まだPEN-Fが続くのですが、難儀な個体が続いたので他の作業が遅れています。そこで気分転換もあってPEN-D3をやります。お身内の形見だそうですが、D3でもEL仕様の#5100XXと後期の生産ですね。形見とのことですが、殆ど使用されていない個体ですが、残念なことに長期の放置で塗装が痛んでいますのでオリジナル仕様でリペイント仕上げをします。まず、困ったのは前面の文字リング。普通は強固に締まっていることは稀ですが、この個体は親の仇のように緩まない。Dなどと違って、雄ネジのリングがアルミ黒アルマイト製(Dは真鍮クロームメッキ)なので、噛み込み易い傾向にはあるけど、それにしても緩まない。化粧プレートなので無理な力を掛けて損傷は出来ない。こんな場合は内部の真鍮ビス3本をネジロックした接着剤が文字リングに付着していることが多いのです。無理は禁物。溶剤を流し込んでしばらくすると・・ご覧の通り外れてくれました。文字リングの裏にビスの接着跡があるのに注意。
ご覧のようにダイカスト本体の塗装劣化が激しいですね。勿論保管の条件も影響していますが、この頃の生産機はそれ以前の製品と比較して塗装の艶消しが強い傾向にあることはマニアの方はご存知だと思います。私のように塗装という観点から見ている者からしますと、これは単に艶消しの方がカッコ良いからではなくて、塗装品質を誤魔化すための処置だと思います。塗装は下地が大切ですが、この頃のダイカストの研磨は非常に雑で、研磨目がそのまま残っていることとダイカストの巣も確認出来ます。ダイカスト自体の品質基準も下げて塗装前の研磨にも時間を掛けない。その下地に塗装を施すと、従来の塗装艶では「粗」が目立ってしまうのです。そこでどうするか? 塗装の経験がお有りの方はお分かりだと思います。艶を落として目立たなくするわけです。その塗装膜も薄くなっていますけどね。結果的に殆ど未使用に近いボディーでもこの有様です。なぜこのようにしたか? それはコストダウンです。塗装はたぶん外注工場だったと思いますが、コストダウンの要求に、「それなら品質基準を下げて」ということでしょう。
今回は、オリジナルに忠実にというコンセプトですから、通常よりもかなり艶を落としてこの個体の艶に合わせて塗装してあります。それでも、オリジナルはワンコート仕上げですが、今回は研磨も含めて3コートとして塗膜の厚みを確保してあります。
オーバーホールを終えたシャッターユニットを本体に組み込んでいます。殆ど未使用のユニットですから全く問題はありません。当然未分解のユニットでした。
本体の組立てが完成するとシボ革を貼りますが、この頃の接着は比較的弱い接着剤となっていますので剥離は容易です。但し、裏蓋は従来の強力に接着するタイプのままです。この後の時代になるとEE-3などのように両面テープによる貼り付けとなりますので、テープの経時劣化によりシボ革が縮んでいるものが多いですね。幸い、この個体はのシボ革に縮みは発生していません。
トップカバーの裏側は腐食が進んでいますね。劣化したモルトが湿気により悪さをしているのです。全て清掃して接眼部分のモルトを再生しておきます。
湿気の影響でしょうか、Cds素子が不良となっており、露出計が不動でしたので、素子を交換して作動させています。画像はスイッチを入れて作動を見ているところ。その他、湿気のためレンズ先端部(シャッターリング)のダイヤカットが腐食していましたので腐食部分を軽く削り落とした後、研磨をして輝きを取り戻しておきました。これで新品同様のD3が復活しました。塗装部分をリペイントと気づく方はまずいらっしゃらないでしょうね。