いっそ会社内でと見わたすと、格好のふたりがいた。
ではどちらが……と考えたときに、岩田がまっ先に候補にあがったが、真面目すぎるのよねと打ちけす気持ちがわいた。
つぎに彼では? と考えてみたが、あまりに違いすぎる性格に思えてしまった。
考えあぐねた末に、真理子自身の気持ちを確かめることにした。
「もしもよ。もし真理子ちゃんが誰かとデートするとしたら、どんな子がいいかな」
特定の人物をさすのではなく、理想の男性像として聞いてみることにした。
しかし真理子の口からは「あたしなんか、だめです。そんなこと、考えられません」と、真理子の策略に気づいているのか? と疑いたくなることばが返るだけだった。
しつこく問いただしては貴子にたいする警戒心が生まれてしまうと考えて、しばらくは話題にしなかった。
そんな折に、もうひとりの事務員が平日に休ませて欲しいと願いでた。
理由を聞いても即答はせずにことばを濁したため「デート?」と聞きかえすと、顔を赤くしてうなずいた。
すると真理子が「あたしもしてみたいなあ」と漏らした。
そのことばを聞き逃さずにいた貴子の説得によって、やっと真理子から「それじゃあ……」と、前向きな気持ちを引きだした。
そして真理子の口からでたのは、「シンイチさんなら……」と、名字ではなく名前が出た。
「みなさんが、シンイチって呼ばれるので……」
あのふたりの初デートなのよと己に言い聞かせるが、どうしても胸に溜まったどす黒いおりが消えない。
こんな気持ちのままでは久しぶりのお出かけを楽しむことは出来ない。
派手な色の服でも着込めば明るい気持ちになるかもしれないと思う。
しかしそれでは真理子がかすんでしまう。
〝たぶんあの子のことだから白いブラウスと薄いベージュのスカートだろう〟と、思えた。
五月も中旬をむかえたいま、初夏をイメージした服装が良い、と貴子はかんがえる。
(わたしがコーディネートしようかしら)。
そう思いもしたが(出しゃばりすぎるのもよくないわね)と、真理子に任せることにした。
でなければ、デートの度に真理子の世話を焼かなくてはならなくなる気がしたのだ。
(それにわたしの趣味と真理子ちゃんのそれでは、違いすぎるだろうし)とも思えた。
(彼でも、鼻を膨らませて自慢するさ……)
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