(三)
母親が止めに入らなければ、いつまでも続いていただろう他愛もない口げんかだ。
私と連れの彼女は、顔を見合わせてくすりと笑った。
いやいや、私たちだけではない。
取り囲んで見守る人たちも、そして父親の隣で銃を打ち続ける青年もまた、くすりと笑った。
しかし当の父親だけは、真剣な顔をして打ち続けている。
今まさに、男の子が欲しがるウルトラマン人形に向けて、何発も何発もだ。
「やったぞ! 悟、落としたぞ。
どうだ、凄いだろ。」
苦笑いの店の親父から受け取る際の子どもの笑顔は、大きく鼻を膨らませて得意満面だった。
「あなた、いくら使ったの。
随分と使ったんじゃない?
ひょっとして買ったほうが安いんじゃないの。」
半ば詰るような母親の言葉に
「まあな。しかし父親の威厳が、この程度で買えれば安いもんだ。
見ろよ、悟の喜ぶ顔を。
店で買っても、こんなには喜ばないぞ。」
と、喜色満面に答えていた。
*わたしの一番好きなシーンです。
自分で言うのも何ですが、いけてると思うのですが…
昨今、父権の失墜が言われて久しいですが、昔の父親(筆者の父も含めて)は、結構威張っていました。
お母さんたち、ご不満もあるでしょうが、父親に空威張りをさせてやってもらえませんか?
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