「いいわ、迎えに行ってあげる。で、何時?」
「そうだなぁ。十時で、どう?先ず映画を観て、それから食事。その後は、・・。いいや、その時考えよう。」
玄関前での立ち話は、幾人かの住人の挨拶で中断された。”部屋に招き入れようか”とも考えた牧子だったが、さすがに思いとどまった。年下とはいえ、もう立派な大人である。仕事が待っているのも事実であり、少し独りで考えたいこともあった。
「いいわ、そうしましょう。で、どこなのアパートは?」
「うん。〇〇というコンビニ知ってるでしょ?あの角を右に折れて、二つ目の四つ角を今度は左に。まどか荘というアパートなんだ。」
喜々とした表情で、彼は身振りも大きく説明した。
「えっ?!ちょっと待って。まどか荘なら知ってる。二年前まで住んでたの、私。偶然ねぇ。管理人のおばさん、元気してる?うわぁ、懐かしいわぁ。そう、そうなのぉ。」
目を輝かせながら、牧子は彼を見つめた。まじまじと見つめる牧子に、彼は気恥ずかしさを覚えた。
部屋に入った牧子は、大きくため息をついた。仕事が待っているせいではなかった。牧子にとって、人生の岐路に立たされているといっても、過言ではなかった。もうすぐに三十路の声を聞く牧子に対し、田舎の両親から矢の催促が入っていた。
=もういい加減に帰ってきなさい。こちらには、お前のような娘でも貰ってくれるという男性が、たくさんいます。十年ですょ、そちらに行ってから。いい加減にしなさい。=
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