(二)かきかき
「からだはだるくないですか? いたくないですか? かゆい? はいはい、かきかきしましょうね。
はいそれじゃきょうも、ハッピーハッピー! 」
とにかくよくしゃべる女で、実にやかましいと言うのが、第一印象だった。
けれどもすこしも耳障りには感じられない。
それどころか、この声を聞くと癒やされる。
この声の言うことは、なんでも聞いてしまいそうになってしまう。
お世辞にも美人とはいえず、若くもない。といって、おばさん然としたところもない。
「お前、いくつだ? 婆あに用はないぞ。出て行け!」
憎まれ口を叩いた折に
「じょせいにねんれいのことをいうのは、ルールいはんだぞ。
おかあさんよりはわかいから、おねえさんにしてね」
と、軽くいなされた。
そして姉として認めてくれたからと、ごっちんこが始まった。
ほのかに匂う石けんの香が、波立つ心臓をおだややかにしてざわつく胸をしずめてくれる。
処方される薬など、なんの役にも立たない。
はるかにごっちんこが勝る。
不安な思いも苛立つ気持ちも、なにもかもがすーっと消えていく。
モノクロの部屋でさえ、フルーツ色に彩色された部屋に変わっていく。
薬をゴミ箱に捨てたときのこと、「かなしいわ、これは」と、涙目を見せられた。
以来、しぶしぶながらも薬を飲むようにした。
でそのあとは、決まって頭がもうろうとして眠りに入っていく。
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