テンションが落ちているとスローガバナーの利く低速域の作動がきびしくなりますね。
まぁ、何とか帳尻を合わせながら組みましたよ。ミラーユニット側のテンションも弱いというダブルパンチですから、如何にフリクションを無くして低速まで良好に作動させるかです。ちゃんと1秒も切れていますよ。隣りのセイコー・スーパーは1回のゼンマイ全巻きで、何時間作動するかのテスト中です。ただ今、2日目ですが、今のところテンプの振りも大きく、快調に作動しています。
で、トップカバーです。見にくいですが、巻き戻し側の角を上部から打撃を受けて(落下したのでしょうけど)陥没し、その影響で側面のターミナル取り付け部分が内側に変形しています。修正は試みますが、角の陥没は何トンの力を掛けても治りませんよ。完全は無理ですので費用は頂きませんが、クレームもお受けしません。その可能性のある方は最初からご依頼を頂かない方がよろしいです。リペイントの場合は、力技で無理に修正しちゃいますけどね。
38mmパンケーキに掛かります。ヘリコイドグリスが変質して抜けているため、ゴリゴリ感と思うとスゥっとダンパーが抜けてしまいます。構造的にヘリコイドネジ部が短いことと、外部からのホコリの浸入が容易のため、殆どの現存パンケーキは同じような状態でしょう。ヘリコイドは、すでに洗浄して新しいグリスと入れ替えたところ。回転は殆ど良好になりましたが、長く潤滑が悪い状態で作動させたために、僅かに擦れ感はあるかなぁ? という感じですね。その他の部品も手垢汚れが激しいので洗浄してあります。
レンズに大きな劣化も無く、まずまずの良品という感じですね。確かに薄いのは妙な魅力がありますけど、それを実現するために、結構無理しているなぁ、と思う部分もありますね。付属の純正レンズキャップが緩くなって脱落するので何とかして。とのお訴えですのでテレンプの貼り替えをしました。じつは、殆どのキャップは同じ状態のようで、先日も、貼り替えのご依頼があったばかりでした。皆さんでも充分に出来る工作ですけど、ご依頼があればお受けします。
じつは、オーナーさんと内緒のお話で作業をしていましたので遅れました。トップカバーの巻き戻し側角は、ほどほどに修正をしてあります。真鍮地の露出している使い込まれた個体が欲しかったとのことですが、確実に内部のメカも疲労していますので、そのリスクも考慮して個体を選ばなくてはいけませんね。しかし、何故かヤレたFT(B)にパンケーキは似合いますね。