(十)
医者はそう言う。しかし梅子の耳に届く赤子の声は違う。
“このままお母さんに知られることなく、静かに逝くつもりだよ。
心配しないでいいよ。ぼくが産まれたら、お母さん困るものね。
お父さんだって、歓迎しないだろうし。大丈夫、大丈夫だから。
二人を困られるようなことはしないから。
きっと、きっと、二人には迷惑をかけないから”
と、何とも健気なものだった。
或いは、梅子の心底の願いだったかもしれない。
まだ二十一歳の梅子にとって、女給としてやっと一人前になれた梅子にとって、赤子は厄介な存在でしかなかった。
少なくとも二十一歳の梅子は、そう考えた。
そして八ヶ月に入った途端、にわかに産気づいた。
「残念だよ、死産だよ」
医者の沈痛な言葉が梅子の耳に届いた時、その時初めて赤子を愛しいと思った。
「いや、先生! 助けてやって! 何とか生き返らせて!
あたし、お店辞めるから。真面目に働くから。
一生懸命、赤ちゃんを育てるから。
あたしの、あたしの赤ちゃんを助けて!」
医者はそう言う。しかし梅子の耳に届く赤子の声は違う。
“このままお母さんに知られることなく、静かに逝くつもりだよ。
心配しないでいいよ。ぼくが産まれたら、お母さん困るものね。
お父さんだって、歓迎しないだろうし。大丈夫、大丈夫だから。
二人を困られるようなことはしないから。
きっと、きっと、二人には迷惑をかけないから”
と、何とも健気なものだった。
或いは、梅子の心底の願いだったかもしれない。
まだ二十一歳の梅子にとって、女給としてやっと一人前になれた梅子にとって、赤子は厄介な存在でしかなかった。
少なくとも二十一歳の梅子は、そう考えた。
そして八ヶ月に入った途端、にわかに産気づいた。
「残念だよ、死産だよ」
医者の沈痛な言葉が梅子の耳に届いた時、その時初めて赤子を愛しいと思った。
「いや、先生! 助けてやって! 何とか生き返らせて!
あたし、お店辞めるから。真面目に働くから。
一生懸命、赤ちゃんを育てるから。
あたしの、あたしの赤ちゃんを助けて!」
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