九州のご常連さんからセイコーのEL370のオーバーホールが来ています。クォーツ腕時計が発売される前の数年間だけ製造された電池の力でテンプを作動させる電磁式の時計ですね。型番は3703-8010ですから、文字板系38mmで010はカレンダー付ということになります。製造年は1971年。
同じ型番の個体が2つですが、どちらもケースの傷が多く、研磨をご希望です。但し、研磨工場のような大型研磨機も技術もありません。小型のリューターなど電動工具も使用しますが、小径のバフで研磨力が強いと平面性が維持できません。試行錯誤の結果、手磨きしか方法がないと判断しています。問題は、ケース1つ磨くのに数日の工数を要するので、採算的に見合わないということです。基本的には自分の所有機のみでの作業としたいのです。
水ペーパーの番手を順に上げて1500番の研磨が終わったところ。深い傷が一点ほど残っていますが、これを消そうとするとオリジナルのデザインが変わってしまうので、ほどほどのところで止めておきます。そもそも、再研磨は削りしろの無い部分を無理に削るという引き算の作業ですので、なるべく削り量は少なくしたいのです。
軽くリューターで研磨をしてデッドストックの純正ガラス風防を圧入したところ。完璧を目指すといくら時間を掛けても終わりませんね。ほどほどにしておきます。
機械は370Aで、ゴールドの基板が高級感がありますね。コイルの基板を外したところ。
磁石の力でテンプを駆動して、アンクルを経てメカを動かします。電池、基板、テンプを覗くとメカは非常にシンプルですね。
電池をセットしてテンプが動き始めました。過去に分解整備を受けている個体ですが、調整はかなり外れています。
一応、文字盤側です。特に面白いところはありません。
コンデジでは、どうも光物が良く写りません。ケーシングをしたところ。普通の機械式に電池と基板を追加したような構造ですが、とにかく厚みがありますね。
同じモデルの2つ目は精神的につらい・・。しかも、こちらの方が程度が悪いと来たもんだ。裏蓋をリングナットで留める方式はネジ部が錆びやすく固着ぎみです。少し緩めるとこの汚れが出て来ます。
これだもんなぁ。結構つらい。
傷が深くて取り切れませんよ。
浅い傷はまだ良いのですが、打痕が困るのです。この個体は非常に乱暴に使われた個体で、本来は研磨をすべき個体ではありませんでした。まぁ、とにかく荒磨きは終了。オーナーさんが見つけて来た純正品の風防ガラスを取り付けますが、これがこの個体のオリジナルは僅かに中央が高いほぼフラットガラスですが、カットガラスに交換のご指示です。よく規格が分かりましたね。
これがオリジナルの風防ガラスです。腕時計組立ファンのご常連さんからは、「よくもあんなに傷だらけに出来るものだ」とメールを頂きましたが、本当ですね。ベゼルの傷も多いですが、かと言ってベゼルは圧入でストレスが掛かるので、どこまでも削って良いという訳にはいきません。実用品とはいえ、当時の価格で38,000円ほどする高級機ですけどね。親から物を大切にしろと言われて育った私としても、理解できませんね。まぁ、メーカーさんとしては消費してもらわないと製品が売れませんけどね。
カットガラス風防は、取り付ける角度があるので圧入には神経を使います。観察すると外周のカット量に差があるようでしたので、上下にバランスするようにしてあります。
オリジナルでも厚いケースですが、カットガラスの風防にすると、16mmに近いです。これ、腕にしますかね?
2つ目なのでサクサクと組んで行きます。輪列部分は非常に簡単な構造ですね。テンプ受けの下にスペーサーが入ります。
で、最後に純正のステンレスベルトの研磨とヘアラインを入れて、油脂汚れを超音波洗浄できれいにしてからケースにセットして終了。あ~終わった~。風防ガラスのカットが変わると時計の表情が変わるものですね。