山の中腹を過ぎて樹木の間から市街地が見え始めると、そろそろ山頂に着く。
「あまり飛ばさないでね、ヒヤヒヤしたわ。
さっき、カーブに差し掛かった時なんか、もう少しでガードレールに当たるところだったわよ。
ホント、生きた心地がしなかったわ。ねえ、真理子ちゃん」
身振り手振りで後ろの真理子に話しかけ、同意を求めていた。
真理子は、さ程に感じていないようだったが「ええ、そうですね」と、短く答えていた。
確かに、助手席では恐怖心が倍加されるだろう。
そう言えば、途中から貴子のおしゃべりが止まっていた。
「ハイハイ、分かりました。どうせ、上り坂ではスピードは出ません。ご安心下さい」
三人乗りの状態では、速度を上げたくとも上がらない。
ギアはセカンドのままでアクセルを目一杯に踏み込んでいる。
エンジンの苦しむ声を聞きながら、(がんばってくれ)と祈るだけだ。
車はそんな彼の思いになんとか応えようと、坂を駆け上がっていく。
突然に前を走る普通車が減速した。
ブレーキランプが点いたわけではなく、ただ速度が落ちただけだ。
さほどに車間距離をとることなく走っていたために、急ブレーキをかける事態になってしまった。
その車の前方にまで気を配って運転している彼には減速する理由が分からない。
その普通車にしてみれば、彼に煽られていると感じたのかもしれない。
軽自動車ごときにという思いから、ブレーキを踏むことなく減速したのかもしれない。
それともアクセルを踏み込む力が、単に弱まっただけかもしれない。
慌てた彼を後目に、その車は力強く坂道を駆け上がっていった。
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