手紙(二)
新一くん、覚えているかい。
二年生のときだったね。クラス替えで一緒になったぼくたちだったね。
ぼくが前できみが後ろだった。いや、ちがうか。となり合わせだったね。
何列目だったっけ? 真ん中あたりだったと記憶しているんだけど。
まだ卒業して五年だというのに、もう記憶があやふやになっている。
情けないね。
体調をくずして給食を吐いてしまったぼくのことを、席がとなり合わせたというだけで、きみは助けてくれた。
嬉しかった、ほんとに。君だけは信じられる、そう思ったんだ。
他人との交わりをわずらわしいものとして敬遠してきたぼくだけど、きみだけは唯一こころを許せると思ったんだ。
それで、きみとの友情を揺るぎないものにするために、へび女救出大作戦を考えたんだ。
じつを言うと、あの見世物小屋には以前にいちど行っているんだ。
そしてその時にもう考えていたんだ。
だけど信じてほしい。最初は、ほんとうに純粋にへび女の存在を信じていたんだ。
狼少年の話、覚えているだろう?
あり得ることだなんて、あんな子どもだましのことを信じちゃっていたんだ。
インドだったっけ?
先生のはなしで、どこかの駅で見つかったとかなんとか。
だからね、本当に助け出さなきゃ、と思ったんだよ。
けどね、2日3日と経つうちに、嘘だと思えた。
下見をしたんだよ、じつは。あの小屋での車座の光景も見ているんだ。
だまして悪かったよ。
(思いもかけぬ告白だった。信じられない思いだった。
と同時に、彼ならばやりかねないとも思った。
ぼくをだまして笑いものにするといった悪意のあるものではなく、彼が言うように親友としてゆるぎない友情をはぐくむための事件作り、冒険談にしようとしたのだと、しっかりと受け止められた。
うれしかった。ちびで太っちょの体型のせいで、いつもみんなから一歩遅れの動作しかできないぼくを、彼は「急がなくていいから」と待っていてくれた。
嫌いだった体育の時間も、彼のおかげで好きとまでは行かないかけれども、嫌いではなくなった。
そんなぼくが、いまでは背丈も伸びて太っちょの体型から脱出できたんだ。
高校の担任に勧められて入ったバスケットのおかげだ。
そして彼のおかげもあると思う。
「なにかの運動クラブに入ってみたら?」
たしかに、彼に声をかける者はすくなかった。
女子生徒からの声かけが、少なからずあったように思える。
でついでに、ぼくに対しても「元気?」という声かけを女子生徒がしてくれた。
案外そんなところから、男子からの声かけがなかったのかもしれない。
男子生徒たちの、やきもち?
ただ、上級生からは一目をおかれていた。成績優秀な彼のことだ、当たり前のことかもしれない)
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